「管理人作品」 「15桜祭」

祈念樹@管理人作品第8弾

2015/05/16(Sat) 00:02 No.604
 皆さま、こんばんは〜。いつも祭にご投稿、レス及び拍手をありがとうございます。 レスが間に合っていなくてごめんなさいね〜。
 本日の北の国、最低気温は7.5℃、最高気温も11.7℃、 しかも風速12mもの風が吹き、体感気温はひとケタ前半でございました。 リラ冷えにもほどがある! という感じでございます。

 さて、ラストスパート中の管理人、本日の一作を投下いたします。 今回は陽子主上登遐後の景麒を救済しようとのコンセプトで書いてみました。 というわけで、陽子登遐後末声及びオリキャラ注意の代物でございます故、 大丈夫な方のみご覧くださいね。 オリキャラの景王が出ますので、 特に景陽派の方はご覧にならないほうがよいかもしれません。

祈念樹

2015/05/16(Sat) 00:06 No.605
 桜は慶の花だ。

 慶主はそう言って笑った。初めて国主の執務室に足を踏み入れたとき、庭院にどっしりと聳える古木を見て、慶主は感嘆の溜息をついた。そして、その由来を宰輔に訊ねたのだ。宰輔は淡々と語った。かつて、胎果だった古の延王が同じく胎果だった前景王のために植えさせた樹だと。由緒正しい樹なんだな、と慶主はまたも感嘆した。

 春になると古木は美しく花開く。慣れない仕事に疲れた慶主はしばし筆を置き、眼を細めて桜を眺めた。国を荒らすことなく、宰輔も残し、静かに去った前国主の縁の花を厭うことなく。宰輔はそんな慶主を淡々と補佐する。浩瀚は気遣わしく宰輔を見つめていた。

 慌ただしく日々は過ぎ、慶主は徐々に政務に慣れていく。宰輔や冢宰が付ききりにならなくなった頃、慶主は不意に訊ねた。
「景麒は桜が嫌いなのか?」
「何故そう思われるのです?」

「時折……辛そうに桜を眺めている」

 浩瀚は微笑した。慶主は宰輔の様子に気づいていたのだ。咲き初めた桜花に目を移し、浩瀚は静かに告げる。
「桜とは、そういう花なのですよ」

「浩瀚もそうなのか?」

 慶主の問いに、浩瀚は僅かに眼を瞠る。慶主は浩瀚から目を逸らし、小さな声で呟いた。

「お前も……時々辛そうだ」

 浩瀚はただ微笑する。慶主もまた麒麟に選ばれた王なのだ。闊達で革新的だった女王に比べると凡庸な王だ、と密かに言われてきた。それでも、慶主は不平を言うことなく鷹揚に坐していた。それも王の資質なのだ、と気づかされる。
「――慶の民は、みな己の桜を胸に抱いております。永きに亘りここに立つ古木は、人の心にも住まうのでしょう……」
 慶主は黙して頷いた。そのまま古木を切なげに見やる。浩瀚は静かに慶主を見守った。やがて。
「――赤子は、私が生まれた頃には、もう偉大な王だった」
「かの王も、そう言われました。隣国の稀代の名君とご自分を比べて」
 はっと視線を戻した主に、浩瀚は笑みを送る。主は淡く笑い、そうか、と呟いた。
 浩瀚は遠い昔を懐かしく思い出す。隣国の王が桜好きな女王のために植えさせた樹。執務室から見えるこの場所への植樹を提案したのは浩瀚だった。そう、この古木は今は亡き女王のための樹だ。そして、慶主はこの樹を残してくれた。ならば。

