花想う者の胸の内
2007/05/17(Thu) 09:59 No.193
ほんとうによかった──。
主の笑顔を胸に浮かべ、浩瀚は万感の想いを噛みしめながら回廊を歩く。かの方が登遐してからずっと、主を見守ってきた。痛々しいほども王であり続けようとする女王を。
主の支えになりたい──。
そんな願いが叶うはずないと、浩瀚には分かっていた。それでも、その想いを捨てることはなかった。しか
し──。
気紛れに金波宮を訪れては、伴侶を亡くした女王に求愛する風来坊の太子。主はそんな客人をいつも鷹揚に迎え入れる。周囲の心配をよそに、無邪気な女王は無防備な姿を曝すのだ。
並みの者ならば、無意識に放たれる紅の女王の威光に、なす術もなく頭を垂れる。しかし、大国奏の太子である卓郎君利広は、難なくその防御を越える。女王の友であり側近である女史と女御は、気儘な貴人が現れるたびに神経を尖らせていた。そしてそれは、宰輔景麒も冢宰浩瀚も同じであった。
登遐した隣国の王と同じ匂いのする風来坊を見つめる主の瞳は複雑な色を醸していた。その風を迎えると、切ないような、懐かしいような、そして、いたいけな少女のような笑みを、主は無防備に曝す。
それは、武断の女王が、普段、見せることのない
貌──。
胸に謂れない痛みを感じ、浩瀚は足を止める。小さく息をつき、ゆっくりと首を振った。
己にできることをしよう。
どの窓からも目に入る桜に、浩瀚は切ない笑みを向けた。
2007.05.17.
後書き
2007/05/17(Thu) 10:04 No.194
#156「花想う者たちの願い」を書いたとき、ばっさりと切った浩瀚の独白でございます。
拙宅の浩瀚は、どうしてこう……報われないのでしょう。
(作者の私が言うな、と叱られそうですが……)
なんだか、多くを語れません……(溜息)。
2007.05.17. 速世未生 記
そうなんです…… 未生(管理人)
2007/05/18(Fri) 05:16 No.197
けろこさん、いらっしゃいませ〜。ご感想ありがとうございました。
そうなのです、書いてみるまで、解らなかったです。
浩瀚の、尚隆に対するときと利広に対するときの想いが、こんなに違うってこと……。
だから、多くを語れないのかもしれません。(なんだか、意味不明でごめんなさい!)