花想う者たちの願い
2007/05/11(Fri) 18:43 No.156
夜の庭院を見下ろす回廊に、女史と女御が気配を殺して佇む。そして、見事に咲き誇る桜を眺める女王と客人を密かに見守っていた。報せを受けてやってきた冢宰浩瀚は、そんな二人の様子に微笑した。
「──二人とも、とうとう風の御方に降参したのか?」
反射的に振り返った二人の娘は、浩瀚の姿を確認し、ほっと息をついた。
「浩瀚さま、びっくりしましたわ」
「黙って近寄られるなど、お人が悪い……」
庭院で語らう二人に気づかれぬよう、女史と女御は声を低めて応えを返す。浩瀚は密やかに笑いを零した。
「それは済まなかった」
「──降参したわけではありません」
けれど主上が、と言いかけて、二人の娘は俯いた。浩瀚はその先を促す。
「主上が、どうされたのだ?」
「主上が、声を上げて笑うなど、何年ぶりでございましょう……」
女史祥瓊はそう告げて紫紺の瞳を潤ませた。女御鈴は黙して滲む涙を拭う。主の笑い声に免じて、二人きりで夜桜を見たい、と所望した風来坊の太子を妨げることをしなかった。女史はそう述べた。
「──そうか」
一言返し、浩瀚は庭院で夜桜を見上げる主に目を移す。この時期はいつも桜との世界に閉じこもる主は、気紛れな客人に懐かしげな笑みを向けていた。
「──風の御方に感謝しなくてはいけないな」
笑みを浮かべて言い残し、浩瀚はその場を去る。女王の友たちは大きく頷き、深く頭を下げ、同じ想いを噛みしめる冢宰を見送った。
2007.05.11
後書き
2007/05/11(Fri) 18:52 No.157
今日は「桜」と名づけたMDをずっと流しておりました。
その中で、一青窈の「ハナミズキ」が私にとって浩瀚のテーマ・ソングでございます。
(浩陽派の方々、ごめんなさい! 石をぶつけないでくださいね!)
そして、河口恭吾の「桜」が利広を思わせ、ソウルヘッドの「ANATA」で
陽子の心に想いに馳せる……。
舞い散る桜は切ない想いばかりを誘います。そろそろ今年の「桜」も終わりです……。
2007.05.11 速世未生
そうですよね(苦笑) 未生(管理人)
2007/05/13(Sun) 05:33 No.166
けろこさん。ご感想ありがとうございます。
(ごめんなさい〜、お名前を打ち間違えるなんて……。大変失礼いたしました!)
拙宅の浩瀚の想いを的確に読み取ってくださり、ほんとにありたく思います。
実は、この後、浩瀚独白を少し書いたのですが、纏まらず……。
コブクロの「桜」を聴きながら、「皆さまのお心にお任せしよう」と思い至り、ばっさり切りました。
皆さまが「心に抱く桜」は実に様々でしょう。
今回お寄せいただいた色々な「桜」を拝見し、そう実感いたしました。
それくらい「桜」は愛されている花。
そして、私も今まで漠然と見ていた私自身の「桜」を再確認いたしました。
私にとって「当たり前の桜」は全国的には珍しいものだ、と知ったときの衝撃といったら!
──ゆえに、読んでくださる皆さまのご想像にお任せすることも必要かしら、
と思った次第でございます。
拙い作品が皆さまのお心にどのようなものをお届けしたか。
それを教えていただくことは、私にとって至福の喜びでございます。
いやはや、本文よりも後書きや解説のほうが長いとは、笑っちゃいますね。
読んでくださってありがとうございました!