慰
め
種
作 ・ 五緒さま
2010/03/26(Fri) 02:48 No.197
―― じょうずにぬれたら、おうさまからごほうびをもらえますか?
赤楽○○年、春。今上、赤子様のご成婚の儀が執り行われた。
王は私的なこととされ、主な府第に置かれている広報板に簡素な文で日時等を報せるのみに留められた。
それでも巷ではこの喜ばしい出来事を祝うため、様々なものが出回っていた。
「よいこのぬりえ」というのもその一つで、これはまだ年端もゆかぬ子どもたちに、この出来事を分かり易く理解してもらうために作られたといわれているが、あやかり商法だと揶揄する声があちらこちらで囁かれている。
しかしながら、それを求めるのは子どもをだしにした大人たちで、皆一様に喜色を浮かべているため、この慶事に浮かれて財布の紐を緩めているのは間違いないようだ。
かくいう私もその一人で、子どもに教えるためと言いつつ、じつは一枚余分に買ってしまった。
この国は長いこと荒廃と共にあり、生活は楽ではなかった、と祖父母やその前の代の大人たちは口癖のように繰り返し、私も国が落ち着いた頃に育ったため、国中を包む慶事には縁がなかった。
それがどうだ。私の子どもたちはこのすばらしい出来事に立ち会うことができたのだ。
私の隣で黙々と色をつけてゆく末の娘。
色を変えるたびに私を見上げ、同じ言葉を紡ぐ。
―― じょうずにぬれたら、おうさまからごほうびをもらえますか?
そのたびに私は応える。
お前が心を込めて塗ればきっとな、と。
子どもたちよ、どうか覚えていておくれ。この国の華やかな歴史の一こまを。