「いつか逢いし緋色の桜」@管理人作品第10弾
2007/05/01 05:57 No.125
久しぶりのアップでございます。
大方の地域では、既に桜は散り、初夏の陽気となっていることでしょう。
北の国はこれからが春本番でございます。
今年の黄金週間は天候に恵まれ、例年より暖かいかも。
これまで皆さまに「萌え」をいただき、春に想いを馳せておりました。
これから管理人、本領発揮といきたいところでございます。(←ほんとにいけるのか……?)
では、お約束の小品をば。かなり散文くさい代物でございます。
※ 管理人作品は全て尚陽前提でございます。
- 登場人物 尚隆
- 作品傾向 ほのぼの(?)しっとり
- 文字数 1048文字
いつか逢いし緋色の桜
2007/05/01(Tue) 06:06 No.126
それを見つけたのは、偶然だった。いつもなら、気にも留めないはずなのに、葉のない枝に白い蕾をつける木に、ふと目を奪われたのだった。
白に近い薄紅の蕾に惹かれたのはわけがあった。もしかして、桜、なのかもしれない、と思ったのだ。蓬莱では普通に見られた桜は、こちらでは数少ない。尚隆はしばしその木を見やった。しかし、いくら眺めても、花に詳しいわけではない尚隆は、確信を持つことができなかった。苦笑を浮かべて溜息をつく。花開く頃にもう一度見にこよう、と尚隆はその場を立ち去った。
それから日が過ぎて、気づけば風が春の匂いを孕んでいた。尚隆は先日見つけた花を思い出し、こっそり王宮を抜け出した。
さて、あの花は咲いているだろうか。いったい、何の花なのだろう。久しぶりに気分が高揚していた。
件の木を見つけ、尚隆は思わず感嘆の溜息をつく。花開いたのは、ほんのり頬に紅を差した乙女のような、白い八重桜だった。その楚々とした初々しさに、尚隆は微笑を浮かべた。
それから、尚隆は毎日その花を見に通った。六太が、どこぞの女に現を抜かしてるんだ、と苦言を呈すほどに。極上の女だ、と応えを返すと、六太は盛大な溜息をついた。
桜は頬を染める乙女の如く匂やかに尚隆を迎える。日を追う毎に咲き誇るその花弁は、次第に色味を濃くし、艶麗に微笑んだ。その様はなまじの花娘よりも美しく、尚隆の心を捉えて離さない。尚隆は飽かず桜を見上げるのだった。
薄紅色から緋色へと、満開を迎えた桜花は艶やかさを増していく。初々しい乙女が、妖艶な美女へと変貌するように。
そして、小さな葉が出始めて、桜は盛りを過ぎる。春の悪戯な風に弄られて、八重の花弁ははらはらと散り行く。舞い散る緋色の花びらは、別れを惜しむ桜花の涙のように切なく美しかった。
艶麗な姿で視線を奪いながらも毅然と立つ八重桜。楚々とした乙女のような蕾を艶やかな美女の如く花ほころばせ、尚も媚びることのない緋色の桜。散り際さえも美しく、誇らかな桜花。
いつか、こんな女に巡りあえるだろうか。
舞い散る花びらの雨に打たれながら、ふとそう思った。桜のように凛然とした美しさを持ち、艶やかに咲き誇りながら阿ることなく、散り際も潔く麗しい。
そんな女が存在すれば、己はひと目で惹かれるだろう。
そう思いつつも、首を横に振った。これほど見事な女など、現実に存在するはずはない。そうして尚隆はいつまでも艶やかな緋色の桜に見入った。
それは、延王尚隆が己の運命の女と定めし麗しき紅の女王に巡りあうよりも、かなり前の出来事であった。
2007.05.01.
