「管理人作品」 「11桜祭」

君としあらねば(末声注意)@管理人作品第3弾

2011/03/29(Tue) 06:33 No.154
 さくやさんの#56「桜だよりおまけ」に添えられた和歌より書き流しました。 今年お初の連鎖妄想が末声作品でごめんなさいね。 苦手な方はご覧にならないでくださいませ。

※ 管理人の作品は全て尚陽前提でございます。

君としあらねば(末声注意)

2011/03/29(Tue) 06:34 No.155
 季節は否応なく巡る。忙しない日常を送りつつも、いつしか同じ季節が巡り来る。変わる風の匂いがそれを報せる。執務中の景王陽子は、しばし手を止めて深い溜息をついた。
 筆を置き、陽子は立ち上がる。そのまま窓辺に歩み寄り、外を眺めた。春風に薄紅の花が揺れている。今が盛りと咲き匂う桜花を美しいと思えない己が哀しくて、陽子はぎゅっと目を瞑った。

(──陽子)

 胸に響く明朗な声。喪われた伴侶が今も柔らかく名を呼ぶ。その声を、その笑みを、繰り返し繰り返し、思い出しては嘆息する。陽子は目を開けて窓を開いた。ゆっくりと桜の樹に向かう。そして、誇らしげにほころびる桜花をただ見上げた。
 庭院の桜は今が盛り。それなのに、この桜をくれたあのひとはいない。桜が咲いても、もう心が浮き立つことはない。あのひととこの花を見上げることは二度とないのだから。そんな思いを抱きながらも、桜を見つめる陽子の瞳は乾いたまま。

 王は泣いてはいけない。泣くならここで泣け。

 そう言って抱きしめてくれたひと。あのひとは、泣き虫な陽子を連れて逝った。だから、景王陽子が涙を零すことはないのだ──。

 ふわり、と満開の桜は花びらを一枚散らす。それは、一粒の涙のように見えた。桜が、泣けない陽子の代わりに泣いてくれている。

 ありがとう。

 小さく呟いて、陽子はそっと桜の幹に額をつけた。

2011.03.28.

後書き

2011/03/29(Tue) 06:35 No.156
桜花 今ぞ盛りと 人は言へど 我れは寂しも 君としあらねば
万葉集 巻18−4074 大伴池主

(桜の花は今が盛りと人はいうけれども、あなたと一緒にいないので、私は寂しい。)

 さくやさんが写真に添えてくださったこの和歌は、大伴池主が大伴家持にあてて贈ったもので、 恋の歌ではございません。 けれど、私はこの歌を読んで、 尚隆を喪ったばかりの陽子を思い浮かべてしまったのでした……。

2011.03.29. 速世未生 記

景王は泣かない 黎絃さま

2011/03/29(Tue) 16:44 No.158

 末声は悲しいからパス! と思いながらもついつい読んでしまいます。 桜の花びらが涙に見え始めたら困るのに……。 でもこの和歌は同性の友人に贈った歌だったのですね。 それはそれで十分せつないですが^^美しい連鎖物語を読ませていただきました。

切ないのは ネムさま

2011/03/29(Tue) 23:16 No.170
 桜は花弁の舞う姿が何よりも美しい。 でも散るのが美しいというのは切ないですね。 その切なさが涙に通じるのでしょうか。 この美しいお話を読んで、そんなことを考えました。

追憶 瑠璃さま

2011/03/30(Wed) 00:23 No.176
 舞い散る桜花は時にぞっとするほど美しいですが、 同時に何か追憶を誘うものがあるような気がします。
 桜に涙を託す陽子さんが切ないです(;_;)

神仙だから… 空さま

2011/03/30(Wed) 05:59 No.185
 今日初めて、この話を読み、和歌を復習し、思いました。 「神仙」だから、お二人とも若い姿のままで「死」を迎えるのだと。 十二国的には当たり前なんですが。
 良いことも悪いことも分かち合い、共に年を重ねて老いていくごく普通の人間と違って、 一番良い時の形のままずっと思い出になるって、実は悲しいことかもしれませんね。
 満開の桜はさらにそんな気持ちを舞い上がらせるかも、です。

舞う桜 由旬さま

2011/03/30(Wed) 16:59 No.194
 泣かない陽子。気丈に見えるけれど、その悲しみの深さは計り知れない。 押さえ込んだ感情はどこへ向かうのでしょうか。 桜のようなはかなさを陽子に感じてしまいました。

ご感想御礼 未生(管理人)

2011/03/30(Wed) 17:26 No.198
 皆さま、末声妄想にご感想をありがとうございました。

黎絃さん>
 私は「桜といえば涙」な連想になってしまいます。 切なく哀しいと思いつつ書いてしまうマゾ気質……(苦笑)。 ご覧くださりありがとうございました。

ネムさん>
 はい、満開の美しい桜が散る様というのは、切ないくらい美しく、 私にとっては涙を誘うものでございます。ご同感ありがとうございました。

瑠璃さん>
 ケツメイシの「さくら」を聴いて以来、 私にとっての桜は追憶を呼び覚ますものでございます。

空さん>
 そうですね、共に年を重ね、老いていくことができないからこそ、 余計に哀しいのかもしれませんね……。

由旬さん>
 ごめんなさい、遅くなりました。
 泣かない陽子が泣くときは……。 そのうち書きたいお話でございます。何年先になることやら、でございますが。
 陽子に桜の儚さを感じてくださりありがとうございました。
背景画像 瑠璃さま
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