桜並木@管理人作品藍2弾
2016/04/10(Sun) 11:12 No.322
皆さま、こんにちは〜。いつも祭にレス及び拍手をありがとうございます。
本日の北の国、最低気温は1.9℃、予想最高気温は8℃でございます。
どうやら峠は雪降りのよう。冬将軍殿が名残を惜しんでいるみたいです。
今日のお出かけは春コートでは寒いかもしれませんね〜。
桜前線も足踏みの模様でございます。
さて管理人、久々に小品を仕上げました。蘭桂と陽子の小話をどうぞ。
- 登場人物 蘭桂・陽子
- 作品傾向 ほのぼの
- 文字数 1582文字
桜並木
2016/04/10(Sun) 11:13 No.323
桜が綺麗です。
瑛州の少学から、一言のみの書簡を送った。金波宮の庭院で、姉とも慕う陽子とともに見た桜を思い出しながら。国主景王と雲上で暮したことなど幻だったのかもしれない。今年も一緒に花見をすることなどないだろう、と諦めながら。しかし。
「ほんとうに綺麗だね」
若木の下に、満面の笑みを浮かべる陽子が立っていた。蘭桂は声を失くして立ち尽くす。神なる王は微笑んで地上に降り立ち、蘭桂に手を差し伸べた。
「桜花信をくれただろう」
「まさか、抜け出してきたわけじゃないよね?」
蘭桂の返しに、陽子は弾けるような笑い声で応えた。きちんと仕事を済ませ、休暇を取ってきた、と笑う陽子とともに、蘭桂は桜の若木を見上げる。
「――懐かしい」
可憐な花をほころばせる細い若木を眺め、陽子は小さく呟いた。蘭桂は笑みを浮かべて訊ねる。
「蓬莱のこと?」
陽子は大きく眼を瞠って蘭桂を凝視した。「さくらさく」という言葉が蓬莱では合格を意味する、と教えてくれたのは陽子だ。そのくらい察することはできる。小童の頃からずっと傍にいたのだから。そう告げると、陽子は苦笑を浮かべて頷いた。
「うん、あちらの学校には、見事な桜並木があったんだ」
再び咲き匂う桜花を見上げ、陽子は淡く笑む。その瞳は今ある薄紅を通り越し、遠くを見つめているようで、蘭桂は少し切なくなった。
陽子は昔からあまり蓬莱の話をしない。そう心掛けてきたのだ、と今の蘭桂には分かる。故郷を恋う王、と思われたくないのだろう。革新的な考えを持つ王を疎む者が、景王陽子の隙を狙っていた。それを知ったからこそ、蘭桂は官吏を目指しているのだ。いつか陽子を助ける手となるために。
「もっと聞かせて」
笑みを向けて蘭桂はせがんだ。小童の頃には言わなかったことだ。陽子は少し戸惑ったようだった。蘭桂は笑みを深めて囁いた。
「ここには、それを咎める人はいないよ」
陽子は翠の瞳を丸く瞠り、それから小さく吹き出した。小刻みに肩を震わせて大きく頷き、楽しげに故郷のことを語り出す。
学校を囲むように植えられた桜並木が、入学の頃に薄紅の花を開く。それはとても見事で、今でも懐かしく思い出すのだ、と。
「――こちらには、桜が少ないからね」
そう言って陽子は桜花に手を伸ばす。少し淋しげな美しい横顔をじっと見つめると、陽子は慌てたように口を継いだ。
「だから、ここに桜があって嬉しいよ」
「そのうちに、学校は桜並木に囲まれるようになるよ」
陽子の視線を捉え、蘭桂は静かに告げる。陽子は小首を傾げて蘭桂を見上げた。蘭桂は確信を持って続ける。
「だって、陽子がそれを望んでいるんだもの、僕は陽子の願いを叶えたい」
陽子が好きだから。
蘭桂は微笑を浮かべて胸で呟く。己の小さな想いは、届かなくていい。蘭桂は満面に笑みを浮かべて続けた。
「きっと、僕だけじゃない。陽子の願いを叶えたい人は、沢山いるよ。善い国を作ってくれる王さまに報いたい人たちが、これから慶に桜を植えていく」
見開かれた翠の瞳が、嬉しげに細められていく。そして十六で時を止めた女王は、咲き初めた桜花のような美しい笑みを見せた。
「ありがとう、蘭桂」
「この国は、王さまの願いが叶う国なんだよ。僕たち国民がそう願うんだから」
王さまの願いが叶わない国ならば、民の願いなんか叶うはずもない。
陽子は祥瓊と鈴にそう諌められて休みを取ったのだ、と言った。陽子の願いを叶えたい者は、蘭桂だけではないのだ。
光栄だね、とおどけて陽子は清々しく笑う。少女のようなその笑みを守りたい。心からそう思った。そんな蘭桂を見上げ、陽子は楽しげに言葉を紡ぐ。
「私は幸せ者だ」
「もっと幸せにするから」
蘭桂は片目を閉じてそう返す。陽子は弾けるように笑い、期待してるよ、と蘭桂の手を取った。そしてまた、時折花びらを散らす満開の桜を見上げる。細い若木の向こうに桜並木を夢想して、蘭桂は笑みを浮かべた。
2016.04.10.
