散降桜@管理人作品第10弾
投稿日:2014/05/25(Sun) 18:02 No.774
管理人、漸く最後の作品を仕上げました。
昨年の祭にいただきました瑠璃さん作「移ろう」が
祭の最初からずっと胸にありまして……。
末声且つ連作の一場面で申し訳ないのですが、昇華させていただきました。
苦手な方はご覧にならないでくださいね〜。
※ 管理人の作品は全て尚陽前提でございます。
- 登場人物 陽子・利広・祥瓊
- 作品傾向 シリアス(尚隆登遐後末声及び利陽注意!)
- 文字数 1017文字
散降桜
2014/05/25(Sun) 18:03 No.775
「そろそろ桜が咲くかと思って」
久しぶりに現れた風来坊の恋人は、そう言って爽やかに笑う。ほんのりと咲き初めた薄紅の花を見やり、陽子は微笑した。
「いい読みだね」
「花見の季節を逃すわけにはいかないよ」
緋桜も美しく咲き匂うから、笑い含みにそう続け、利広は手を差し伸べる。陽子はその手を取り、ともに目覚めかけた可憐な桜花を見上げた。
気儘な旅人は桜が散るまで金波宮に滞在し、いつもの言葉を残して去った。
「君は、思うままにしていいんだよ」
陽子を抱きしめて、利広は優しくそう告げる。そんなわけにはいかない、と返すと、誰が止めても私だけは止めないよ、と微笑む。陽子は意味が分からず、困惑してばかりいた。けれど、今は。
ひらりひらりと舞い散る花弁を掌で受けとめて、陽子は小さく息をついた。春風は、優しく吹き抜ける。陽子の内深くに秘めた想いを見透かして。そんなとき。
「――大公を置くことは考えていないの?」
不意に声を掛けられて、陽子は振り返る。そこには意を決したような硬い貌をした祥瓊が立っていた。
「大公?」
言葉の意味を図りかね、陽子は首を傾げて問い返す。祥瓊は躊躇いがちに言葉を続けた。
「だって……あの方は、王ではないでしょう?」
大公とは女王の伴侶に贈られる称号。それを思い出して陽子は納得する。喪われた伴侶は隣国の王だったが、利広は王ではない。祥瓊の言いたいことを理解して、陽子は軽く笑った。
「王ではないけれど、最長命国の太子だよ」
「でも……」
祥瓊は言い募る。確かに、伴侶が逝ってかなりの歳月が過ぎた。陽子が利広を受け入れてからもそれなりの時が経っている。側近が気を揉むわけも分からなくはない。しかし。
「祥瓊、風を留めることはできないんだよ。私は、風には風のままでいてほしいんだ」
風は気儘だからこそ風なのだ。そして、吹いては去る風にだから言えることもある。それは、風こそが最もよく知っていることだ。
陽子はおもむろに空を見上げた。こうすれば、いつでも風を感じることができる。祥瓊がそれ以上何も言わなかった。陽子は桜に眼を戻して続ける。
「――それにね、あのひとの旅は、私で終わりじゃない」
君は思うままにしていい。
そう繰り返し告げる恋人は、いつか静かに景王陽子を見送るのだろう。王ではないが、王をよく識る大国の太子は――。
盛りを過ぎて散り降る桜は、まるで己のようだ。散る時は潔く。そう言ったのは亡き伴侶。吹く風に散らされる花吹雪に手を伸ばし、陽子は淡く笑んだ。
2014.05.25.
後書き
2014/05/25(Sun) 18:05 No.776
最後が末声で失礼いたしました。
瑠璃さん、素敵な絵を末声妄想にしてしまってごめんなさい。
萌えをありがとうございました〜。
なんだかんだ言いつつ祭を開催する理由のひとつは末声作品を進めるためでございます。
何年経っても書き終われないような気もしてまいりましたが……(苦笑)。
今年もお付き合いくださりありがとうございました。
さて、祭最終日、皆さまの素敵な桜、まだまだお待ち申し上げております。
レスやご感想も歓迎いたします〜。
管理人、また後程レスしに戻ってまいりますね。
2014.05.25. 速世未生 記
いえいえ 瑠璃さま
2014/05/25(Sun) 20:18 No.780
昨年の遅刻作品を取り上げてくださって、ありがとうございます。
風は確かに留まることなく、吹き続けなければ風ではないのでしょう。
利広は陽子さんの望みをわかっているから、
風のままでいるのかなと、ふと思ったりしました。
まあ性分もあるんでしょうけど。
ラストスパート、お疲れ様でした。
感慨 ネムさま
2014/05/25(Sun) 22:35 No.786
風は風のままにー どちらの御仁も風のような人たちですものねぇ。
でも風を捉えられるのは、風に花弁を華麗に散らすだけでなく、
次の年もまた花をつける強い樹木のような女性だからなのかも…
なんてことを思いました。
それにしても瑠璃さんの昨年の絵をイメージされたそうですが、
今年の↑の絵もぴったりですね。以心伝心だったのかしら?
