名残の雪
2009/03/24(Tue) 17:40 No.111
晩冬の雁に隣国の女王を迎えていた。公の行事を終えた後、延王尚隆は賓客を促して、こっそりと玄英宮を抜け出したのだった。
城下はもうすっかり雪が融けていた。せっかく雁に来たのだから、と女王は雪を所望する。尚隆は苦笑して残雪がありそうな近郊の山へと向かった。
「わあ、まだ雪があるんだね!」
女王の威厳を脱ぎ捨てた伴侶が歓声を上げる。尚隆は片眉を上げて嘆息した。
「雪を所望したのは誰だ?」
「ほんとうに見られるとは思ってなかったから」
伴侶は悪びれることなくそう言う。その笑みの眩しさに、尚隆は顔を蹙めたまま唇を緩めた。そのまま春を呼ぶ陽光の笑顔に見入る。そんなことにも気づかずに、伴侶はまたも歓声を上げた。春を思わせる陽射しの中に煌くものを指差して。
「ほら、雪だよ!」
細い指の先に、微風に踊る大きな一片の雪があった。ひらりひらりと舞い降る名残の雪に手を伸ばし、伴侶は感嘆の溜息をつく。
「──綺麗」
「牡丹雪だな。春が近い」
お前が連れてきた、という言葉を飲みこんで、伴侶に笑みを向ける。伴侶は楽しげに、そして悪戯っぽく笑んだ。
「牡丹雪? 私なら、この雪には違う名を付けるな」
「ほう?」
「──桜雪、だよ。春の雪は、まるで桜みたいに優しい」
春を告げる桜の女神のように、匂やかに笑う伴侶。尚隆はしばしその姿に見とれた。そして、心に思ったことを忌憚なく口に出す。
「──桜雪か。春の女神の思し召しだな」
己のことを言われているとは知らぬ女神は、尚隆の肯定を嬉しげな笑みで受け入れたのだった。
2009.03.24.
後書き
2009/03/24(Tue) 17:44 No.112
雪の小品には相変わらずエンドレスの「輪舞(ロンド)」でございます。
正気の時に聴くと照れるのですが、乙女フィルターがかかった尚隆には
ぴったりな曲でございます。
お目汚し失礼いたしました〜。
2009.03.24. 速世未生 記
──外が白い! 未生(管理人)
2009/03/25(Wed) 06:06 No.117
由旬さん、ご感想をありがとうございます。
桜雪、お気に召していただけて嬉しいです〜。
北の国はまた白くなってしまいました。さすがに道路に積もってはおりませんが……。
桜祭に雪を書くと現実でも雪が降ってしまうようでございます。
今朝5時のアメダスは−3.7℃。雪が融けるわけはございません。
でも、まだ3月ですから、こんなものでしょうね〜。
桜の開花状況も調べてみました。
3/22に広島・松江・鳥取・潮岬・横浜、23に福江・徳島・神戸・奈良・津、
そして24には大阪での開花が発表されております。
そして、3/23に福岡・宮崎、24に熊本・高知にて満開宣言が出されました。
春が広がっておりますね〜。
本日、さくら開花予想(第4回)が出されます。
まだ咲いていない地域の開花はいつになるでしょう?
そして、北の国の開花は……? 楽しみにしたいと思います。