「管理人作品」 「13桜祭」

昔語り@管理人作品第9弾

2013/05/30(Thu) 16:56 No.637
 管理人的連鎖妄想(笑)。駆け込みで連鎖の嵐でございますね(苦笑)。 senjuさん作#16「八十二、八十三」から妄想した尚陽でございます。 3月からずっと纏められずに七転八倒しておりましたが、 翠玉さん作#593「囲碁の勝敗」を拝読して尚隆のかっこ良さに打たれました。 お蔭さまで書き上げることができました〜。 よろしければ甘めの尚陽をお楽しみくださいませ。 

※ 管理人の作品は全て尚陽前提でございます。

昔語り

2013/05/30(Thu) 16:57 No.638
「ええい、もう一度。もう一局じゃ」
「――おいおい、爺さん」
 碁盤をひっくり返しそうな勢いの老爺に、尚隆は思わず苦笑する。そんな尚隆に、老爺は意気軒昂に言い放った。
「今度は負けんぞ、若僧」
 尚隆は口の端を上げた。若僧呼ばわりなど久しぶりだ。尚隆に対張る碁の弱さといい、この老爺はなかなか楽しませてくれる――。

「どうかした?」
 不思議そうに問う声は、老爺のしわがれたものではない。見下ろす瞳は、輝かしい翠の宝玉だ。それは、彷徨う意識を現に戻す力を持つ、愛しい伴侶の澄んだ瞳。尚隆は小首を傾げる伴侶に笑みを返した。
 春爛漫。伴侶の膝に頭を載せ、尚隆は満開の桜花を仰ぎ見る。麗らかな陽気に寛ぐ至福の時。もし、あの頃、退屈凌ぎに始めた賭けを全うしていたら、己は今ここにいなかったかもしれない。遠く過ぎし日の幻を振り返り、しみじみとそう思った。
「――昔のことを思い出していただけだ」
「昔のこと?」
 笑みを湛えて伴侶に目を戻す。伴侶は翠の目を見張って問うた。そういえば、伴侶にはこの話をしたことがない。
「聞きたいか?」
「うん!」
 伴侶は弾んだ声で応えを返す。好奇に満ちた貌に笑みを送り、尚隆はおもむろに昔語りを始めた。

「俺は碁が弱くてな。だが、たまには勝つこともある。そんなときは碁石を掠め取った」

 つまらない。

 胸の中を占めるその思いに突き動かされ、他人に言えぬ昏い楽しみに興じていたのはいつのことだっただろう。たまさかに、ひとつずつ増えていく、白と黒の石。時折取り出して眺めては悦に入っていた。百集めたら、そのときは。
「――そのとき、は?」
「言わずもがな、だろう」
 躊躇いがちに問う伴侶に、尚隆はにやりと笑みを返す。事もなげに答えると、伴侶は何も言わずに俯いた。尚隆は喉の奥で笑う。そして、伴侶の手を取り、語りを続けた。
「八十を超えたあたりから、さすがに頭が冷えてきて、碁の勝負を持ちかけることは控えるようになった」
 遠ざかっていた碁盤と向き合うことになったのは、そんなときだった。旅先で出会った老爺に乗せられ、一局打ったところ、存外に勝ってしまったのだ。
「悔しがる爺さんにせがまれて、もう一局。またも勝ってしまった」
 もういい、と意気消沈した老爺の真似をすると、伴侶は楽しげに笑い転げた。散々笑い、目尻を拭った伴侶は、話の続きをねだる。
「それからどうしたの?」
「どうもこうも。爺さんは碁石をふたつ置いて行ってしまった。その場に残された俺は……」
「俺は?」
「――阿保らしくなった」
 尚隆は肩を竦めて応えを返した。伴侶は軽やかな笑い声を立てる。それから、ふと柔らかな貌を見せた。
「――もしかしたら、そのお爺さん、わざと若僧に負けてくれたのかもね」
 尚隆は片眉を上げる。伴侶は茶目っ気たっぷりに片目を閉じて続けた。

「だって、それが切っ掛けで賭けを放棄したんでしょう?」

 きっと我が意を得たり、とほくそ笑んだに違いないよ、と伴侶は楽しげに笑う。その言葉に虚を衝かれ、尚隆はしばし黙した。苦い思いが胸に迫る。

 天は、王を試すのか――。

「お爺さんに感謝だね」
 お蔭であなたに会えたから、と伴侶は頬を染める。込み上げる苦さを払拭する、その眩しい笑み。尚隆は掴んだ小さな手を引き寄せて、桜色の頬にそっと唇をつけた。

2013.05.30.

