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「桜」…じゃなくてもいいですかね(おずおず)  空さま

2009/03/21(Sat) 11:25 No.67

 皆様、ご無沙汰しております。 いろいろありまして、本日やっと参加声明を出せそうです。
 もう素敵な作品が目白押しで、すばらしい。 なかなか「桜」が降りてこなくて、「奥の手」を使うことにしました。すみません。
 十二国記の本編とは全く違う世界ですので、御不快に思う方はスルーしてください。


使令労組再び

作 ・ 空さま

2009/03/21(Sat) 11:30 No.69

「陽子、また来いよ。壁の話は面白い。この時期、こういう話が聞けるというのは、お前が景王になったことによる。遠慮なんかするなよ」

そう言ったのは、蓬莱名を小松尚隆。雁国の国主、延王である。

「いや、こちらこそありがとうございます。私はあまりにもあちらのことを知らずに過ごしていた」

わらう少女は赤い髪に緑の瞳。簡素だが素材の良い、桜色の襦裙を着ている。雁国の隣に位置する慶国は景王、中嶋陽子、延王と同じ胎果の王だ。

 ここは雁国の内殿にある、客間。いつもこの時期に雁国に住む壁落人の講義を聴くことになっていた。壁老師は常世の暮らしぶりと蓬莱を比べ比較研究しながら生活科学を教えるという、その深い教養に見合った仕事をしていた。
 ひょんなことから陽子と知り合い、今では年に一度蓬莱の講義を延王やその側近に施すほどの待遇を得ている。その時にいつも延王延麒が、陽子を呼んでくれるのだ。

 延王・延麒はもちろんだが、陽子が玄英宮に来るとなると、妙にこの二人が政務に励むようになるので、側近たちも大歓迎であった。

「壁老師の話は本当に勉強になる。また、みんなにしてあげようっと」

陽子は心の中でつぶやき、雁国をあとにした。

この場合の「みんな」とは、景麒の使令たちのことである。
ここ十二国では、使令労組が存在し、各国にそれぞれ分会がある。使令の権利を守るために様々な活動を展開しているのだが、慶国にも当然分会が存在しているのだ。そもそも、この使令労組は、この壁老師の勉強会が発端でできたようなものだから、陽子も何かと気にかけているのだ。

「次は班渠だな」
「来年度は班渠だよ」
「ちちい、じゃっここ」

「なんだよ、わかってるさ」

ここ、慶国の使令労組分会、来年度の分会長は順番で決められる。雀瑚だけは言葉が話せないため免除されているが、そのほかの4人(4匹?4頭??)には平等に回ってくるのだ。事務的な仕事はほとんどない。本部に新しい分会長の報告をすることぐらいだ。問題は、雇用主への要求活動だった。慶国の麒麟は、一筋縄ではいかない。彼らの要求が通ることはほとんどなかった。そのことを考えると、班渠は頭が痛くなった。

「俺も、テンキンしたい……」

班渠はつぶやいた。

 先日、雁国のお茶会から帰ってきた陽子がいつものように面白い話をしてくれた。その一つが、蓬莱の「テンキン」という制度だった。それは、いろいろな事情で職場を変わることだそうだ。「職場を変わる」?? 使令たちは考えたこともなかった。しかも、蓬莱ではそれはかなり自由に行われるというのだ。

「好きな主人に仕えることができるのですか?」

おそるおそる質問した班渠に、陽子は

「その通りだよ。だから、働き手がみんな逃げていかないように、私もしっかりしなくっちゃね」

そういう景王を班渠はまぶしそうな眼で見ていた。

さて、使令達の座談会では、

「俺、テンキンしてぇ」
「俺も……」
「俺もだ」
「俺も」
「じゃじゃっこ」

「なあ、もしテンキンできるとしたら、どこがいい?」
「「「そうだなあ〜」」」
「じゃここ〜」

雁国は豊かだ。延麒も気さくでいい感じがする。
「雁かなあ?」
「そうだよなあ」
「でも、雁国は主上と台輔が政務から逃げるために、使令がよく使われるらしいぜ?」
「なんだそりゃ!?」