脱帽 海さま
2014/05/25(Sun) 22:48 No.788
いつものことながら、未生さまのラストスパートには脱帽です。
互いに無理をせず、自然な姿で向き合える二人ですね。
最初からわたしの理想とする老夫婦の完成形に近い気がします。
(若い頃、結婚願望は一切ありませんでしたが、
老夫婦になら明日からなってもいいと思っていましたの(笑))
この時にはすでに陽子は決意していたのですね。
散る桜に相応しいお話をありがとうございました。
風の人 さらこさま
2014/05/25(Sun) 23:51 No.797
確かに風来坊さんは風のように留めるわけにはいかない人ですよねぇ。
なんだかんだ言いつつ、見送り続ける人になりそうな利広の感じに
ついつい惚れこんじゃいそうになりました。
お互いに、そのままでいいといいあえる関係って、良いですねぇ・・・
その真意は…… 饒筆さま
2014/05/26(Mon) 00:23 No.802
風来坊が囁く「思うままにしてもいいんだよ」
――その真意をいろいろ想像してしまいますね。
きっと愛ゆえの許容、だけじゃない。どこか突き放した諦念、だけじゃない。
この御方には果てしなく深い闇を感じるので、
私などはつい知りたいと勘ぐってしまうのですが……
あえて互いの心中には踏み込まず、
互いを思い合う心だけを信じて寄り添うのもオトナの恋愛なんでしょうか……
う〜ん。いろいろ思いが巡る御作ですね。
素晴らしいラストスパートをありがとうございました。
(そしてスパートできなかった私をお許しください。ごめんなさい)
風のままの大公も悪くはない? 翠玉さま
2014/05/26(Mon) 03:47 No.808
わたしが浩瀚を陽子主上の大公候補にした理由は
慶国女王である陽子にもっとも都合のいい男だったからで、
第二候補は利広でした(^_^;A
それもこれも陽子主上至上主義者の戯言と読み流してください。
慶国の民でなくても十二国に通じ、奏国の太子という立場も陽子主上に有利でよい、
という理由で・・・
大公でも相変わらず旅に出て、
帰ってきた時には行った先のお土産と見聞した内容を
王宮から気安く出られない陽子に伝える、というのもいいじゃないか、
と思えたものです。
未生さんの陽子主上は孤高過ぎて辛くはありますが、それも彼女の一面なのですね。
ご感想御礼 未生(管理人)
2014/05/26(Mon) 14:40 No.816
皆さま、末声小品に温かなご感想をありがとうございました。
瑠璃さん>
こちらこそ。
瑠璃さん宅にお邪魔して「移ろう」に当たった時にはフリーズしてしまいまして……(苦笑)。
一時期お宅訪問を自粛させていただいておりました。
ここに懺悔いたします。ごめんなさい〜。
それくらい心揺さぶられる素敵絵でございました。ありがとうございます。
風ゆえに惹かれ、風もまたそれを知る、というところでしょうか……。
的確なお言葉、謝謝!
ネムさん>
確かにどちらも風ですよね、趣は違いますが。そして、おっしゃるとおり、
陽子主上は風をも惹きつける見事な桜なのだと思います。
いつもながらの美しいお言葉に感謝申し上げます。
瑠璃さんの「花の下」、
管理人はまたも声を失くしてフリーズいたしましたことをここで白状いたします(苦笑)。
海さん>
いつもながら、休み明け間近に涙目で宿題をする子供のようでございますね(苦笑)。
最初から計画的に終わらせる絵描きからはいつも白い目で見られます……(しょぼん)。
「老夫婦の完成形」には思わず膝を打ちました。
悠久の時を過ごしてきた二人だからこそ、なのかもしれませんね。
そして、またも妄想を誘うお言葉!
そうなのです、この頃にはもう時機を探していたようでございます。
それを止めないのが利広なのだと思います……。
さらこさん>
ご共感ありがとうございます。
そしてこのような利広に惚れこんでくださるなんて……!
割と嫌われてしまうことが多い御仁ですので嬉しゅうございました。
そのままでいられるのは、見た目はともかく、
長い時を生きてきた二人だからなのでしょうね。
饒筆さん>
利広の真意をご想像くださりありがとうございます。
臣でも友でも王でもない利広だからこそ言えることなのだと思います。
それこそ、風ゆえに。
互いに悠久の時を過ごしながら、永遠などないと知っている。
そんな二人の愛し方なのかな、とも。
趣あるお言葉をいただけて嬉しゅうございました。
翠玉さん>
陽子至上主義者の方のお言葉は楽しゅうございました。
確かに、浩瀚も利広も陽子にとって都合の良い大公候補ですね!
管理人は尚隆至上主義でして、尚隆が伴侶に選ぶ女としての陽子を描いてまいりました。
尚隆は後宮に妃を置く男ではない、より始まり、
後宮に置く必要のない女ならば王だろう、と。
いずれ尚隆と対等になるならば、孤高を知る必要がある、というわけでございます。
いや〜、翠玉さん、お近くであればグラスを傾けてお話をしてみたいですね!
もしも北の国にお越しの際は是非ともお声をおかけくださいませ。
妄想語りを邁進させるご感想をありがとうございました。