陽 光
作 ・ けろこさま
2010/03/25(Thu) 23:22 No.179
その儚げに揺れる薄紅色の花を見て心に浮かぶは、いつも物憂げに下を向く主の姿。
――何故、私はあなたを選んでしまったのだろう。何があなたに足りなかったのか……
視野を薄紅色に染め上げられ、思考は答えのない問いを続けるのみ。
「――麒。景麒!」
己を呼ぶ声にハッと我に返ると、主が気遣うような表情でこちらを見ていた。
「どうした。何か気にかかることでも?」
「いえ、申し訳ありません」
「謝る必要はない。もしかして桜に惑わされたか?」
主の言に目を瞠ると、彼女は桜に目を移して話を続けた。
「桜は花が咲き始めてたった半月で、満開になって散ってしまう。まるで美しく死ぬためだけに咲くような儚さに魅力を感じてしまうのだろうな」
話を聞いているうちに、先ほど己の中に浮かんだ疑問とともに不安が膨らんでくるのを景麒は感じた。
「でもね、景麒。そのたった半月のために、木は葉を茂らせ枝を伸ばし、力をため込むことに残りの一年を費やすんだ。そして花も、そうやって木が蓄えてくれた力をもらって、美しく、精一杯咲くんだよ。私は花ではなく木になりたい。民という花々が咲き誇るために必要な力を与える木でありたい」
こちらを振り向き、主はまっすぐに景麒を見つめた。
「もちろん、景麒、お前と一緒に、だ」
――ああ、この方はなんと……
たった今感じた不安は吹き飛び、問いの答えを得たことを感じながら、景麒はゆっくりと頭を下げた。
――あなただけが、私の主――