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桜の呟き@管理人作品第1弾

2008/03/21(Fri) 16:31 No.1
 祝! 桜開花
3月22日、気象庁により東京・静岡・名古屋・熊本でのソメイヨシノ開花宣言がなされました。 待ちに待った桜がとうとう開花いたしました!
 管理人が留守中だったため、1日遅れてしまいましたが、2008「十二国」桜祭、開催でございます。
 投稿掲示板へようこそいらっしゃいました。 皆さまのご参加を心よりお待ちいたしております。
 投稿の見本も兼ねて、管理人作品第1弾を投下いたします。 よろしければお楽しみくださいませ。

※ 管理人の作品は全て尚陽前提でございます。

桜の呟き

2008/03/21(Fri) 16:38 No.2
 柔らかな陽射しが深い眠りを浅いまどろみへと誘う。暖かな風に誘われるままに心地よくたゆたう。そして、目覚めのときがやってきた。
 視線を感じる。男が見上げていた。いつから見ていたのだろう。どこからやってきたのだろう。首を傾げていると、ひとつ大きく頷いて、男は破顔した。
「──お前に決めた」
 真っ直ぐな瞳。楽しげな貌。朗らかな声。この男は、見下ろすこちらをも高揚させる。
「また来る」
 やがて、騎獣に跨った男は、現れたときと同様に、唐突に消え失せた。梢を渡る風の如く。唖然としつつ、笑みを浮かべた。

 ──またおいで。待っているから。

 風が春の匂いを孕む。行きつ戻りつ、季節は移ろう。降り注ぐ暖かな陽射し。解放の時季が訪れる。柔らかな風に促され、最初の蕾を解いた。
 そして桜は春を寿ぎ高らかに謳歌する。厳しい冬を乗り越えたからこそ訪れる、この至福の時。伸びやかに、大らかに、待ちわびた季節を満喫した。
「──美しいな」
 感嘆の溜息が聞こえた。あの男が、見上げて笑みを見せている。花開いた桜は、誇らしげに男を見下ろした。男はおもむろに語る。
「お前を、見せてやりたい者がいる」

 ──連れておいで。待っているから。

 桜は枝を揺すって笑った。その声が聞こえたかのように、男は大きく頷き、破顔した。
 一度立ち去った男は、娘を連れて再び現れた。鮮烈な緋色の髪を翻して降り立った娘は、翠の瞳を見開いて見上げてくる。
「──美しいだろう?」
「うん……」
 男は娘に話しかけ、満足げに頷いた。それから二人は桜の根元に腰を下ろし、飽かず花を眺めた。風が吹くたびに舞い踊る花びらに手を伸ばしながら。

 それから毎年、男と娘は現れた。佳氈と弁当を持参し、二人は終始和やかに花見を続ける。その他愛ないお喋りに耳を傾けるひとときは、桜にとっても楽しいものであった。
 去り際に、娘はいつも名残惜しげに振り返る。桜はそのたびにそっと呟いた。

 ここにいるよ。また来年もおいで。待っているから──。

2008.03.18.

後書き

2008/03/21(Fri) 16:47 No.3
 語り手は「桜」でございます。品種は敢えて想定しておりません。 ご自由にご想像くださいませ。
 ──けれど、この桜は、連作「花見」にて尚隆が見つけてきた慶の桜でございます。 桜も愛でられてより美しく花開くのだろうか、との妄想でございました。お粗末でございました。

2008.03.21. 速世未生 記

素敵な第一弾をありがとうv けろこさま

2008/03/22(Sat) 18:06 No.4
 暖かくやわらかな春の風が吹き抜けていきます。
 読み終わった瞬間、ほぅ〜っと溜息が零れました。
 春を寿ぎ、優しく咲く桜の姿が見えるようです。

 この桜が、二人がずっと訪い続けた「桜」なのですね?
 で、この話がその初め。
 ……と、いうことは、、、、
 「慟哭」の桜視点も有り?
 娘が一人で訪れ泣いていたことと、その後二人が二度と現れなかったこと、 に対する「桜の呟き」も聞いてみたいですね。

ご感想御礼 未生(管理人)

2008/03/23(Sun) 19:16 No.7
 けろこさん、いらっしゃいませ〜。
 早速のご感想をありがとうございました。 冬将軍が暴れまくっている中、ラジオからは、「桜」の新曲が……。 遠い春に想いを馳せながら仕上げた小品でございます。 「春」を感じてくださってありがとうございました。
 北の国の桜が散るまでに、陽子の「慟哭」を見つめる「桜の呟き」も 纏められたらよいなと思います。 (──かなり痛いかもしれませんが/汗)
背景画像「さららのアトリエ」さま
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