「若木の誓い」@管理人作品第11弾
2011/05/20(Fri) 06:22 No.1004
祭の日数も残り少なくなってまいりました。
管理人の作品は小品が漸くふたケタというお粗末さでございます。
開き直ってやっぱり小品をアップしようと思います(苦笑)。
今回は桂桂を書いてみました。よろしければお楽しみくださいませ。
- 登場人物 桂桂・陽子
- 作品傾向 ほのぼの
- 文字数 842文字
若木の誓い
2011/05/20(Fri) 06:25 No.1005
今年も春がやってきた。枝いっぱいに花をつけた桜の若木を見つめる陽子は嬉しげで、見ている者さえ幸せにする。緊張を要する用向きを抱えて内殿を訪れた桂桂は、桜花と女王の美しさに感嘆の溜息をついた。
「綺麗だ……」
我知らず漏らした呟きに、緋色の髪を翻し、陽子が振り返る。その屈託のない眩しい笑み。桂桂は思わず目を細めた。
「ああ、桂桂。綺麗だろう」
満面に笑みを湛えた陽子は桂桂を差し招く。相変わらず自分が褒められたとは思わないらしい。桂桂は苦笑を浮かべて歩み寄る。素直に傍まで行って桜を見上げた桂桂は、陽子の素っ頓狂な声に驚いた。
「──桂桂!」
「な、何ですか?」
陽子は翠の瞳をまん丸にして桂桂を見上げていた。桂桂は違和感を覚えながらそんな陽子を見下ろす。そう、見下ろしたのだ。
「あ、あれ?」
「──大きくなったね、桂桂」
感慨深げなその声、慈愛に満ちたその瞳。今こそ己の決意を示す時だ。桂桂は姉とも思っている女王の前に恭しく跪く。景王陽子は少し目を見張りながらも黙して桂桂を見つめていた。
「主上、私は、官吏になります。お許しくださいますか」
輝ける翠の瞳を真っ直ぐに見つめ、桂桂は己の願いを口にした。陽子はふっと唇を緩め、懐かしげに桂桂を見返す。それから王の貌をして頷いた。
「勿論だよ」
少し淋しいけれどね、と続けて陽子は桂桂に手を差し伸べた。その手を取って立ち上がる。陽子は桜の若木を指差した。
「この樹も、あっという間に私の背を追い越した。同じだね」
桂桂は小さく頷く。隣国の主従に贈られたばかりの頃、この桜の樹は桂桂よりも低かった。そして、陽子に初めて会った時、桂桂は陽子よりもずっと背の低い子供だったのだ。
姉を亡くした桂桂を引き取って育ててくれた陽子。王としてその細い背に国を負う陽子。桂桂は、いつからか、そんな陽子のために働きたいと思っていた。
「期待してるよ、蘭桂」
陽子は桂桂を見上げ、繋いだ手に力を籠めた。桂桂はそっとその手を握り返す。そして、小字ではなく本名を呼んでくれた女王に深く頭を下げた。
2011.05.20.
後書き
2011/05/20(Fri) 06:31 No.1006
実家の庭にはサクランボの樹がございます。
母が気紛れに植えた種が芽吹いて育ったそうで、
気づいたら2mを超える高さになっておりました。
南側に大きな樹があると日当たりが悪くなるので、地味に剪定していたそうですが、
ちょっと忘れているうちに手が届かなくなり、そのまま伸び続けております。
枝は細いのに、もう手を伸ばしても天辺に届きません。
そして上の方に生る実はすっかり小鳥の餌でございます。
そんなことをつらつら考えているうちに書き上がった小品でございました。
終わり終わりと言っていながら、何気に11本目も視点違いでございます(苦笑)。
お粗末でございました。
2011.05.20. 速世未生 記
大人になるとき 饒筆さま
2011/05/20(Fri) 12:06 No.1007
温かな船出ですね。蘭桂に全力でエールを送ります!
男の子が大人になるときと、女の子が大人になるときって、
感慨が全く違うように思いますね。
強く賢く、そしてしたたかな(笑)有能官吏&イイ男になってください!