後書き
2016/04/10(Sun) 11:19 No.324
昨年出した「桜花信」の続編になるでしょうか。
けれど、読んでいなくても解ると思います。
ずっと末声ばかり書いておりましたが、どれもこれも纏まらず……(苦笑)。
助けを求めたときに語り出してくれたのが蘭桂でございました。
うん、良い子でございます。この頃はもう陽子よりも背が高いのですが。
軽く書き流した小品、軽くお楽しみいただけると嬉しゅうございます。
さあ、お次はあなたの番でございますよ! 素敵な桜、お待ち申し上げておりますね〜。
2016.04.10. 速世未生 記
真摯な想い ネムさま
2016/04/10(Sun) 23:24 No.326
そちらは最高で8℃ですか〜。
こちらも一度20℃になったんですが、陽が陰ると春のジャケットだけでは冷えてきます。
なかなか春が来た!と素直に言えないですね。
蘭桂の真摯な想いが伝わってきますね。ホントに良い子です(笑)
同じ記憶はなくても、一生懸命話を聞いてくれて、
幸せを願ってくれる人がいるということは、陽子にとっては何よりも幸せな事でしょう。
いつか桜並木が国中に伸びていくという夢も、蘭桂が言うと本当になるような気がしてきます。
蘭桂は陽子にとって“未来”の象徴なのかもしれませんね。
冬将軍にも負けない暖かなお話でした。
蘭桂おっとこまえ〜 ミミズのミーさま
2016/04/11(Mon) 07:52 No.333
「もっと幸せにするから」って気障可愛いです蘭桂くん!
蘭桂自身は気づいていなくても女子生徒には隠れファンが大勢いるって確信しました。
でも蘭桂は陽子以外は全く見えていないとか…
素敵なお話ありがとうございました!
胸キュンです! ミツガラスさま
2016/04/11(Mon) 11:24 No.334
「もっと幸せにするから」
なんと素敵な口説き文句でしょう! ズキューンときました!
陽子さんにそうと気が付かれないのが切なくもあり微笑ましくもあるのですが。
蘭桂は本当いい男になりましたねえ。
有言実行に桜並木を作り上げると確信いたしましたとも!
その時今のように手を繋げなくても、
陽子さんが別の男と手を繋いで桜並木の下を歩いていても、
陽子さんの笑顔の為なら蘭桂は微笑んでいるような気がいたしました。
ミツガラスのドストライクな蘭桂をありがとうございました!
ま、まぶしい……っ! 饒筆さま
2016/04/11(Mon) 23:10 No.336
まっすぐな思いをまっすぐにぶつける蘭桂が眩しい……!(くらり)
「この人のために頑張りたい」と思えばこそ、強く賢くなれますね。
がんばれ蘭桂! キミの将来は明るいよ〜♪
陽子さんはみんなの、
みんなは陽子さんの願いを叶え合うような温かな国になるといいですね。
胸が熱くなるほど幸せなお話をありがとうございました!
ご感想御礼 未生(管理人)
2016/04/12(Tue) 00:19 No.339
本日の北の国、最低気温は0.1℃、最高気温は5.4℃、
まさかの吹雪に顎が落ちそうになりました〜。
拙作にご感想をありがとうございました。
ネムさん>
ほんと春はなかなか落ち着いてくださらないですよね。なかなかの気温差でございます。
蘭桂は良い子だな、そして大人になってきたよな〜と書いていて思いました。
素直に伸びてくれて、陽子姉ちゃんも嬉しいでしょうね。
更に妄想を誘うお言葉をありがとうございました!
ミミズのミーさん>
気障可愛い認定をありがとうございます。
隠れファンが多いだろうと私も思ってしまいました(笑)。
でも彼の目には陽子主上しか映っていない……。
楽しいご感想をありがとうございました〜。
ミツガラスさん>
さらっとそんな科白を言う蘭桂に私が吃驚してしまいました。
実は私自身「幸せにする」という科白が苦手でして。
「自分で幸せになるぜ!」ってグーパンチを返す勢いでございます。
けれど、作者の好き嫌いなんかぶっ飛ばす決め科白ですよねぇ。
お気に召していただけて嬉しく思います。
もう、ミツガラスさんのご感想が私のドストライクでした(笑)。
ありがとうございました!
饒筆さん>
ほんとこの一途な想いは眩しい光を放っておりますよね! 若いって羨ましい……(苦笑)。
慶の未来が明るく暖かいものであることを私も願って已みません。
ご感想をありがとうございました。
Re: 冬将軍復活!? ありすさま
2016/04/13(Wed) 13:07 No.349
蘭桂くん、大人っぽくなって・・・とほろりとしました。
いつか、陽子さんの側で活躍して欲しいです。
ご感想御礼 未生(管理人)
2016/04/13(Wed) 17:23 No.351
ありすさん、いらっしゃいませ〜。コメントありがとうございます!
大人っぽくなった蘭桂にほろりとしていただけて嬉しく思います。
いつか金波宮に戻るときは16歳の陽子よりも見かけが歳を取ってしまっているだろう、
と妄想すると切ないです……。
よろしければ作品もご投稿くださいね! お待ちしております〜。
陽子さんの笑顔を見守り隊 篝さま
2016/04/15(Fri) 20:54 No.368
「抜け出してきたわけじゃないよね?」と言い、
既に将来有望な官吏っぷりを見せつける蘭桂に某冢宰様を彷彿とさせる雰囲気を察知して
一人にやにやし、「もっと幸せにするから」でやられました…(悶絶)
誰かの幸せを願う想いの連鎖が国中に桜を咲かせてくれそうですね。
素敵な作品をありがとうございました。
ご感想御礼 未生(管理人)
2016/04/17(Sun) 00:06 No.373
陽子主上の有能な側近連中に囲まれて育った蘭桂、その経験を活かしているのだと思います。
そして決め科白に悶絶してくださってありがとうございます!
こうして少しずつ桜に包まれていく……。慶がそんな国になったら私も嬉しく思います。
篝さんの作品もお待ち申し上げておりますよ!