「投稿作品集」 「15桜祭」

またビミョーなカップリングです ミミズのミーさま

2015/04/10(Fri) 22:09 No.204
 十二国記の女性たちの中でも嫁にするなら鈴だよね!  と思ったので書いてみました。

君は春のそよ風

ミミズのミーさま
2015/04/10(Fri) 22:11 No.205
500年もの長き統治を誇る雁。その雁の最高学府たる大学はエリート中のエリートを輩出する優れた国家機関である・・・
だが、実態は。
勉学に次ぐ勉学。試験、また試験・・・と過酷な生活環境であった。
淀んだ空気をまとわりつかせ、鳴賢は朝の食堂へとやってきた。
もうすぐ弁許をかけた試験があり、昨夜も遅くまで本を広げていたのだ。
あくびをかみ殺しながら食堂のオバちゃんに声をかける。
「飯、大盛りで」
応えはすぐにあった。
「はい。大盛りですね。お代わりも出来るので後でどうぞ」

・・・?おかしい。オバちゃんの声が少女に聞こえる。顔をを上げるとオバちゃんではなく若い娘がいた。
年のころは16、7。しっとりした黒髪を簡素に結わえ、笑顔で飯を差し出すその姿。
面食らいながら飯を受け取り席についてから改めて確認すると、なんと後から来た友人・・・楽俊と親しげに話しているではないか!

後で聞いてみると楽俊はあっさり答えた。
「あの娘は鈴っていうんだ。おいらとは共通の友人がいて、その人から聞いて来たんだろうな。今日は一日おいらの母ちゃんに弟子入りしたいそうだ」
「弟子入り?」
「おう。蒸しパンを習いたいとか言っていたな。ああいうのは簡単なようでコツがいるんだと」
そういえば、何人かいるオバちゃんの一人は楽俊の母親だ。料理修行にこんなところにやってくるなんて!
鳴賢の脳内に鮮やかな絵巻が広がった。

雁の優秀な官吏として颯爽と官邸を出る俺。その俺を追って小走りに追いついてくる可愛い新妻。
「あなた、お弁当をお忘れですよ。それと蒸しパンもお持ちください。小腹が減ったら食べてくださいね」

講義はとっくに始まっていたが脳内劇場は幕を閉じるすべもない。
いつの間にか講義は終了した。楽俊が不審そうにのぞき込んでくる。
鳴賢の手に握られた紙を取って読む。無論、講義とは全く関係のない内容だった。

『嗚呼、君は舞い降りた天女。春のそよ風。その白い腕。その桃色の頬。ルールルルー僕は君の虜』

慎みを知る友人は紙を伏せた。髭を揺らしながら少し考え、結局これしかないと結論付ける。
「鳴賢、わき目も振らず勉強するんだ。机に噛り付いて本を読め。そして書いて書いて書き続けるんだ、それしか方はない」
「だが、それが何になる?明日落ちる弁許のために今日の日を棒に振ることが。そうだ、彼女に贈り物を買いに行こう、そうしよう」
「鳴賢、それは逃避だ!落ち着いて考えるんだ鳴賢ー!!」

しかし鳴賢はもう走り去った後だった。楽俊はため息をついて次の講義に向かった。


食堂に行くと見たことがないほど混んでいた。見慣れない娘は噂の的になっていたのだ。
これでは贈り物を渡せない。歯噛みをしつつも鳴賢は昼食を受け取り席に着く。彼女がクルクルとよく働く様をみながら飯をかみしめていると隣に楽俊が座った。
「贈り物は買えたのかい?」
「ああ。だが渡す機会がない」
「でも鈴はすぐに帰っちまうぞ?」

そんなことは分かっている。そう言おうとした時だった。
不意に辺りが静かになった。大勢の熱気が溜まった食堂に涼風が吹き込んだような気がして振り返る。
そこに少年がいた。燃えるような緋色の髪が高めの位置で括られて背中でゆれている。褐色の肌に翡翠のような瞳が輝いている。
浅葱色の袍は絹だろうか、柔らかさと品が兼ね備えられていた。
隣の楽俊の髭がピンとなった。そして。
「陽子!!来てくれたの?」
鈴が小走りで駆けてきて少年に寄り添った。
「鈴。どうしても気になって早いとは思ったけど来てしまった」
「ううん。さっき蒸しあがったところなの。食べてみて」

少年がふっくらとした旨そうな蒸しパンを口に運ぶ。暖かな湯気がのぼった。
「うん。楽俊のお母さんの味だ。鈴、もう覚えたの?すごいな」
笑いあう二人。漂う甘い雰囲気。そこに何と楽俊まで加わった。
「陽子、元気そうだな」
「楽俊、今日は鈴をありがとう。お母さんにもお礼を。後日また改めて礼をさせてもらうから」
「友達だからそんなのはいいさ。それより鳴賢!」

急に呼ばれて鳴賢は慌てた。オロオロしていると楽俊に腕をつかまれて前に出された。
「鳴賢が鈴にお土産だって。雁にまで来て手伝いだけで帰せねえからって。な?」

鳴賢は覚悟を決めた。握りしめていた簪を鈴の頭にそっと差し込む。
淡い珊瑚でかたどられた小さな桜が揺れた。陽子が微笑んだ。
「鈴、よく似合ってるよ」
「本当?うれしい。鳴賢さん、ありがとうございます」

その嬉しそうな顔をおかずにして・・・今日も鳴賢は勉学に励む。
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背景画像「花うさぎ」さま
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