後書き

2013/05/30(Thu) 16:59 No.639
 この小品、書き始めは3/15でございましたよ。 シリアスに纏めようとしたから玉砕したのですよね〜。 桜祭、甘々上等! さすが祭最終日、頭壊れてる(苦笑)。
 senjuさん、翠玉さん、かっこ良い尚隆はお任せいたしました。 管理人は、ごーいんぐ☆まい☆うぇい! でまいります(笑)。 萌えをありがとうございました〜。

 祭最終日、駆け込み歓迎!  管理人もできればもうひとつくらい仕上げられたらいいなと思います。

2013.05.30. 速世未生 記

あまあま大好きです! 空さま

2013/05/31(Fri) 20:36 No.687
 陽子さん素晴らしい!
 この陽子さんは100%空の好みの陽子さんです!
 自然体でにこやかで物事の本質をついてくる、 尚隆さんもかっこいいけど、陽子さんもかっこいいなあ〜
 まあ、だからこそ延王は陽子さんにほれ込んだのでしょうね〜〜
 もう明日は来られないかもしれないので、今日の今お訪ねしてよかった〜〜 楽しいお話読めました!

ぎく senjuさま

2013/05/30(Thu) 21:34 No.644
 ・・・もしかして、お絵描き中のワタシの独り言とか聞こえてましたか(苦笑?
 爺様とのやり取りが、負けてしょぼくれる辺りまで、 あまりにワタシの想像のままなのでびっくりしました@@;
 ええ。陽子さんとの甘いひとときは、もちろん想定外でございまして、 ワタクシただただ幸せを噛みしめています(笑。 甘甘万歳♪

かわいいです ネムさま

2013/05/30(Thu) 21:34 No.644
 天に喧嘩を吹っかけたつもりが、実は試されたのかと思い、 一瞬苦い思いをする尚隆の負けん気も、それを吹き飛ばす陽子の素直さも、 どちらも可愛い!
 爺様がただの人か、天帝の意を受けた何者か、どちらにしろこの二人を見たら、 こう言うんでしょうね
「もう いい…」

カワイイ爺さんデスネv(笑) 翠玉さま

2013/05/31(Fri) 13:33 No.671
 わたしの妄想駄文で作品が完成できたならば書いた甲斐がありましたv  ごーいんぐ☆まい☆うぇい! はわたしの方ですよ〜!

 二百年前でどうやって尚陽にするのだろうと思っていましたが、 ピロー・トっと違った、思い出語りだったのですね。
 それにしても陽子主上の膝枕とは許せません!!!  何ておいしい役所を・・・蹴ってもいいですか? ←こらこら!
 胎果の殿ならではのシチュエーションですね。 これ以上の野暮は申し上げますまい、退散します(笑)

ご感想御礼 未生(管理人)

2013/05/31(Fri) 17:15 No.679
空さん>
 拙作の陽子主上をお気に召してくださりありがとうございます!  私も尚隆はこういう陽子が好きなのだと思います。
 ここで語るのどうかとは思いますが、尚隆のように 「想像の範疇のことは全て対策済みだ」と明言する人物は意表を突かれると 弱いと思うのですよ(笑)。
 空さんにお楽しみいただけて嬉しゅうございます。 今年もご参加ありがとうございました!

senjusさん>
 うわ、連鎖元の絵を描かれたsenjuさんにそう思っていただけて嬉しい!
 実はこれ、最初は尚隆がひとりで思い出しているお話でございました。 ええ、もうシリアスでダークで(苦笑)。 どうにも纏まらなくて、陽子主上にお出まし願いました。 甘々をお楽しみいただけてよかったです♪

ネムさん>
 そうなんです、尚隆ひとりだと「天は王を試すのか」と 悶々し続けて話が進みませんでした。陽子主上最強!
 最後のセリフに吹きました(笑)。

翠玉さん>
 翠玉さんのかっこ良い尚隆はほんといつも私の妄想を刺激してくださいます。 謝謝!
 そうそう、昔語りで尚陽化(笑)。 陽子の膝は俺のもの状態でふんぞり返っておりますので、 どうぞ蹴ってやってくださいませ!
背景画像「四季の素材 十五夜」さま
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