女王の物想い
2009/03/20(Fri) 07:09 No.57
桜が舞い散っていた。時が止まってしまったかのように思える静かな庭院で、ひらひらと舞う花びらだけが時の移ろいを感じさせる。
そう、時は、いつも静かに流れている。ともにこの花を見上げたひとがいなくなってしまっても、尚。
「──私は、王の孤独を知らなかった」
くるくると踊る薄紅の花びらに手を伸ばしながら、陽子は誰にともなく呟いた。黙して隣に座していた気儘な客人が、視線で先を促す。陽子は桜を見つめたまま微笑した。
「──五百年の孤独って、どんなものだったんだろうね」
あちらに帰りたい、と泣いた。こちらを受け入れることは、陽子にとってあのひとを受け入れることと同義だった。五百年玉座を守っていた稀代の名君が、陽子の伴侶だった。王の責を教えてくれたひと。陽子の師ともいえるひと。だから──陽子は王の孤独をずっと知らなかった。
「そんなことを真面目に考えていたの?」
喪われた伴侶のことを気軽に語れる唯一のひとは、そう言って吹き出した。その意外な反応に、陽子はまじまじと隣で笑うひとを見つめる。
「君ってほんとに面白い」
ひとしきり笑ってから、風来坊の太子はいつもの科白を吐いた。陽子は憮然と唇を尖らせる。利広は楽しげに笑い、陽子を引き寄せた。特別に教えてあげる、と耳許で囁いて、利広は悪戯っぽく笑む。
「かの御仁は、それを知りたくないからこそ、独りで勝手に逝ってしまったんだよ」
小首を傾げる陽子の頬に口づけて、悠久の時を生きる太子はただ 不思議な笑みを見せるのみだった。
2009.03.20.
ご感想ありがとうございます 未生(管理人)
2009/03/22(Sun) 06:49 No.81
無事戻ってまいりました。管理人留守中にご感想をありがとうございました!
けろこさん>
本編の一部というか、前哨戦というか、ちょっと悩ましい代物でございます。
陽子主上が滑らかに話してくださることをただただ祈っております。
はい、北の国の桜が散るまでに書き上げてしまいたいと思います。
気長にお待ちくださいませ〜。
由旬さん>
「利陽としての光」には笑わせていただきました。
まだまだ前哨戦でございます。
拙宅の風の御仁は気長で狡猾でございますから(笑)。
気長にお待ちいただけると嬉しいです。
空さん>
お久しぶりでございます。ようこそいらっしゃいました。
空を舞う桜を思い浮かべてくださってありがとうございます。
桜ソングを聴きながら春に想いを馳せつつ書いておりますから。
でも、「利広の本来の目的」──うぷ、祭掲示板では申せません〜(笑)。
空さんの桜もお待ち申し上げておりますよ!