使令労組の春 その3?(空さま)
「投稿小説」 「08桜祭」 「玄関」 

どうしても書きたくて・・ 空さま

2008/05/03(Sat) 15:21 No.278

 実は、空は浩陽なんです。
 いっつも、しつこく断らないと、わからないような文章しか書けないんです。 今回も、使令さんたちにがんばってもらっている間に、(実は使令好き) 浩瀚と陽子さんに、自分たちも「書け、かけ」と本気で言われてしまったので、書きました。
 使令労組第3弾です。
 浩陽っぽくなっています。が、恋愛要素は低めです。
 ではどうぞ!
 一応、シリアスのつもりで書きましたが、最初に投稿した寒桜がらみのお話しよりは、 シリアス度が低いです。



使令労組の春 その3?

作 ・ 空さま

「あああ、ううん」
 大きな声を出しながら伸びをしたのは、執務中の景王、中嶋陽子である。そんな陽子に対して、くすりと笑みを浮かべ
「主上? はしたのうございますよ」
と、声をかけたのは、慶国の誇る百官の長、冢宰の浩瀚である。
「あ、申しわけない。そのとおりだ」
「午後の執務も一区切りいたしました。しばし、御休息なさいませ」
「うん、そうしよう」
陽子は筆を置くと席を立って、正寝の庭へと降り立った。
「お前も来るか?」
冢宰を呼べば、御意という答えと共に後から冢宰が付いてくる。陽子はそんな浩瀚に笑みを返すと、自分は正面にある3丈ほどの高さの木に寄って、幹に触れた。
「この木は桜だったな」
「はい、その通りでございます」
「すっかり葉桜だなあ」
「左様でございますね。日の光が若葉からもれてまぶしゅうございます」
「本当だ。春が終わって夏が来るな」
「忙しくなりますよ」
「ああ、わかってる」

 浩瀚は、さりげなく視線を動かすと、陽子は察しが良く、執務室に戻った。筆を取り上げ署名すると御璽を押す。ときおり、案件の説明をする浩瀚の低い声が聞こえた。
 何枚かの案件をしあげ終わると、浩瀚が陽子に声をかけた。
「主上、少しよろしいですか?」
「もちろんだ。珍しいな、お前の方から話があるなんて」
陽子はにこにこしながら、案件を読む手を止めた。
「先日も、仁重殿で『でも』行進がございましたね」
「うん、このところ年中行事になってきたよ。今年から冗祐も参加したんだ」
「だいぶ騒ぎになったとか?」
「あれ? ひょっとして景麒は今年、お前の所に愚痴をこぼしに行ったのか……」
はあ、と陽子は軽いため息をつく。
「私はやめさせたりしないぞ。勅命を出したからには最後まで私が責任を持たなくっちゃね」
浩瀚は、ふわりと微笑むと、
「一度お尋ねしようと思っていたのですが……」
と続けた。
「知識の出所だろ? お前の予想どおりだと思うよ?」
「では、やはり壁老師(せんせい)の差し金でございますか?」
浩瀚の目が笑っている。陽子はしかられるのかと思ってどきりとしたが、そうでもないらしいとわかって、ほっとする。
「ひどい言い方だなあ、浩瀚。違うよ、差し金だなんて。いつもこの5月に入ってすぐの頃、雁国に招かれてお茶会をしているだろ? そのとき、気を使って延王が壁老師を呼んでくれるのさ。それで、メーデーの話が出てね」
「『めーでー』でございますか?」
「うん」
頷くと、陽子は卓の正面から少し椅子をずらして、執務の書類が自分の横になるように移動させると、そこに肘をつきほおづえをついた。いつもの行儀の悪さに浩瀚は苦笑する。まったくこの方は、台輔の御前では絶対にそんな格好はなさらないのに、私の目の前ではわざとこんな風にされる。浩瀚はそう思って微笑むと、陽子が話しを始めた。
「壁老師は、メーデーや労働者の権利について大学で学んでいたらしいよ。壁老師が学生の頃は、学生もストライキをやったんだってさ」
「働いていないのにでございますか?」
「お前、鋭いところを突いてくるな」
陽子が感心するのも無理はない。浩瀚はこれでもかなりの蓬莱通なのだ。機会あるごとに学習を怠らない。壁老師などとは、陽子よりもずっと親しいくらいなのだ。ただし、陽子には内緒にしている。
「そうなんだ。学生は学問が本業だから、勉強の方をサボタージュしたらしいよ」
浩瀚は、笑顔を崩さずに黙っていた。
「だから、そのお茶会でちょうど話が出ていたんで、慶に戻ってから彼らに話したんだよ。そうしたら、いつのまにか十二国連合ができたらしいんだ。すごいよね、使令たちって」
陽子は、瞳を閉じて感心しきりだったようだ。しかし、浩瀚は、その基盤を作ったのは当の陽子本人だと思っている。もちろん、泰麒捜索の折である。気がつかないうちに、各国の使令は、協力して蓬莱と崑崙で泰麒を探していたのだ。浩瀚はその事実こそが、各国の使令をひとつにまとめた力だと推察していた。
「だから、私は彼らがやりたいということ止めない方がいいと思ったんだ。違うかな?」
「いえ、かまわないと思いますが。やはり『でも』行進のほうは、少し考えられた方がよろしいかと」
「そう? そんなことないと思うんだけど。あれは、ただのお祭りだよ。蓬莱でもそうだったんだ。みんなで要求を声に出して言うことで連帯感を高めるんだって。確か、シュプレヒコールとか言うんだよな」
陽子は、自分の頬杖している両の手の中で、自分の顎を左右にゆらりゆらりと揺さぶりながら、浩瀚の顔を上目遣いで見ている。傍らに立つ浩瀚は、あまりに無防備でかわいらしい仕草に口元をほころばせた。
「あれ? 浩瀚が笑った! へえ、そんな風に笑うんだ〜 楽しい〜」
にこにこ笑う陽子に、私のほうこそ主上からかけがえの無い幸いをいただいていると思いつつも、口元を引き締める。
「主上、もちろんご存知かと思いますが、使令たちの言葉がわかるのはほんの一握り。上位の仙でございますよ」
「あれ、そうだったっけ」
浩瀚は、陽子が明らかに白を切っていると思ったが、
「左様でございますとも。ですから、多くの下官には、妖魔が吼えているとしか見えないと思うのですが。いかがでしょう?」
そういいながらも、浩瀚は笑みを絶やさない。そう、もうわかっているのだ。台輔は、色々とお考えがあるようだが、もう、この使令たちは金波宮で受け入れられている。これは、主上の器量によるものだとしか思えない。この国は、民草と官吏だけでなく、使令さえも同じに扱う、そんな国王の国なのだ。
「まったく」
そういいながら陽子は、浩瀚に愚痴をこぼしたであろう景麒の顔を思い浮かべながら、肩をすくめて見せる。
「わかっているよ。でも、彼らがこの国の麒麟と王を守っていることは確かなんだ。そんな彼らをやっぱりみんなにわかってほしいんだ」
そういう陽子を浩瀚は、黙って見つめる。いつしか笑みは消え、まなざしに本気が写る。
「御意」
短く応えると、その場に跪礼する浩瀚を見て、陽子は破顔する。
「愛しているよ、浩瀚!」
はっとして、顔を上げた浩瀚の目に映ったのは、いつものように筆を持ち、署名に四苦八苦しながら御璽を押そうとしている、陽子の素の姿だった。


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