後書き
2007/05/01(Tue) 06:17 No.127
先日、法事で実家に帰ったとき、久しぶりに特急列車に乗りました。
その際、車内誌に載っていた、松前は光善寺の「血脈桜(けちみゃくざくら)」に心奪われました。
樹齢300年にも及ぶ「南殿(なでん)」という種類の八重桜でございます。
「薄紅色から緋色へと色を変える」という記述に惹かれ、調べてみました。
かなり有名な桜らしく、色々な写真が出てまいりました。
確かに、咲き始めは白いのですよ。それが、葉が出る頃にはかなり濃い色になっております。
ほう……と溜息をつき、写真を眺めては妄想を膨らませてしまったのでした。
どうもお粗末さまでした。
2007.05.01. 速世未生 記
読ませていただきました。 griffonさま
2007/05/01(Tue) 17:52 No.129
桜を愛でる尚隆が、それに見合う・・・それ以上の女性に出会う。
自分ちの街中では見ることが無くなって久しい妖魔を相手にする陽子を見たときの尚隆の驚きの、
本当の理由がこの桜にあると言うのも、面白いなぁと。
こう言う裏を妄想するのは、二次の醍醐味ですね。
血脈桜、北海道は松前ですよね。
一瞬あれ? 近所に光善寺なんてあったっけと考えて・・・これは松前(マサキ)ではなくて、
松前(マツマエ)だと気づきました。四国にも、松前と言う地名があるんです。
光善寺はたぶん一度行ってるはずなんですが・・・桜の時期ではなかったので、
印象が薄いのかなぁ。
また行く機会があれば、未生様のSSを思い出しながら、桜の時期にみてみたいです。
祝☆桜開花 in北の大地 けろこさま
2007/05/01(Tue) 20:52 No.130
やっと北国にも桜の季節が届きましたねv
玄関から会場まで全てお祭仕様になっているところに、未生さまの喜びが垣間見えます。
この調子で、さくさくっと本領を発揮してくださいませ(ニヤリv)
未生さまが心奪われたように、尚隆は桜に恋をしたのですね。
それもとびっきりの桜の女神に。
陽子に一目惚れした理由がこんなところにもあるのだとしたら、
実はとっても尚隆って一途だったのね(笑)と思っちゃいました。
「南殿」は大阪造幣局にも植えられていて、通り抜けにも行ったことがあるのですが、
人の多さと花の種類の多さで記憶に残ってないです。
「御衣黄」や「鬱金」のように色が黄色や黄緑の桜はめずらしくって覚えているのですが…
今年は行かず終いでしたが、忘れず来年は一目見に行ってみようかなぁ(←鬼の笑うようなことを…)
ありがとうございます 未生(管理人)
2007/05/02(Wed) 06:26 No.131
せっかく暖かくなったかと思ったら、今日は大嵐でございます。
春の女神は気紛れで困りますね〜。
拙い小品にご感想をありがとうございました! 励みになります〜。
>griffonさん
わあ、またまた自分の「当たり前」度に衝撃を……。
はい、北海道松前町(まつまえちょう)は光善寺(こうぜんじ)でございます。
四国は愛媛県に松前(まさき)という町があるのですね!
所違えば読みも違う。世の中知らないことだらけで恥ずかしいです〜。
教えてくださってありがとうございました!
拙作から二人の出会いを思い浮かべてくださってありがとうございます。
そうです、裏や行間を読んでいただけると、物凄く嬉しいです!
実はそういうところに想いを籠めまくっておりますので。
そして、そんなふうにご反応いただけると、ますます調子に乗って妄想を進めてしまう。
現金な管理人でございます。
>けろこさん
はい、桜前線が間近に迫り、妄想も少し疼きだしているところでございます。
上手いこと抱え込んでいる本編も纏めてしまいたいです。
「桜に恋する尚隆」、一途かしら?
遊び慣れていながら誰にも心許すことなかった尚隆だからこそ、こんなふうに理想の女がいるのかも、
との拙い妄想でございました。
尚隆について語りだすと止まらなくなりそうなので、この辺にしておきます(笑)。
う〜〜ん… けろこ さま
2007/05/03(Thu) 23:32 No.134
一途? 理想が高い? 純粋? 健気?
どれもチョットなんだか違う……
上手く丁度良い言葉が見つかりません。語彙が少ないものですから(諦泣)
ただ、桜に恋をして、その桜に重ねた理想の女性とめぐり合うまで
本気になることがなかったというところが、カワイイな〜と(笑)
ネットで「血脈桜」のことを少し調べました。
尚隆じゃないですが、色の移り変わりを咲き始めから散るまで傍で見たくなりました。
でも2週間もなぁ……
血脈桜 未生(管理人)
2007/05/04(Fri) 06:25 No.135
けろこさん、いらっしゃいませ〜。
「血脈桜」を調べたのですね。私も同じです。
花開いてから散るまで、じっくり鑑賞してみたいです。
でも、2週間の滞在は難しいですよね(溜息)。
長旅でへろへろ気味の管理人でございました。