桜の囁き@管理人作品第12弾
2008/05/09(Fri) 05:53 No.324
ラストスパート。由旬さんのほほえましいイラストの上に置くのもなんですが……。
管理人、本領発揮の末声小品でございます。
いったいどれだけかかってるんだ、の中編「慟哭」桜視点、よろしければご覧くださいませ。
管理人作品第一弾、#2「桜の呟き」の続編でございます。
※ 管理人作品は全て尚陽前提でございます。
- 登場人物 陽子
- 作品傾向 しみじみ(末声直前注意!)
- 文字数 919文字
桜の囁き
2008/05/09(Fri) 05:58 No.325
ある年ある早春の日、蕾をつけたばかりの桜は、まどろみの中にいた。春はまだ浅い。目を覚まし、蕾を解くまでには、もう少し暖かな陽射しが必要だった。
花開いたならば、またあの二人に会えるだろう。男と娘が楽しげに語らい、満開の桜を愛でてくれるのだろう。桜は浅い眠りの中でそんな幸せな夢を見ていた。が──。
己に凭れかかる温かいものを感じ、桜は目覚めた。見下ろすと、紅の髪の娘が独りで桜を見上げていた。娘はくしゃりと顔を歪め、桜に縋って身も世もなく泣いた。その、空気をも震わせるような慟哭に、桜は驚愕した。
何があったの。どうして独りなの。まだ、花は咲いていないのに。
桜の問いかけは、娘に届かない。娘はただただ泣くばかりであった。
早春の未明、梢を渡る風はまだ冷たい。その風に緋色の髪を靡かせて、娘は泣き崩れる。桜の幹にしがみつき、悲痛な声を上げて──。
花を見せてあげたかった。けれど、まだ蕾を解く時季ではない。今の桜には、己の幹に身を預けて泣き続ける娘を癒すことも慰めることもできないのだ。桜は己も哀しい気持ちになった。
やがて娘は桜に凭れ、眠ってしまった。せめてよい夢を見れますように。桜は娘のために祈った。そして、姿を見せない明朗な男のことを思った。
あの男は、どうしたのだろう。何故、娘を独りで泣かせているのだろう。満開の桜を、娘に見せたいのだ、と笑っていたはずなのに──。
日が落ちるまで桜と過ごし、娘は去っていった。迎えに来た、桜の知らぬ金色の髪の男と共に。
去り際に、娘はいつものように桜を振り返った。けれど、その瞳に名残を惜しむ色はなかった。やがて、騎獣に跨った娘は決然と前を向き、二度と振り返ることはなかった。それでも桜はいつもの如く囁いた。
ここにいるよ。またおいで。待っているから──。
時は移ろう。暖かな陽射しが、柔らかな風が、桜を促す。桜はいつものように蕾を次々と解いていった。しかし。
満開に花咲かせても、男も娘もやってはこなかった。次の年も、またその次の年も──。
それでも、桜は毎年毎年美しく花をほころばせた。あの二人が、ふらりと現れることを願い。桜は囁く。
ここにいるよ。いつか、またおいで。ここで、いつまでも、待っているから……。
2008.05.08.
しんみり 由旬さま
2008/05/10(Sat) 00:38 No.337
何て健気な桜でしょうか。
桜にとっても、二人は癒してくれる存在だったのでしょうね。
言葉を話せない分、毎年咲き続けることで、桜は二人への思いを語っているのだと感じました。
うう、陽子を慰めようとする所、本当に哀しいです。
ご感想御礼 未生(管理人)
2008/05/10(Sat) 06:37 No.348
未だあまり語れません。
ひとりで祭をやっていると、ずっとこんなふうになってしまうのだろうなぁ……。
そんなわけで、皆さまのご参加がほんとうに元気回復の源となります。
改めて御礼申し上げます。ありがとうございます!
空さん>
涙を誘いましたか。私も涙なしでは書けませんでした……(泣)。
桜のその後を思い浮かべてくださってありがとうございます。
けろこさん>
桜は風が梢を揺らすたび溜息をつくのかもしれません。
それでも毎年美しく花開く……。私も切ないです。
由旬さん>
はい、桜にとっても二人は癒しの存在だったのだと思います。
陽子を慰めようとする桜、毎年健気に咲き続ける桜……。ほんとに哀しい存在です。
桜と陽子の再会も頭に浮かんでおりますが……痛いので持ち越しになるかもしれません。
どうぞ気長にお待ちくださいませ。