「国のはたてに咲きにける」@管理人作品第8弾
2011/05/07(Sat) 06:35 No.827
桜開花情報でございます。
5/6に室蘭にてソメイヨシノが開花いたしました。
また同じく6日に函館にて満開宣言が出されました。
どうやら我が街でも蝦夷山桜がぽつりぽつりと花開いているようでございます。
指標となっているソメイヨシノはまだのようでございますが。
6時の気温は8.4℃。生暖かな強い南風が吹き荒れております。
ああ、そんなに桜を虐めないでくださいな、と心から思います。
そんな折、管理人はまたも留守にします。
連休中は不在だらけでごめんなさいね〜。
皆さま、祭をどうぞよろしくお願いいたします!
連鎖妄想も第4弾となりました。
今回の祭はさくやさんの写真と歌にやられっぱなしでございます。
さくやさん、毎度毎度で大変失礼いたしております。
広いお心で見守っていただけると嬉しいです。
というわけで、さくやさんの#89「桜だより その3」に添えられた長歌からの
連鎖妄想でございます。
管理人の王道の尚隆と陽子をよろしければお楽しみくださいませ。
※ 管理人の作品は全て尚陽前提でございます。
- 登場人物 尚隆・陽子
- 作品傾向 しっとり
- 文字数 1032文字
国のはたてに咲きにける
2011/05/07(Sat) 06:39 No.828
今年も約束の花がほころびる。満開の桜を空から見下ろして、伴侶は匂やかな笑みを浮かべた。それは咲き誇る眼下の桜花よりも数段美しく、見つめる尚隆をも幸せにする。地上に降り立って桜花を見上げた伴侶は、嬉しげに呟いた。
「今年も変わらず綺麗だね」
「そうか?」
お前の方が綺麗だ、とは口にしなかった。武断の女王は己の美貌に疎く、褒め言葉も軽口と取るからだ。伴侶は、そうだよ、と続け、うっとりと咲き匂う桜花を眺めていた。
「──そういえば、慶にもずいぶん桜が増えてきたな」
「そうなの?」
何気なく告げた言葉に、伴侶は翠の瞳を見開いて振り返る。尚隆は笑みを湛え、大きく頷いた。
眉間に皺を寄せ、肩を怒らせて仕事をしていた登極当時の景王陽子。そんな女王を休ませるために桜を探したあの頃には、桜の樹は目立たなかった。この見事な桜を見つけるのにも、それなりの手間がかかったのだ。
それが、今や王都堯天に近づくにつれて、薄紅の塊が目を癒す。胎果の女王が好む、蓬莱の春を象徴する桜の樹が、そこかしこで誇らしげに花開いているのだ。それは景王陽子が民に愛されているからに他ならない。そんな思いを表すかのような古の歌が胸に浮かぶ。尚隆は唇を緩め、ゆったりと歌を詠じた。
「
娘子らが
頭挿のために
風流士の
縵のためと
敷きませる 国のはたてに 咲きにける
櫻の花の にほひはもあなに」
「なあに、それ」
「──この国の王たるお前のために咲いた花だ。飾ってやれ。花も喜ぶぞ」
「ええ?」
「乙女たちの頭挿のために、風流士たちの縵のために、
大王が統べられるこの国の端々まで輝くほどに咲いた桜の花の何と美しいことか、という意味の歌だ」
尚隆は咲き誇る桜に手を伸ばし、おもむろに一枝を折り取る。それから、目を見張る伴侶の髪に恭しく挿し、跪いて礼を取った。
「というわけで、乙女に献上する」
にやりと笑んで見上げると、少し頬を染めていた伴侶は、匂やかな笑みを見せた。ゆっくりと樹に歩み寄り、尚隆と同じように、今を盛りにほころびる桜の一枝を折り取る。振り返った伴侶は身を屈め、尚隆の頭にそれを挿した。そして、優雅に頭を下げた伴侶は、意外な一言を放つ。
「それでは、私は風流士にお返しを」
虚を衝かれ、目を丸くする尚隆を見て、伴侶は大笑いする。それから、よく似合うよ、と言って涙を拭いた。そうしてまた見事に咲き誇る桜花を見上げる。
「──いつか、国中に桜が咲く日が来るかな」
無論だ、と答えた尚隆に、伴侶は桜花の笑みを見せたのだった。
2011.05.07.
