「管理人作品」 「15桜祭」

桜散風@管理人作品第9弾

2015/05/17(Sun) 00:03 No.627
 皆さま、こんばんは〜。 いつも祭にご投稿、レス及び拍手をありがとうございます。 レスが遅くてほんとにごめんなさい。
 ラストスパート中の管理人、本日の一作を投下いたします。 「春気鬱」に連鎖してくださったゆるぎさんの#596「もうせんでもうそう」に ムラっとして書き流しました。よろしければご覧くださいませ。

※ 管理人の作品は全て尚陽前提でございます。

桜散風

2015/05/17(Sun) 00:07 No.628
 雁州国に早春の冷たくも爽やかな風が吹き渡る頃、隣国の花便りが届いた。延王尚隆は酒と土産を手にする。そして、意気揚々と玄英宮を発ったのだった。
 高岫を超えると薄紅の塊が増え始める。国主が好む花を民が植えるようになって久しい。淡い花色に眼を癒されつつ、尚隆は伴侶が待つ宮へと急いだ。

 慶東国王都堯天、国主景王が住まう金波宮は静まり返っていた。尚隆は訝しげに眉を顰める。賓客を迎える門卒にもいつもの活気が見られない。何かあったのか、と問うてみても、門卒から捗々しい答えは返ってこなかった。
 かつてこんなことがあった。景王陽子が登極して間もない頃のことだ。生真面目な国主は根を詰めて政務を熟し、宮全体にその緊張が伝染していた。今の状況はあの時と似ている。はたして姿を現した宮の主は明らかに覇気がなかった。何かあったのかもしれない。そう思い、尚隆は伴侶に声をかけた。
「疲れた顔をしているな」
「そんなことはないよ」
 伴侶はそう言って無理に笑う。さあ行こう、と言って蒼穹に舞い上がる伴侶はどこか痛々しく、尚隆はそれ以上何も言えなかった。そのまま黙して空を駆ける。いつもなら瞳を輝かせて下界の薄紅に見入る伴侶は沈んだままだった。

 目的地に辿りつくと、いつもの桜は満開に花を咲かせていた。華やかな桜花を見上げる伴侶の朱唇が徐々にほころびていく。その様は緋桜が蕾を解くように美しかった。憂愁の気を纏っていた伴侶は和らいだ笑みを浮かべる。尚隆は安堵し、笑みを湛えて伴侶に声をかけた。
「やっと笑ったな」
 伴侶は驚いたように振り返り、それから花ほころぶように笑って頷いた。

 それから伴侶は軽やかに花見の支度をする。いつものように大きな包みを開いた伴侶が手にしたものを見て、尚隆は顔を蹙めた。
「まだそれを使うつもりか?」
「え――」
 擦り切れた古い佳氈を広げようとしていた伴侶は、はっと手を止める。尚隆はにやりと笑って己の荷を解いた。
「俺が用意すると言ったろう。ほら」
 そう言って差し出したものは、真新しい佳氈。驚き眼を瞠る伴侶の頬が、桜色に染まっていく。そして伴侶は匂やかに笑んだ。

「――憶えていてくれたんだ」

 尚隆が擦り切れた佳氈に気づいたのは、昨年の花見の時だった。重箱や茶器などの道具は、一国の女王が持つに相応しいものばかり。なのに、佳氈だけが古びてくたびれている。日頃女王の威儀を唱える女史と女御が怒り出しそうな代物だ。佳氈の傷みを指摘した尚隆に、伴侶は嬉しげな貌を見せて言った。やっと気づいてくれた、と。

(この佳氈がぼろぼろになっちゃうくらい、ここで花見をしたんだよ)

 そう続けた伴侶の笑みは満開の緋桜のように美しく、尚隆を魅了したのだ。それは今も同じ。歳若い伴侶は、尚隆の心を捉えて離さない。
「俺は年寄りだが、そこまで惚けてはいないぞ。約束しただろう」
 尚隆は破顔して伴侶の頭を小突く。伴侶は曇りのない笑顔を向けた。