「範国も豊かだぜぇ?」
「でも氾麟って人使い荒らそうだよな〜」
「う〜〜〜む」

「奏だって豊かじゃねえか」
「ああ、大国だしなあ」
「宗麟はやさしいって評判だぞ」
「優しいっていうんなら、廉麟もそうだろ? なんでも泰麒捜索の折、俺達使令の疲労度を思い図ってだいぶ心を痛めていたって話だぞ」
「お前ねえ、心を痛めたって、休ませてくれなきゃ意味ないんだよ?」
「ええ?? 班渠、お前、性格悪くなったんじゃね?」

重朔に突っ込まれて班渠はプイっと横を向く。

「確かさあ、采麟も綺麗な少女って感じの方だったよな〜。なんで南西部の国はみんな麒麟が優しそうなんだ?」

慶も何とかならないのかよ、と驃騎もぶつぶつ愚痴をこぼす。

「戴国は?」
「あそこは、大変だぜ」
「でもキュウジンが出てるって話だけど」
「ほんとかおい?」
「あそこは、使令が一人だけだからな」
「「「ええーー!?」」」
「じゃじゃー!?」

冗祐は情報通だ。やはり陽子に直接憑いているからだろう。

「ひとりで麒麟と国王を守りきれるのかよ」
「きれなかったじゃないか?」
「あ……」
「まあ、今は落ち着いているから」
「そうだよな、昔のことさ」

「一番優しい麒麟てどこの国だろう?」
「恭じゃないか?」
「え? 供麒って大男じゃなかったけ?」
「でもあそこの国はほとんど使令の出番がないっていうから」
「ほんとかぁ??? 供王は人使いが荒いって評判だぜ?」
「麒麟使いだろ?」
「そうだよ、麒麟の使令使いが荒いわけじゃないよ」

「「「「はぁーーー」」」」
「じゃーーー」

使令たちはため息をついた。

「じゃあ、一番ひどいのは慶なのか?」
「いや、巧だろ。あそこは暗い過去があるんだ」
「え、そうなのか?」
「ああ、ひどい国王がいて、麒麟に命じて使令を人殺しに使ったらしい」
「ひでぇーー」
「ひどいことしやがる!!」
「それでさ、しかも全員返り討ちにあって、その使令は死滅したらしいんだ」
「「おおおーー」」
「じゃじゃーー」

「ご免」
「へ? どうした冗祐」
「それ、俺だ」
「何、何の事?」
「だから、巧国の使令を全滅させたの、俺だ。正確に言うと俺の憑いた主上だけど」

その時、他の4人が冗祐から一歩引いたのは言うまでもない。

「なんでお前教えてやらなかったんだよ。使令が襲ってきてるってすぐにわかったんだろ? 大元をたたかなきゃ、いくらでも襲ってくるだろうが。そりゃうちの主上が相手じゃ、巧の使令は全滅かもしれないけどさ?」
「教えてやりたかったよ。だがな、黙ってろって言われたんだよ、黙ってろって! ひとことも喋るなって言われたんだぜ!!!」
「誰だよ、そんな余計なこという奴は」
「俺たちにそういう命令を出せるのは、主上をのぞいたら一人しかいないだろ!」
「「「「……」」」」

(やっぱり、テンキンしたい)

5人ともしみじみそう思ったのは、これもまた言うまでもない事だった。

もうすぐ慶でも桜が咲く。そうしたらまた、花見ができる。慶の主上は使令をこよなく愛してくださる。贅沢は敵だ。どうせテンキンなんてできないんだ。だったら、ここで気持ちよく働くことを考えなくては。

慶国の使令たちはそう思うことにした。


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