後書き
2011/05/07(Sat) 06:41 No.829
昨日は連休の狭間でいろんなものを弄っておりました。
どれもこれも纏まらず、出かける前の更新は無理だと諦めていたのですが、
朝起きたら素敵なメールが届いており、俄然やる気モードにスイッチが入りました!
ありがたやありがたや。
さて、「視点を変えて」シリーズはこれにて終了いたします。
残り少なくなってまいりました祭期間内に何かしら出せるよう頑張ります。
それでは行ってまいります!
2011.05.07. 速世未生 記
王として 由旬さま
2011/05/07(Sat) 10:15 No.830
陽子が尚隆に桜を挿した場面で、尚隆は勿論陽子も王なんだなと改めて思いました。
「国のはたてに咲きにける」。
慶のことでもあるし、かつての雁のことでもあったのではないでしょうか。
個人としての二人のやりとりのようで、その実、
その背景にとても大きなものを感じました。
不心得者ですみません 饒筆さま
2011/05/08(Sun) 15:54 No.836
絵巻物のように美しくて風情のあるお話ですね。
桜の美しさに、御二方の麗しさ、古の歌の風景がそのまま絵になって浮かびました。
ですが・・・あの・・・らぶらぶの続きが読みたいと思う私は不謹慎ですか・・・?
ううっ 瑠璃さま
2011/05/08(Sun) 20:26 No.838
そうですねえ、未生さんのスイッチを入れられたならよしとしますかね(笑)。
やっと尚隆も陽子さんに会えたようで。嵐到来ですか(笑)。
でもこのお話は穏やかな風を感じられて雅やかですね。
言祝ぎ ネムさま
2011/05/08(Sun) 20:58 No.839
互いの髪に花を挿し合う二人。
無論、互いへの愛情もあるでしょうけれど、それと共に、
豊かな国を支える互いへの尊敬の念が感じられますね。
華やかで、凛として。絵になります(うっとり)
ご感想御礼 未生(管理人)
2011/05/09(Mon) 13:13 No.847
皆さま、拙作にご感想をありがとうございました!
由旬さん>
尚隆と陽子は、互いに王であることを、忘れることはないのだろうなと思います。
いつもながら、このような小品の裏まで読み込んでくださってありがとうございます。
妄想が進みます〜。
饒筆さん>
過分なお褒めの言葉をありがとうございます。
映像や音楽が浮かぶ文章を書くことは目標のひとつでございますので、大変嬉しく思います。
らぶらぶの続きですか?
祭用に尚陽を書くときは「祭掲示板」と唱えております。
でないと手が滑って投稿規程を破りそうになりますので(苦笑)。
管理人はそういう奴なので、調子に乗ったら書くかもしれません〜。
瑠璃さん>
はい、萌えと潤いをありがとうございました!
今回はそよ風程度でございます。嵐はまた別口に(笑)。
ネムさん>
昔、桜を頭に挿されて羞じらって固まった陽子主上を書いたことがございます。
切り返しができるくらい貫録がついた陽子主上をお見せできて嬉しく思います〜。
首都だけでなく 空さま
2011/05/17(Tue) 21:25 No.965
慶の各州にも桜が広まると良いですね。
そうか、尚隆さんは慶のあちこちに行って様子を見ているんだろうな。
愛する陽子さんのことが気になって仕方ないのでしょうね。
しかし、尚隆さんの言う「乙女」に若干の食い違いを感じるのは空だけでしょうか??
若い女性という意味ということで納得したいと思います。
ご感想御礼 未生(管理人)
2011/05/18(Wed) 17:07 No.977
おお、戦線復帰ですね。よかったです。
拙作にご感想をありがとうございます。
かの方の目には「乙女フィルター」がかかっておりますので、
陽子主上はいつでも乙女に見えるのですよ〜。
ご納得いただけると嬉しいのですが(笑)。
背景画像 瑠璃さま