お花見支度
さらこさま
2015/05/14(Thu) 00:29 No.565
ちょっとした私的な宴なんだから。
気取った相手じゃないのに、そんな仰々しくめかしこんだら変に思われるんじゃないかな。
そう言って抵抗したところでちっともこちらの話は聞いていない友人二人の盛り上がりに、陽子は愛用の袍をぎゅっと胸に抱いて俯いた。
「何言ってるの。私的な宴なんだから、気の利いた襦裙で出かけるべきよ」
「気取った相手じゃないなんて言ったら、お相手に失礼じゃない」
「でも、私の髪の色にこんなピンクの衣装なんて似合わないよ・・・」
「あら、それは私の審美眼に対する侮辱かしら?」
「そういうわけじゃないけど・・・」
「大丈夫よ。上に着るのはこっちの水色。薄紅のは裙だから似合わないなんてことはないはずよ」
せっかく誂えたのに一度も袖を通さないなんてそれこそ襦裙に失礼だと責められている陽子は、起き抜けに無理やり着せられた肌着姿。
身動きしやすいように(ついでにちょっとでも谷間をつくろうと)胸に巻いていた晒を無情にも引剥がされ、胸当て(キャミソールっちゅうかむしろ金○郎の前掛け風)に腰巻き(ペチコート・・・なんだろうか)というなんとも頼りない姿。
外は満開の桜が咲き乱れているけれど、まさに花冷えと言った感じで吹き込んでくる風は冷たい。
いくら武芸に励んでいようと、下着で長時間、ほとんど外と変わりない気温の窓辺に立っていれば冷える。
人払いしてあっても、いつ何処で誰に見られているとも知れないのに、こんなハズカシイ姿のまんまは、やっぱりどうにも精神的に厳しいわけで・・・。
「・・・どうしても、着なきゃ駄目かな?」
「ええ、もちろん」
「まさか、ずっとこのままでいるわけにはいかないでしょ」
きゅぅっと鳴いたのはお腹のほう。
祥瓊ばかりか鈴まで着替えに夢中なものだから、まだ朝餉も食べさせてもらってない。
「あの、さ・・・ご飯は?」
「着替えが終わってから」
「ちゃんと着てくれたら用意してあげるわよ」
「え〜っ・・・」
「ご飯食べてる間に、小物探してくるから」
「そんなのごてごて付けたりしたら、移動中に落ちちゃうよ」
「何言ってるの。せめて簪釵の一つくらいは挿しなさいよ」
騎乗出来る程度にしておいてくれないと、出かけるに出かけられないという陽子の主張もなんのその。
張り切った祥瓊は鈴を従えて飾り立てる気満々。
朝餉と引き換えにされて仕方なく用意された衣装に袖を通しながら、陽子は深い溜息を吐きつつ、こっそりと途中で逃げ出す算段を巡らせるのだった。