喪失の序章@管理人作品第10弾
2013/05/30(Thu) 22:06 No.647
ラストスパート終了!
今年のラスト作品を仕上げました。最後まで末声でごめんなさい。
大丈夫な方だけご覧くださいね〜。
※ 管理人の作品は全て尚陽前提でございます。
- 登場人物 景麒・陽子
- 作品傾向 シリアス(末声注意!)
- 文字数 577文字
喪失の序章
2013/05/30(Thu) 22:07 No.648
今年もまた、庭院の桜が蕾をつける。麗しき宮の主は、吸い寄せられるように古木へと向かった。そっと太い幹に寄り添う。そして、時が止まった。
桜花と語り合う半身を、景麒は幾年も見守り続けた。鮮烈な紅の女王は、いつしか翳りを身に纏い、静かに微笑むようになった。今の主を闊達だと称する者は誰もいないだろう。
古木に身を預ける主は、そのまま桜になってしまいそうだった。慶が誇る美しき緋桜。それがほんとうになってしまったら。景麒は小さな溜息をつく。そんな不安は声となって唇から放たれた。
「──主上」
「景麒……」
主は振り返らずに淡い笑みを浮かべる。王気も陽炎のように淡い。いつかのときのように。それだけで、主が何を口にするかが分かってしまった。それが、もう、避けられないことだ、ということも。
「私……もう、楽になっても、いいかな……?」
躊躇いがちな細い声。桜に寄り添うその姿は儚く、そのまま天へと昇っていきそうな風情を醸していた。景麒はしばし瞑目する。とうとうこの日がやってきてしまった――。
「主上――」
言いかけて喉が詰まった。それでも言わなければならないだろう。景麒は声の震えを抑え、おもむろに言葉を返した。
「お心のままになさいませ」
景麒の半身は、驚いたように振り返った。見開かれた翠の瞳が真っ直ぐに景麒を見つめる。そして、主は泣きそうに笑い、静かに景麒の肩に頭をつけた。
2013.05.30.
後書き
2013/05/30(Thu) 22:08 No.649
小品「桜の決意」景麒視点をお送りいたしました。
自作連鎖で大変失礼をば。
拙作#352「桜の雨」にいただいたコメント#363に妄想を刺激されて書き流しました。
海さん、ありがとうございました。
さて、管理人、これからゆっくり皆さまの作品を楽しませていただきますね!
残りあと2時間ほど、駆け込み投稿をお待ち申し上げておりますよ〜。
レスは明日でも間に合います。
皆さま、勇気を出して大好きなあの作品にコメントを残しましょう(笑)。
2013.05.30. 速世未生 記
お休みなさい ネムさま
2013/05/30(Thu) 23:29 No.657
季節が移り替わろうとしていますね。多分、そういう時期なのでしょうね、
このお話の慶は。
三春の滝桜の種を拾い苗木に育て、各地に送っている方がいるそうです。
千年の桜の子供たちがあちこちで現在咲いているとか。
きっと慶の緋桜の子供達も国中に広がっている、
だから景麒も陽子を休ませてあげようと、声を掛けたのでしょう。
季節の最後にふさわしい美しい情景でした。
涙は要らない 饒筆さま
2013/05/31(Fri) 00:26 No.659
麒麟が主を見送る覚悟を決めるまで、何年かかったのでしょうね……
いやはや景麒は強いですね。
例えば六太なら、何年経とうが決してこんな台詞は口にしないと思います
(否、主もそんなことは言わないか)
こんな送り方をしたのなら、確かに涙は要りませんね。
遠く旅立ったひとの幸福を祈るばかりです。
死のみが唯一の慈悲なのですよねTT 翠玉さま
2013/05/31(Fri) 14:00 No.673
この景麒は物凄く納得できます!
わたしもこの景麒の立場のものを拙宅で書くつもりなのです。
誰に対してかはまだ書いていないので申し上げませんが、見当はつきやすいかと(笑)
陽子主上もよくぞ正気を失わないで耐えたものです。
さすがは慶国の王と称えさせてください。
そして、未生さんも怒濤の作品アップ、ご苦労様でした。
今年のお祭りはまったりと作品を楽しめました。
楽しい桜祭りの開催を、ありがとうございましたm(_ _)m
納得 海さま
2013/05/31(Fri) 19:28 No.682
陽子は景麒を説得する必要などみじんもない。
ただ一言打ち明けるだけで良かったのですね。
景麒も陽子を引き留めるのはエゴだと分かっている。
誓約を受けてもらったときの景麒と、禅譲を認めてもらった陽子と。
どちらがより喜びと感謝と感じることでしょう。
どこまでも対になるのが王と麒麟ですね。
心にしっくりなじみます。
未生様の描く末世 空さま
2013/05/31(Fri) 20:36 No.687
とても静かで、穏やかで、桜の花が良く似合うと思いました。
末世は悲しいものですが、こんな穏やかに国を終わらせることができるなら、
それは十二国の奇跡になるのかもしれません。
大変無粋な想像で恐縮ですが、十二国の王がたがいに恋をして片方の王気の消失を
見送ると、片方も王気が儚いものになるというのであれば、
各国はなんとなく自分の国の王を他国の王と引き合わせたくはないかもしれません。
色々な意味でお二人は破格で唯一無二だったのだと、そんな風に感じてしまいました。
妙な感想になってしまいすみません。
ご感想御礼 未生(管理人)
2013/05/31(Fri) 22:33 No.690
皆さま、末声小品にご感想をありがとうございます!
ネムさん>
三春の滝桜のように、陽子主上の愛した桜は国中に
植樹されているのでしょうね……(泣)。
こちらこそ、いつも美しい言葉でのご感想をありがとうございました!
饒筆さん>
はい、景麒は強いと私も思います。
六太は……「おれはもう王なんか選ばない」と主に言い放つと思います
(実際そんなお話を書いてしまいました……)。
泣かずに見送る景麒に、私の方が(泣)。
翠玉さん>
ご共感をありがとうございます。
翠玉さんが胸に抱くお話、いつか拝読させてくださいね。
陽子主上は「己を律し長生きをすること」という太師の教えを
忠実に守ったのだと思います。
国を荒らさずに登遐する王であってほしいという
私の願望の表れてもございますね……。
長期休暇の終わりに涙目で宿題を片付ける子供のようですよね(苦笑)。
こちらこそ楽しませていただきましたよ。
お付き合いくださりありがとうございました!
海さん>
お呼び立てしてしまいましたね、失礼いたしました。
ご納得いただけて嬉しゅうございます。
悲しみの中にも強い絆を持つ二人であってほしいと思います。
空さん>
散る桜はいつもこんな妄想を掻き立てます。
温かなお言葉をありがとうございました。
尚隆登遐後、王を亡くした隣国を援助し、
景麒が納得するほど永い時を経た末の登遐でございます。
私も胸が痛みます……。
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