「投稿作品」 「11桜祭」

今年の桜祭は・・・ griffonさま

2011/05/23(Mon) 00:47 No.1076

結局、なぁ〜んにも出来ずに終わってしまいそうです(^_^;)
 感想を叫んでみたり、連鎖妄想爆発させたりしたかったのにぃ
 ・・・地元の桜の季節を外してしまったので、桜が殆んど出てこないんですけど・・・ ほんの短いのを書いてみました。 いつも短時間で書くことが多いのですが、 でも書き始める前に脳内で「あ〜でもない、こ〜でもない」とイヂリ倒してから書いてるから、 書けるんだなと、改めて感じました。 脳内醗酵無しだと、意外に手が動いてくれない(^_^;) 2.5Hかかりました(^_^;)  その上、元々無いクオリティも・・・下がりっぱなしで・・・ 読むに耐えないものですが、せめて参加だけはさせていただければと・・・ il||li _| ̄|○ il||l
 一応、浩陽のホノボノ系です。文字数は1800文字くらいです。

登場人物   浩瀚・陽子  
作品傾向   ほのぼの(浩陽)  
文字数   1760文字  

結   実

griffonさま
2011/05/23(Mon) 00:54 No.1077

 ――この音。何の声だったか……薄い板をずっと振動させるようなこの独特の声。

 桜の季節が終わり、日中は冬の官服ではもう暑いほど。慌てて夏の官服に着替えてしまうと、日が暮れこの声が聞こえる刻には肌寒く思われる。厄介な温度差。

 そして、それ以上に厄介なのは、水を巡っての争いだ。この虫の音は、それが始まる合図とも言える。

 慶東国の主食は米である。米を作るには大量の水を必要とする。多ければ多い成りに、少なければ少ない成りに、この時期には水を巡って争いが絶えない。入梅を前にして、地官達が慌しく駆け回り、起こった揉め事を裁く為に、秋官達も駆け回る。駆け回っても駆け回っても人手が足らない。足りない人員を補充するために、冢宰府からも人員を割いていた。自然、百官の長であるこの男にも、何時にも増して仕事が増えていた。昼間、麾下の前ではおくびにも出さないが、一ヶ月程まともに寝ていないともなれば、ほぼ自宅となっている官邸の園林の奥にある、隠れ家とも言えるこの草庵であるなら、転寝も許されるはずだ。草庵の榻の上で横になって考え事をしているうちに、寝入ってしまったようだった。

 目が覚めたのは、意識の何割かが虫の音とは別の物を感じて、警戒を発していたからだった。妖魔の気配だ。

 ――こんなところまで妖魔がっ。確か榻の背凭れにかけられた官服の袖に、短剣が忍ばせてある。心許無いが今はそれに頼るしかないか。

 が、其れより何より、こんな所で寝入ってしまった自身の不覚に舌を打った。不自然な姿勢を長くつづけたせいだろう。躯がまともに動かないのだ。両の手足がかなり痺れていた。上手く逃げおうせるかどうかと考えたところで、浩瀚は自身の意識が少し混濁している事に気がついた。今居る場所は、妖魔に怯えながら過ごした子供の頃でも無ければ、そう言う民を気遣いつつ臨戦態勢のまま毎夜過ごした麦州の片田舎の官舎でもない。

 金波宮の中で妖魔の気配がすると言えば……。風を入れるために開け放たれた草庵の園林に面した扉から足音を忍ばせながら、誰かが入ってくる気配がした。

 扉から入る風に乗って匂う香りは、王宮の一郭でしか嗅ぐ事の出来無いもの。其れを肺に取り込んだ浩瀚は、溜息ごとゆっくりと鼻から吐き出した。

* * *    * * *

 房室の中には呪の籠もった灯が一つ、瞬く事も無く灯っていた。扉から一歩入った侵入者は、その明るさに慣れるまで、じっとしていた。後ろで緩く束ねた紅い髪を揺らせて、房室の様子を伺う。榻に横たわる浩瀚を認めると、口角を上げてくつりと笑った。

 手に持っていた白磁の皿を、音を発て無いよう注意しながら榻の前の小卓に置いた。男物の様にも見える官服の胸元から巾着を取り出すと、その中身を皿の上にあけた。一度巾着の中を覗き込み、それから自身の体を撫でるように弄る。左の腰に着けたもう一つの巾着から何かを摘み出して暫く眺めていた。

 ゆっくりと横たわる浩瀚の右手側に近づき、膝を着いた。摘んだ其れにそっと唇を当て、ついで躯を屈めて浩瀚に覆い被さった。暫くじっとしていた侵入者は、躯を起こすと、くつくつと笑いながら浩瀚の前髪を指先で二度ほど撫でてから摘んでいた物を皿の上に置いた。声を出さずに唇だけを動かして何事かを呟くと立ち上がり、そのまま房室を出て行った。

* * *    * * *

 侵入者が出て行ってから半刻ほどして、漸く浩瀚は榻から半身を起こすことが出来るようになった。座りなおした浩瀚は、眉間に皺を寄せ自身の不覚を恥じながら、小卓の上にある皿を眺めていた。皿の上には、侵入者の紅い髪にも似た色合いの桜の花弁が盛られていた。その上に、硬いが紅く色づいた楕円形の桜の実が一つ、乗っていた。

 ――先ほどのひんやりとした感触はこれか

 ――それにしても、この時期になってもまだ、桜の花が残っていたとはね……さて、この食べられぬ桜の実には、如何なる意味が籠められているのやら。

 頬の端に苦笑いを浮かべた浩瀚は、右手の人差指と親指の先で、自身の唇をそっと撫でた後、その桜の実を摘みあげた。感触を確かめるように、唇に当ててみた。先ほどのひんやりとした感触と少し違っているように思えた。唇に何かを当てられた時、侵入者の吐息がかかった左の頬を、右手の人差指と中指で撫でながら、時には隙を見せるのも良いかもしれないと思い直していた。

―了―

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