「投稿作品」 「10桜祭」 「玄関」 

祭りのフィナーレに捧げます 翠玉さま

2010/05/30(Sun) 21:10 No.1057

 駆け込み投稿で失礼します。 こんなものを打っているより、感想を書くべきではなかったか、と何度思っかしれません。 管理人様のスーパーぶりを思い知りました。約3ヶ月間、本当にご苦労様でした。 次の機会には感想と連鎖妄想に専念したいと思います。 そして投稿者の方々、わたしの妄想文に感想を頂いた方々に深く感謝を致します。 楽しかったです。ありがとうございましたm(__)m

登場人物   慶国主従他、6ヶ国の王・台輔・太子・公女  
作品傾向   シリアス  
文字数   2000文字  




慶東国の桜

作 ・ 翠玉さま
2010/05/30(Sun) 21:12 No.1058

陽が落ちた金波宮にはその名に相応しい大きく美しい望月(まんげつ)が震(ひがし)の空に浮かんでいた。
射手が望月を背に、月光を浴びて飛ぶ陶鵲を射ると、欠片は虚空に拡がり、銀の星となって煌めく楽を奏でながら降り注いだ。
次は二つの陶鵲が互いに戯れながら上昇して二人の射手によって時間差で弾け、先に銀の星が、次いで金の星が弾けて先の楽よりも華やかな音を立てて降り注ぐ。
次に飛び立った大型の陶鵲は十二、一斉に放たれた矢を受けて陶鵲は各々二つに別れてさらに上昇し、二十四人の射手が放った矢によって花びらに変じた。花びらは月光を受けて薄桃色の雪のように静かに舞い散った。
その舞いに合わせて楽士による楽が緩やかに響き渡り、旋律は次第に大きく早く移り変わる。
楽に合わせて飛び立った陶鵲は震(ひがし)から二十、離(にし)から二十、合わせて四十の陶鵲が弾けた刹那に桜花の薫りが沸き立ち、夥しい数の花びらが降り注いだ。
桜の花びらが地面を覆い尽くすと、横に長く並んだ兵士達が手にした松明の灯を受け渡しながら次々と篝火に点火すると、廷は明るく照らし出され、楽も軽快な旋律に変わっていた。
最後に大きな二つの篝火に火をくべられると周囲から快哉が上がった。

この射儀を露台から見ていたのは十一人の賓客と金波宮の主とその半身、下の廷には賓客の従者と金波宮の高官達が集められていた。
「これを燕射と言える慶国の大射を見てみたいものだよ」
匠の国の王は今は正式な訪問の際の常として、男王の威儀を持って言葉を発した。彼の半身である台輔も「ええ」と追随する。
「前の郊祀の時より力が抜けてて、気楽に楽しめたぞ」
隣国の台輔は主を差し置いて明るく言った。
「他国の射儀はめったに見られるものではないから、いいものを見せてもらったわ。慶国の射儀は多彩で素晴らしいわね」
品のいい年嵩の女王の言葉に隣の可憐な台輔も頷いた。
「陶鵲を撃ち落とすのではなく、復活と再生を表現するなんてやるわね。気に入ったわ」
見た目は誰よりも若い王は隣に座す大柄な台輔よりも確かな存在感を持って堂々としていた。
「それはわたしも思いました。鵲を模した陶鵲を撃ち落とす射儀は苦手だったけど、慶国の射儀は気持ちがいい」
善良な空気を纏う南国の王は半身の台輔を国に残していたが、代わりに傍らで最近懇意にしている匠の国の主従に見守られていた。
「この話をお聞きになられたら父王はさぞかし悔しがることでしょう」
「次からは何を差し置いても、わたし達を代理になどなさらないだろうね」
六百年王国の太子と公女は各国の王が集まる席にあっても軽やかに語る。未だ若い慶国の女王の招きに宴席を次男の太子と公女に任せて遅れて来ることは深い心遣いのあってのことだった。
「昨年は若輩のわたしの思い付きにご協力頂き、ありがとうございました。ささやかではありますが、感謝の意を表した宴席をお受け下さい」
金波宮の主が露台に続く客堂の扉を開けると、中央に桜や石楠花、白山木を活けた大きな円卓があり、花器の周囲には料理が並べられ、十三の椅子の前には緑の箸と桜の花びらを象った皿が五枚づつ花の形に置かれていた。
「この釉は桜の灰であろ?」
花びらの皿を手にして、匠の国の王が言った。
「さすがは氾王、その通りです。桜色の陶鵲を作る際に範国の桜の染料に倣って赤く色付いた枝を使いました。それを磁器の皿にも利用してみたのです」
「良い色合いだね。では景王の襦も桜かえ?」
「はい。皆がわたしには桜が似合うと、こうして桜尽くしにしてくれました」
高く結い上げられた紅い髪には生花の花鈿が挿されていた。その姿は賓客を持て成すには派手過ぎず、地味過ぎず、若い女王に相応しい見立てだった。
「確かによう似合っておいでじゃ。これからは桜を見ると景王君を思い出すことになろう」
金波宮の主は目許を染めると上目遣いで氾王を睨めつけた。
「氾王が普段、襦裙をお召しになっている理由がわかりました」
「確かに、対応した女官は悉く氾王君に心を奪われてしまいそうだ」
廉王が笑いながら言うと、延王は廉王を繁々と見詰めた。
「漣の王は範の王と親しいのか?」
「それは勿論、廉王はわたしの師だよ」
氾王の言葉に皆が驚き、当の廉王は天井を見上げた。
「それは大袈裟だよ、氾王・・・」
「説明は食事をしながらにしないかえ?」
氾王の言葉で皆はそれぞれ席に着いたが、奏の太子は立っていた。
「ここで父、宗王からの言付けを伝えさせて頂きます。国同士の交流はこの先も続けたいので、来年は奏国に皆様を招きたいと申しておりました。いかがでしょうか?」
「有り難くお受けしよう。その次は我が範国がお招きしようぞ」
「範の次は恭よ」
「西国が続くから、その次は雁にしよう」
「では才はその次に」
「六年後なら漣国にも呼べるように出来るかな」
こうして、十二国同士の協力体制の第一歩が始まり、慶国での射儀はその幕開けの伝説となった。

-完-


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