ご感想御礼 未生(管理人)
2011/05/20(Fri) 17:18 No.1013
蘭桂にエールをありがとうございます。
私も彼には早く陽子主上を支える手のひとつになってほしいと願って已みません。
きっとイイ男になると思います(笑)。
懐かしい 鷲生智美さま
2011/05/20(Fri) 19:42 No.1015
私事で申し訳ありませんが、豚児が小学生になり、日一日と「幼児」から「少年」に
なりつつあるのに感慨を深めております。
桂桂(蘭桂)も少年から青年となり、そしてきっと慶国を背負う能吏へと成長するのでしょうね。
季節も桜花から若葉へと移る頃、素敵なお話を読ませて下さって有り難うございました。
初々しいですね Baelさま
2011/05/20(Fri) 21:10 No.1033
年を重ねた桜の風情も美しいですが、若木の桜の勢いのある姿も美しいもの。
まさに伸びゆく真っ直ぐな桂桂の心が映し出され、
初々しくも陽子と桂桂の気持ちが愛おしく感じられました。
蘭桂は是非ともこのまま真っ直ぐと成長し、陽子の力となってほしいです。
伸びやかで 桜蓮さま
2011/05/20(Fri) 23:01 No.1036
清々しいお話、堪能いたしました。
桂桂の気持ちを汲んで、本名を呼ぶ陽子が素敵ですね。
きっと桂桂の中でも、この瞬間は印象深い思い出としてずっと残るのでしょうね。
そう感じるお話でした。
巣立つとき 瑠璃さま
2011/05/21(Sat) 12:55 No.1041
その時がくると、とても晴れがましく希望に満ちているはずなのに、
見送る側はやはりどこか淋しく感じるものですよね。
一歩を踏み出す桂桂にエールを送ります。大きくなったね。
春に相応しいお話をありがとうございます。
桜と子供たちの成長 空さま
2011/05/22(Sun) 06:04 No.1051
やはり絵になりますよね〜。桂桂長じて蘭桂、大人になったんですね。
蓬莱でも大学に行くころには親、特に母親は息子に身長で抜かれることが多いのですから。
大学に行っていてしばらく留守だったのかなあ?
まだ赤楽それほど経っていない感じで、タイトルが胸に染みました。
でもうれしい ネムさま
2011/05/22(Sun) 16:37 No.1057
抱っこしてきた子供を見上げる時って、感慨深いですよね。
ついに来たか〜って感じ。でも嬉しいんです。
桂桂はいい官吏になるでしょう。子供は周囲を見て育つ。
彼は、飛び切りの人々に囲まれて育ったものね。
ご感想御礼 未生(管理人)
2011/05/23(Mon) 15:54 No.1082
皆さま、拙作にご感想をありがとうございました!
御礼が遅くなってごめんなさいね。
鷲生智美さん>
いえいえ、日々成長するお子さんをお持ちだと感慨も深いでしょうね。
私も先日約1年振りに会った友人の子の声が変わり、
背も抜かされたことにびっくりしたばかりでございます。成長期の男の子って凄いです。
自分は成長が止まっているからこそ、陽子は桂桂の成長に驚き、
嬉しくも淋しい想いを抱くのでしょうね。
Baelさん>
年を経て手が届かないところで咲き乱れる大木も素敵なのですが、
実家の庭に立つひょろんとしたサクランボを微笑ましく眺めてまいりました。
地元で花開く時季は遅いので、私は花を見たことはございませんが(苦笑)。
蘭桂が陽子の許を離れてどんな大人になっていくのか、私も楽しみにしたいと思います。
桜蓮さん>
桂桂が蘭桂になる時を、陽子も桂桂も感慨深く思い出すだろうな、
と妄想しつつ書いたお話でございました。清々しいとのお言葉、嬉しく思います。
瑠璃さん>
巣立つ者を見送る側は、淋しく切ない想いが募るようですね。
桂桂はそんな陽子の想いを汲んで、もっと大きくなって帰ってきてくれるでしょう。
そう願って已みません。
空さん>
4月のラジオは巣立ったお子さんを思って泣くお母さま方のコメントばかりでございました。
先日会った知人もこの春に上の子を送り出し、「どう?」と聞いただけで涙ぐんでおりました。
切なさ伝染……(苦笑)。
私の周りでは中学生に背を抜かれる母たちが多いのですよ〜。
だからこの桂桂は少学に行く前くらいを想定いたしました。
いろいろ想像してくださってありがとうございます。
ネムさん>
そうですね、ぎゅっと抱きしめていた子が自分より大きくなってしまった時って嬉しくて淋しい。
感慨深いと思います。
陽子や金波宮のみんなに可愛がられて育った桂桂は、
きっと思いやりのある官吏になると私も思います。
背景画像 瑠璃さま