「投稿作品集」 「13桜祭」

私も喜び勇んで 饒筆さま

2013/03/14(Thu) 23:00 No.19
 こんばんは。桜が開花した昨日から一転、本日は当地も寒くなりました。 本当に気温ジェットコースターは困りものですねえ。

 さて、私も喜び勇んで、開宴お祝いを献上いたします。 未生さま、稚拙ですが頑張って尚陽を書いてみましたよ。
 2011桜祭投稿作品#651、senjuさまの美麗絵「殿の(シアワセな)花見」からの 二年越しの連鎖妄想です。
 senjuさますみません、お借りしました。 雰囲気を壊していなければよいのですが…… あのドキドキ☆緊迫する(笑)ワンシーンが今でも大好きなんですぅ〜!
 なので、「双方向片思い」のキーワードを自己流に解釈してみました。 そして尚陽派の未生さま、senjuさまに捧げますので、 拙宅の殿もカッコ良さ200%増しにしてみました(これが精一杯です、すみませんっ)
 お楽しみいただければ幸いです〜(どきどき)

殿の、実にシアワセな花見

饒筆さま
2013/03/14(Thu) 23:02 No.20
 ずるい。
 最初に思いついた言葉がそれだった。
 ずるい。――そこにいるだけで絵になるなんて、ずるい。
 抜けるような青空に、薄紅の雲霞をかける満開の桜。今を盛りと誇らしげに揺れるその下に、ごろりと横たわる美丈夫。彼がいるだけで世界が変わる。まだ若く、華やかとは言い難い桜園に、春陽の温もりが溢れ、薫風が爽やかに通い、そして大地より萌えいずる力が鮮やかに満ちてくる。
 ただ背を向けて寝転んでいるだけなのに。
 ぶう、とむくれた気配に気づいたのか、逞しい肩越しに不敵な横顔が現れる。闊達だが底力のある視線に射抜かれて、心臓が跳ね上がった。
「陽子か。邪魔しているぞ」
 隣の超大国を創り上げた王は、くい、と朱杯を干し、横になったまま無精に反転してこちらを向く。
「……せめて事前に一言、来ると伝えてください」
 いつも突然なので困ります、と陽子が小言を挟めば、
「それができるならな」
 延は鷹揚に受け流し、朱塗りの銚子を掲げてみせた。
「そんなところで突っ立っていないで、一杯どうだ」
 片目を瞑られて、陽子はますます表情を固くする。
「遠慮します。また執務に戻りますから」
 そして澄ましたふりをして、半身離れた場所へ腰を下ろした――落ち着かない。お尻がそわそわする。彷徨う瞳を桜へ逃がす。
 ああ、あの淡く可憐な花びらは、麗らかな陽の中であんなに穏やかに輝いているのに。私はとても穏やかではいられない。
 そんな内心を知ってか知らずか、暢気な世間話が続く。
「最近、気の利く者が増えたな。大騒ぎせずにここまで案内されたし酒も出た」
 声が近い。背筋が伸びる。
「……ご自宅より寛いでいますよね」
「ああ。尻を叩かれずに済むからな」
 くつくつ。喉を鳴らして悦に入る声が耳に入り、陽子の目尻が険を帯びた。何故か、からかわれている気がする。
 あらぬ方を向き、ぶっきらぼうに訊く。
「で。今回の御用件は何ですか?」
「わからんか?」
 血が昇り、頬が上気するのを懸命に堪える。
「わかりません」
 ついに陽子は、フンッと鼻を鳴らして完全に背を向けた。
「なんだ」
 衣擦れ。起き上がる気配。触れるか触れないかの距離に迫る、広く温かな胸。酒精の香る息を感じて、ひゃっと肩を竦める。
「過年、うちのをくれてやるから、金波宮に桜園を造ったらどうだと勧めたろう?」
 頬が熱い。耳朶も熱い。耳元で囁くはやめて欲しい。
「……そうですね、確かに伺いましたが」
「そのとき、理由を問うおまえに告げたはずだ――春は花、青葉に実が為り、秋は紅葉。桜園が在れば、俺が通う口実ができるから、と。それを聞いておまえは桜園を造った。色良い返事を貰ったと思ったのだが」
 男の温もりが、唇が迫る――もう限界だ!
「わ、私は!!」
 咄嗟に跳び逃げ、くるりと身を翻して延を睨みつける。
「単に、タダでいただけると聞いたから、貰っただけです!!そして花見をしたくて植えただけで!!」
 汗をかくほど赤面した自分が恥ずかし過ぎる。口には出せなくて、胸中で叫ぶ。
――勘違いするな、ばかあ!
 ぶっ。延が吹き出し、大きな手で己の口を押さえた。頼もしい肩を震わせて笑う。(くっくっくっく)
「笑わないでくださいッ!」
 ムキになって叫べば、実に愉快気な目と目が合って、未だ笑いが収まらぬ延が両手を上げた。(わかったわかった、降参だ)
「そんな顔をするな。せっかく、眺めるだけで満足してやっているのに――」
 す、と掌を返すように笑みが消える。
「手折りたくなるではないか」
 えええ?
 真意がわからぬまま、陽子はタジタジ尻込みする(野生の勘)。
 しかし延はまた、込み上げる笑いを噛み殺しつつ、自堕落に寝そべってしまった。次いで、敷物の上をぽんぽんと叩く。
「せっかくの好天だ。そんなにしたいのなら、『花見』を満喫してゆけ。勿体無いぞ。ほら、ここへ戻れ。この樹が一番だ」
 そ知らぬ顔で手酌を始めたのを見て――陽子はおずおずと敷布へ戻った。今度はきっちり身ふたつ分以上空けて座る(油断ならない)。
 それから咲き誇る桜花を見上げたが。なんだか隣から押し寄せる秋波が気になって気になって、花見どころではない。 我慢ならずに声を荒げる。
「もう!こっちばかり見つめないでくださいよ!」
「なぜだ? 花見なのに『花』を愛でてはならんのか?」
「花はあっちでしょう?!」
「目が離せぬほど綺麗だぞ」
 真顔で放たれた一言に陽子が撃沈し――延の高らかな笑い声が、雲ひとつない空へ響き渡った。

 ……実に楽しそうですね、殿……。

<了>
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背景画像「四季の素材 十五夜」さま
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