「ありがとう。でも、この佳氈は捨てないよ」

 せっかく新しいものを用意したというのに、いったい何を言うのだろう。そう問う前に、伴侶は楽しげに続けた。

「思い出がいっぱい詰まっているから」

 虚を衝かれ、尚隆はしばし沈黙する。どうしてこうも可愛いことばかり言ってのけるのか。しかも、無自覚に。尚隆は伴侶を抱き寄せて耳朶に囁いた。

「それではこちらの佳氈にも早速思い出を詰めるとしよう」

 そのまま何か言いかけた朱唇を甘く塞ぐ。優しい風が桜を散らし、落ちた簪釵とともに真新しい佳氈を飾ったのだった。

2015.05.16.

後書き

2015/05/17(Sun) 00:10 No.629
 「春気鬱」尚隆視点は打って変わって甘々でございます。 ゆるぎさんの切り絵を拝見していたらもう、妄想が……(笑)。 規定に反しないよう描写を削ぎました。 お楽しみいただけると嬉しゅうございます。
 ゆるぎさん、妄想を刺激する連鎖妄想をありがとうございました!
 そしてまた日付が変わってる(苦笑)。

 それでは後程レスしに戻ってまいりますね〜。

2015.05.16. 速世未生 記

あまあま senjuさま

2015/05/17(Sun) 18:39 No.649
 ふふふ。大甘な殿、大変おいしく頂きました(笑。

 殿に年寄りの自覚があったことにびっくりですが、 ここの主従は都合の悪い時だけ年齢を思い出すからなー。
 幸せな気分のお裾分けをありがとうございました。

落ちちゃった  ネムさま

2015/05/17(Sun) 19:17 No.652
 簪、せっかく選んで挿したのに〜 なんて後で祥瓊に怒られないでしょうか。 あ、でも後で殿が御自ら挿し直してあげるんですね。う〜ん、甘いなぁ(笑)
 でも門卒にまで王の緊張感が伝わるとは(杜真かな?)、 陽子は金波宮の皆に気遣われていますね。 簪を吹き飛ばす(?)ような尚隆の突風効果、 金波宮の春一番、ということでしょうか。
 ニヤつきが止まらないお話、ありがとうございました ^^

素敵・・・ ゆるぎさま

2015/05/17(Sun) 23:04 No.666
 御作への妄想にさらに妄想いただいてありがとうございます!  状況イメージ通り、最高です!
 きっと陽子さんはこの毛氈にも大事に大事に思い出を重ねていくのでしょうね。

あまーいvv 桜蓮さま

2015/05/18(Mon) 14:34 No.687
 本当にもう、陽子さんったら無自覚なところが小悪魔ですv  これは確かに殿もたまりませんでしょう(笑)。
 きっと2枚目も1枚目と同じ位擦り切れるまで使って、 そして思い出もたっぷりできるんでしょうね。

 甘く幸せなお話、どうもありがとうございました!

ご感想御礼 未生(管理人)

2015/05/18(Mon) 23:52 No.713
 皆さま、拙作にご感想をありがとうございました!

senjuさん>
 美味しく召し上がっていただけて嬉しゅうございます〜。
 こういう時は年齢を思い出すんですよ、きっと。 歳若い伴侶が可愛いこというし(笑)。

ネムさん>
 簪釵は自分で直して、祥瓊に怪しまれるんですよ、きっと(笑)。
 緊張が門卒まで伝わってしまうのは、陽子主上の仁徳でございましょう。 そんな王さまであってほしゅうございます。
 お楽しみくださりありがとうございました。

ゆるぎさん>
 いやぁ、妄想を爆発させる連鎖をありがとうございました!  状況イメージ通りとか嬉しゅうございます。
 新しい佳氈もこの調子じゃすぐ……ととと、祭掲示板なのでもう黙りますね(笑)。

桜蓮さん>
 そうそう、こんな可愛いこと言われてしまったらもう止まりませんよね〜(笑)。 せっかく新しい佳氈なんだから長持ちさせてほしいものでございます。
 お楽しみくださりありがとうございました〜。
背景画像「花うさぎ」さま
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