「桜を、植えましょうか」
 あなたのために。

 浩瀚は胸で慶主にそう告げる。しかし、慶主は即座に首を横に振った。そして、口を開きかけた浩瀚を制して笑う。

「今はいい。いつか……」
 景麒に寄り添うことができたら。

 そう言う慶主に、浩瀚は深く頭を下げた。

 それから時は経ち、庭院の桜花を眺める宰輔の隣には慶主が立つようになった。そして、古木の傍に若木が植樹されたのだ。
 春早いある日、慶主は宰輔と冢宰を伴い、庭院に降り立つ。そして、嬉しげに若木を見つめ、弾んだ声を上げた。
「蕾がついた」
「きっと、綺麗な花が咲くでしょう」
 笑みを湛えた浩瀚の言葉に宰輔も頷く。
「あっという間に大きくなるでしょうね」
 この樹のように、と続ける宰輔を、主は凝視した。宰輔は微かに唇を緩め、深く頭を垂れる。
「そうだといいな」
 慶主は己の半身を見つめて静かに微笑んだ。浩瀚もまた労わり合う主従に笑みを送るのだった。

2015.05.15.

後書き

2015/05/16(Sat) 00:09 No.606
 「追想花」にいただいたご感想に触発されて書き流しました。 不憫な景麒を救済できているとよいのですが。 ご感想をくださった皆さま、ありがとうございました!
 ああ、日付が変わってる(苦笑)。まあ、ご愛嬌ということで。

 後程レスしに戻ってまいりますね〜。

2015.05.15. 速世未生 記

良かったね、景麒!(嬉し泣き) 桜蓮さま

2015/05/16(Sat) 15:11 No.616
 桜と共に亡き主をそっと胸にしまう景麒と、 そんな景麒を丸ごと包み込み労る新たな慶主…。 この鷹揚な主の元でなら、もしかしたら景麒も陽子さんの時とは違った 心の余裕を持ってゆったり過ごしていけるのかもしれませんね。
 じんわりほろりとするお話を読ませていただき、ありがとうございました!

最長老になってね ネムさま

2015/05/16(Sat) 22:00 No.620
 良い主に出会えて良かったです。 新しい慶主は真面目そうだけど、ゆったりとして、でも芯が強そうですね。 きっと赤王朝が慶を豊かに治めたから、こうした人物が育ったのかも。 そう想像すると、やはり民は王の子供なんですね。
 また永い王朝になりそう。 きっと後の世に、景麒は偉大な王を二人も選んだ、 最長老の麒麟として名を馳せるかもしれませんね。
 あたたかい夢想をさせてくれるお話、ありがとうございました。

なんてええ王様や……(ぐしっ) 饒筆さま

2015/05/16(Sat) 22:45 No.622
 この懐の広さは尋常じゃないですよ!  ええ王様や……(ハンカチで目を拭う)
 このまま若木がすくすく育って、古木を越えればいいな。 それが一番の幸せだよね〜♪ と景麒の背中をぽんぽんしてやりたくなりました。

 涙の後の虹がきらめくようなお話、ありがとうございました。

ご感想御礼 未生(管理人)

2015/05/17(Sun) 11:14 No.640
 捏造過多な末声小品に温かなご感想をありがとうございました〜。

桜蓮さん>
 ご感想を拝読して胸が詰まりました。 麒麟ってほんと切ない生き物ですね。 景麒の中には予王も陽子主上もいて、更に新たな慶主もいて。 それぞれ大切な宝物として胸温める存在であってほしいと願って已みません……。

ネムさん>
 極力描写を削いで書いておりますが、新しい慶主、 なんだか包容力がありそうですね(笑)。 慶を安定させた前王朝を継承する意味で選ばれた王なのかもしれません。 書いた私が言うのもなんですが(苦笑)。 最長老、伝説に残る景麒(でも字はない/笑)になってほしいと私も思います。

饒筆さん>
 慶主をお褒めいただき嬉しく思います。 そんでもって饒筆さんのご感想は妄想を誘いますね〜。 幸せになりそうな景麒を慶主に委ね、 野に下る浩瀚を思い浮かべてしまいます……って妄想が飛び過ぎですね(苦笑)。
背景画像「花うさぎ」さま
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