「投稿作品」 「11桜祭」

惜春 夕日さま

2011/05/10(Tue) 10:44 No.858

登場人物   慶国主従・雁国主従  
作品傾向   ほのぼの  
文字数   1275文字  

惜   春

夕日さま
2011/05/10(Tue) 10:44 No.859

桃色の花びらが、川面を流れていく。
流れに沿い、浮き沈みしながらゆっくりと、遠ざかっていくのを、陽子はぼんやりと見つめていた。
「大方散ってしまったようだな」
陽子がぽつりと呟く。すると、傍らから、静かな返事が返ってきた。
「ええ、そのようですね」
陽子がひょいと顔を横に向けると、景麒はじっと川を見つめたまま、こう言葉を続けた。
「折角あれほど綺麗に咲いていたというのに、こんなに早くに散ってしまうのですね」
慈悲の神獣らしい言葉に陽子はちょっと目を見張って、そうだな、とぽつりと返す。
少ししんみりとした雰囲気になった二人に、焦れたような声がかかった。
「おい、二人とも、何をしてるんだ」
二人は同時に振り向き、陽子が呆れたような声をあげる。
「延王、もう一本空けてしまったのですか」
尚隆はにやりと笑い
「案ずるな、酒は幾らでもある」
ともう一つの瓶に手をかけた。
「別になくなることを心配してるわけじゃありませんよ」
陽子ががっくりと肩を落とし、その隣で弁当を突付く六太に目を向ける。
六太はにんまりと笑い、箸を振った。
「別に全部食べたりしないから心配するなって」
「してません」
きっぱりと言いながら、陽子は二人が座っている毛氈に腰を下ろす。景麒もそれに従った。
「まあ、飲め、飲め」
尚隆がそう言いながら盃を示し、徳利を差し出す。
「・・・はあ」
陽子は盃を取り、朱色の器に透明な液体が溜まっていくのを見つめた。
「ほら、景麒。お前もだ」
促されて、景麒も盃をとる。
景麒の盃にもなみなみと酒を注いだ尚隆は、慶国の主従に向かってさあ飲めと勧める。
陽子はぐいっと盃を呷った。それを見た尚隆が、いい飲みっぷりだ、と笑う。
喉元がかっと熱くなり、ふらりと視界が揺らいだ。
蓬らいでも、こちらに来てからも酒などあまり飲んだこと陽子にとって、それは珍しい体験で、なるほどこういうものか、と思う。
「うまいだろう、この銘柄は雁でも人気が高いんだぞ」
尚隆がそう言うが、陽子に酒の味がわかるはずもなく、はあ、と言葉を濁していると、
「まことに、美味しゅうございます」
と景麒が答えた。
(そうか・・・こいつはこう見えても私の倍は生きてるんだっけ)
そう思いながら半身に目をやるといつもと変わらぬ表情で、手酌で酒を注いでいた。
「お前、酒強いのか?」
陽子がそう聞いてみると、景麒はさて、と首を傾げる。
「嗜む程度しか飲んだことがございません故」
嘘つけ、と言い返そうとした陽子の耳に、ふと尚隆の呟くような声が飛び込んだ。

「誰か為に東流を駐めて、年年 長えに手に在らしめんや、か」
一体何のことかと陽子は尚隆に目を向ける。

「なんです?」
聞こえたか、と尚隆が唇を歪める。
川に視線を投げた瞳には、陽子には推し量れないような感情の色が浮んでいた。
陽子がじっと横顔を見詰めていると、尚隆はひょいと陽子の方を向き、
「せいぜい過ぎる春を惜しめってことだ」
と言い様ぐいっと盃を空けた。

 春半ばぶすて 年已に除す
 其の余は 強いて有りと為
 即ち此に 残花に酔い
 便ち同に 臘酒を嘗めん
 悵望たり 春を送る盃
 殷勤たり 花を掃う箒
 誰か為に 東流を駐めて
 年年 長えに手に在らしめんや


Re: 惜春 夕日さま

2011/05/10(Tue) 10:56 No.860

 こんにちは、夕日です。 この度、三作目を投稿させていただきました! CPはないつもりです。
 後、夕日の中で、景麒と浩瀚と尚隆はザル設定です。 陽子や朱衡は割と酔う方じゃないかなと思います。
 漢詩の作者は杜甫で題は「惜春」です。 かなり付け焼刃の知識ですので、何か間違っていたらごめんなさい。

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