使令労組の春 その2(空さま)
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使令労組の春 その2 空さま

2008/05/02(Fri) 23:13 No.266

 連鎖妄想で、トンデモ話を書いてしまった空ですが、未生さまのコメントにまた妄想してしまい、 またまたトンデモ話を書いてしまいました。す、すみません。
 原作と激しく違います。こんなことはありえません。
 桜祭りなのに、桜は99%出てきません。
 空はさくらだい好きなんですが・・


使令労組の春 その2

作 ・ 空さま
2008/05/02(Fri) 23:17 No.268
「ああ、疲れた……」
「もう、いやだ」
「同じく」
「ちち、ちぃ」
「こんなに大変だったとは思わなかったよ」
 最後に、しみじみと語ったのは、今年度の分会長、冗祐だった。

「そうだよ。わかっただろ? 結構大変なんだぜ」
驃騎は、ため息をつきながら、冗祐に説明した。
「金波宮は回廊や建物が多くて有名なんだよ。仁重殿だけでも結構広いだろ」
「ああ、今まで参加しなくて、本当に悪かったよ」
「いいよ、冗祐。今までは、国が安定しなかったんだ。お前が付いていないと、主上が心配だったし」
「ん?班渠、お前いいこというなあ。冗祐、初めて参加して、大変だったってだけじゃ、お粗末な感想だぜ? もっと言うこと無いのか?」
「あーー責めるなよ、重朔。いや、なんていうか……賓満ってさ、知名度無いのな」
しみじみと話す冗祐は上目遣いをしている。

 使令5人、いや五匹は車座にすわり、おのおの好きな格好でいた。冗祐だけは座ることができないようだ。しかも、賓満というやつは、ひどく疲れていると、ふわふわ浮き上がってしまうらしい。時々「ちちぃ」とつぶやきながら、隣の雀瑚がゼリー状の本体を引っ張っていた。そのたびに、冗祐ははっと気づいて、「あ、わりぃ」などといいながら、自分の体を地上に戻すのだ。

「仕方ないよ。おまえ今年初めて参加したんだからさぁ」
驃騎も同情している。
「だってよぉ。俺が出て行くと、みんな大声を上げて逃げていくんだぜ。それだけじゃなくてさ。台輔のお世話係だった女官なんか、その場で卒倒したんだもんな。俺って台輔の使令なのにさ。いくらなんでも失礼だと思わないか?」
「「「そうだよな〜」」」
「ちぃぃ」

 昨日は、「めーでー」だったのだ。陽子は、使令労組が出来上がったことを知ると、彼らに「すとらいき」という行為を教えた。労働者は、自分たちの権利を守るために、交渉する手段として、あらかじめ仕事を「さぼたーじゅ」することができるというのだ。それを聞いて、使令たちは色めきたった。さらに、陽子はそのときを利用して、「でも」行進をすると良い、とすすめた。なんでも、それは蓬莱では5月1日と決まっていて、その日を「めーでー」というのだそうだ。

 使令たちが喜ぶのを見て、陽子は景麒と相談することなく、勅命で、「めーでー」に使令たちが「さぼたーじゅ」して「すとらいき」を行い、「でも」行進をしてもよいと、許可してしまった。景麒が盛大なため息をついたことは言うまでも無い。

 始まった当時は、使令たちの話からわかるように、冗祐だけは陽子に憑いていたのだ。しかし、時は進み慶国の平和度は増し、陽子の剣も格段の上達を見せ、さほどの心配もないということで、今年から冗祐も「すとらいき」と「でも」行進に参加した。
 もちろん、行進場所は仁重殿だ。正寝ではないのだ。

「わっしょい、わっしょい!」
「使令にも休日を!」
「わっしょい、わっしょい!」
「使令にも特別報酬を!」
「わっしょい、わっしょい!」
「使令にも、健康を!」
「わっしょい、わっしょい!」
「使令にも、残業手当を!」
「わっしょい、わっしょい!」
「ちちぃ、じゃじゃっこ!」
登旗を持っていたのは重朔だけだったが、見ようによっては圧巻だった。現景王は、使令との相性は抜群だったので、最初はびっくりした仁重殿の下官たちも、二度三度と繰り返されるうちに、段々なれていったようだ。そして、今年は冗祐も参加した。
 残念ながら、賓満という妖魔については、下官たちも知識が無いらしく、その青白い顔とふわふわしたゼリー状の体を見ると、肝をつぶし、悲鳴を上げて逃げる者が続出した。すっかり気落ちした冗祐だったが、仮にも今年度の分会長なので、仁重殿の執務室に詰めている景麒と労働交渉を行った。ところがだ。

「休日? 遁行している間は休んでいるのではないのか?」
「報酬? 残業手当? おまえ達、契約について正確に記憶していないのか? 私が死んだ時に私の体を与えるという契約だったであろう! 私は何度も死ぬことはできない!」
「健康だと? 拓峰の乱以降、慶に戦乱は起きていない。おまえ達、いつ怪我や病気になったのだ?」
という答えが返ってきて、交渉にならなかった。

「もういやだ、俺」
冗祐がつぶやいたときだった。

「みんな、いる?」
「「「「主上!」」」」
「ちい!」
「昨日はデモ行進、ご苦労さん。それから冗祐のこと、もう少し私が先に説明しておけばよかったね。ちっとも怖くなんか無いのに、散々だったらしいね」
その言葉を聞いた冗祐は、自分の青白い顔に、ほろりと熱い水滴が伝うのを感じた。
「景麒も、要求はわかった、善処する、とかなんとか言っておけばいいのに、真面目だからなあ」
激しく首を縦に振る、使令たち。
「まあ、麒麟の数を増やすことはできないから、報酬を増やすって訳には行かないんだけどさ」
(主上、さりげなく怖いことを言ってます……使令一同)
「今度、うちの玉泉で新しい種類の貴石が採れたんで、紹介を兼ねて、試食してもらおうと思ってさ」
(そういえば、さっきからいい香りがしていた……使令一同)
「みたらし団子みたいでしょ?」
そういって、陽子が手巾から出したのは、五つの虎目石だった。思わず、目じりが下がる使令たち。
「じゃ、ここにおいておくから。来年から、お団子の数を4つに増やすようにがんばってみるよ」
(そんな、しゅじょおおおお)
「じゃ、執務があるからこれで帰るね、おやすみ!」
「「「「ありがとうございました!」」」」
「じゃじゃっこ!」

 陽子の後姿を見送った使令たちは、すべての不満をとりあえず棚上げして、その夜は楽しんだ。

 慶の桜はとっくに散ってしまったが、お隣の雁国の桜は、まだ咲いているのだろうか。
 玉を見ると、桜を思い出す使令たちである。
 平和な慶の一こまであった。


* * *  空さまの後書き  * * *
2008/05/02(Fri) 23:33 No.270

 またまたトンデモ話を書いてしまいました。す、すみません。
 同じパターンのSSですが、未生さんのNo208のコメント、メーデーとシュプレヒコールから 思いついた、連鎖妄想です。 こういうお話しは書いている本人はとてつもなく楽しいのですが、原作ファンのかたには伏して お詫び申し上げます。

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