使令労組の春(空さま)
使令労組の春 空さま
2008/04/25(Fri) 22:10 No.190
これは、けろこさまのNo110の四コマ漫画につけられた、由旬さまの感想の中の「使令労組」と
いう言葉に反応してしまって書いたものです。
原作とは全然違います。
内容も何もないんですが、ちょっとした一こまとご理解下さい。
使 令 労 組 の 春
作 ・ 空さま
2008/04/25(Fri) 22:21 No.191
「年度も変わったし、新しい分会長決めねぇとなぁ〜」
独り言をいっている使令がいる。ぼやいているのは重朔だった。
彼は、昨年度の分会長だ。
ここ、使令労組の慶国分会では、毎年3月から4月にかけて、人事を変更する。
かつては大変な押し付け合いになってお互いぼろぼろになったものだった。であるから、まあ月並みな考えではあるが、結局順番で分会長をやることに決まったのだ。なんだか、そのときから随分経つような気がする。
「おい、次は誰だっけ?」
重朔が尋ねるが、誰も返事をしない。
「雀瑚じゃねえか?」
「……」
「なんだよ、何とか言えよ!」
重朔は雀瑚にデコピンしようと額に指を近づけた。
「止せよ、雀瑚は無理だぞ」
遁行を解いた驃騎が、間に入った。
「あれ? 次は驃騎か??」
「ちがう、俺は去年やった」
「じゃあ、班渠?」
「俺、その前。一昨年やったよ」
「なんだよ〜、じゃあ冗祐か?」
重朔は腕組みをして考えた。
「そう言えばあいつが最初に分会長だったんだよな」
重朔がつぶやく。
「そうだよ! いつも主上に憑いているから、折衝するにはちょうどいいって言う話になったんだぜ?」
班渠が頷きながら発言していた。
「ああ、そういえばそうだ。主上が雀瑚は話が苦手だから、分会長は免除してくれって言ってたし、冗祐だよ、今度は」
驃騎も同意していた。
「よし、じゃあ次は冗祐が分会長だ。ところで、あいつどこ行ったんだ?」
重朔はあたりを見回した。
「じゃっこ!」
「ん? どうした、雀瑚??」
驃騎が優しく雀瑚に問いかけると、その小さな使令は、一生懸命訴えだした。
「ちい、ちちちちい、じゃ、じゃじゃ、ちい、じゃっこ……」
「はあ、なるほど。今日は冗祐が主上について警護している日なんだな?」
班渠も遠い目をした。
「大変だったよな〜、昔は」
重朔も昔を振り返っていた。
国が不安定な時は使令は常に総動員されていた。良きにつけ悪しきにつけ、だ。
そんな中、たまたま使令の愚痴を漏れ聞いてしまった陽子が、働くものの立場で弱いものが団結して権利を要求する団体のことを口にした。それが使令労働組合のはじまりだった。
これが他国でもあっという間に広がり、十二国連合ができたのだから、使令というのはよほどこき使われているのに違いない。
現在の書記長は、漣国の什鈷である。
重朔は、新しい分会長を知らせる報告書を書きながら、
「什鈷のやつ、今頃どうしてるかな?」
とつぶやいた。
「漣は主従が仲いいからな。結構労働条件整ってるんじゃねえの?」
驃騎が答える。
「ああ、でもこの季節に使令のために花見の用意をしてくれる主上ってのも、慶ぐらいだぜ」
班渠も大きなしっぽをふわふわさせながら、話に割り込んだ。
「お、そうだよな。あの三色団子は最高だ!」
重朔もおもわず喉を鳴らした。
「ちちぃ、ちちち、じゃっこ!」
「ああ、お前もそう思うよな!」
驃騎もうなずく。
そこに陽気な声がした。
「みんな、いるか?」
「「「主上!」」」
「ちい!」
「冗祐に聞いたよ。もうすぐ花見だ、今年もこれ、作ってもらったから置いておくね」
そこには、漆塗りのお重に入った、三色団子が使令の人数分だけ入っていた。
一番上の緑は翡翠、二番目の白は月長石、最後の紅は桃色水晶。
この貴石団子を貫く串は銀でできている。
高価な団子だが、この頃の慶はそれなりに豊かで、自国に新しい玉泉も発見され、黄領となっていた。そんなこともあってか、必ず景王はこの時期、三色団子を持って司令たちの労をねぎらいに来るのだ。
「じゃあ、また。何かあるときはよろしく頼む」
ぺこりと使令にも頭を下げる景王をまぶしそうな目をして見送った、重朔、驃騎、班渠、雀瑚は、陽子の姿が見えなくなってハタと気がついた。
「あ、おい! じょおゆうううう〜 次はお前が分会長だってば!」
「くそぉ、ついうっかり……」
「ちちぃ、じゃ、じゃっこ〜」
「主上はいいんだ、主上は……」
組合として労働交渉する相手は、別にいたのだ。
うっかりすると、どんどん条件は悪くなる。
まあ、あの交渉相手が主上のことをを思えば思うほど、使令の労働条件は悪くなるものかもしれないが。
それも、愛嬌か?
司令たちは、分会長予定の冗祐抜きで、花見に団子としゃれ込んだ。
雲海を天に見て、大きな山桜の木がある崖っぷちに腰をかける。
「うまい!」
「うまいなあ」
「最高だ! この団子」
「ちちぃ、じゃじゃこっこ」
口々に団子をほめ、桜はついでとなっている花見も、そろそろ終わりだ。
「おい、この団子、どうする?」
「そりゃ、冗祐に残しておいてやらないと」
「ま、分会長をやってもらうんだからな。年度初めから意地悪することもないか」
「じゃじゃっこ!」
貴石の団子をお重に残し、司令たちは正寝の方へ向かって戻っていった。
あるうららかな春の日のことであった。
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