雨降季@管理人作品第3弾
2016/04/27(Wed) 18:01 No.419
皆さま、こんにちは。いつも祭に拍手をありがとうございます。
本日の北の国、最低気温は4.8℃、最高気温は13.0℃でございました。
陽射しが眩しい良いお天気ながら肌寒く、
開きかけた桜もうつらうつらというところでございましょうか。
東地域には未だ雪予報が出ております。
本日気象協会から出されました桜開花予想<第11回>によりますと、
北の稚内及び東の釧路は5/13でございます。
今年は久しぶりに長く桜を楽しめるやもしれません。
さて、管理人もそろそろペースを上げなければ。
というわけで、小品をひとつ仕上げました。
雁国主従の小話でございます。よろしければお楽しみくださいませ。
※ 管理人の作品は全て尚陽前提でございます。
- 登場人物 尚隆・六太
- 作品傾向 ほのぼの
- 文字数 1094文字
雨降季
2016/04/10(Sun) 11:13 No.323
ふと眼を上げると窓の玻璃が濡れていた。書卓に向かう延王尚隆は、唇を緩めて筆を置く。おもむろに立ち上がり、窓辺に歩み寄った。窓を開けると湿った風が流れこむ。濡れた土の匂いと柔らかな雨の音。まだ少し冷たい風が運ぶものは教える。北国の長い冬が終わったのだ、と。
背後に人の気配がする。側近が書卓に案件の山を置きに来たのだろう。が、尚隆は気に留めない。仕上がった書簡を持ち去る側近が余計な口を利くことはなかった。逃げる気がない、と踏んでいるからだ。そう思うと可笑しかった。
窓の外は、冬枯れた景色ながら、木々が芽吹いていた。雨は僅かに残る雪を融かし、草花の目覚めを促す。そして、雨が止めば、景観は一変する。見る間に季節が移ろうのだ。
「さすがのお前も出かける気にはならねえか」
不意に聞き慣れた声が揶揄する。先刻出ていった側近が伝えたのだろう、王は真面目に仕事をしている、と。聞いて律儀に確認しに来るところが面白い。いや、怠ける口実にしたか。声を殺して笑っていると、延麒六太は尚隆の隣に立って外を眺めた。
さて、この雨の意味を、六太は理解しているだろうか。
尚隆はのんびりと口を開く。
「──雨が降っているな」
「何を――」
六太は怪訝な声を上げた。やはり分かっていなかったか。尚隆は六太の言を遮って口を継ぐ。
「春、だな」
「――は?」
六太の疑わしげな声を無視し、尚隆は窓の外を見やった。北の冬は雪が大地を白く染め上げる。空から降るものが雨に変われば、季節は春。
尚隆を凝視していた六太の気配がふと緩んだ。何も言わずに窓の外に視線を移す。
雨が降るのは春だから。
どうやら六太も思い出したらしい。吹きこむ風は湿った土が放つ春の匂いを運んでいた。
雪が融けて春が来た。この雨が止めば、一気に花々がほころびるだろう。そして、雁よりも温暖な隣国からは、もうそろそろ花便りが届く。その薄紅の花を待ち侘びる緋桜もともに美しく咲き匂う季節が来るのだ。
胸に現れた、伴侶の美しい笑み。思い出すだけで目許が緩むその姿を現で見るためにも、持ちこまれた仕事を片付けなければならないだろう。
「──さて」
尚隆はひとつ伸びをし、新たな書簡が堆く積まれた書卓に戻った。六太は物珍しげに見つめてくる。尚隆はにやりと笑って六太を促した。
「春は何かと忙しい。お前も仕事をしろ」
「花見の邪魔するほど野暮じゃねえよ」
同じくらいにやりと笑って六太が応えを返す。今度はすぐに麗しき緋桜を思い浮かべたらしい。殊勝な心掛けだ、と言いながら、尚隆は軽快に書簡を捌き出す。六太は右手を挙げ、笑いながら執務室を出ていった。
雨が降れば、春。花ほころびる季節はすぐそこまできている。
2016.04.27.
後書き
2016/04/27(Wed) 18:07 No.421
この作品、粗書きを終えて既視感に捉われました。
過去作を漁って見つけてしまいました、同じような小品を(苦笑)。
開き直って改稿し、仕上げました。小品「雨の降る季節」の尚隆視点になります。
まあ、これだけでもお解りになるとは思います〜。
雨が降れば北の国は春。
けれど、降り始めの雨は、雪の方がましに思えるくらいに冷たいのでございます。
絶対に濡れてはいけません。室内から眺めましょう(笑)。
さてさて、北の春は存外にゆっくりと進みそうでございます。
これからGWへと突入いたします。
さあ、その途中の作品を取り出して仕上げましょう。そして祭に投下いたしましょう。
皆さまの素敵な桜、お待ちいたしておりますよ!
2016.04.27. 速世未生 記
雨だれの音 ネムさま
2016/04/27(Wed) 21:53 No.423
雨の降る静かな音が聞こえてきそうなお話です。
これが冬だとどこかしら寂しい音に聞こえるのが、
春だと柔らかく心静かになれるのが不思議ですね。
そんな風に雨を楽しみながら、一番の楽しみの為にセッセとお仕事をする王様に、
暖かいお茶と桜餅をお持ちしたくなりました。
でも、玄英宮だと「真面目にやっとるか!」とドカドカ入ってくる帷湍とか
「雨が降ると思ったら、いらっしゃいましたね」とニッコリ言う朱衡ばかりが思い浮かんで、
さぞかし早く桜の園へ行きたいだろうと尚隆の内心を慮ってしまいました(笑)
暖かな気配に満ちたお話をありがとうございました。
在庫一斉セール(笑//一掃で senjuさま
2016/04/27(Wed) 23:00 No.424
ワタクシが延の古参の役人なら、殿の決済案件が滞ることに嘆く新人にこういうでしょう。
「大丈夫、もうすぐ殿の決済の在庫一斉セールが始まるから。」と(笑。
そしてめでたく雨が降った暁には、書類を捧げる腕が抜けるほど溜め込んだ決済案件を、
殿の元へいそいそと運ぶでしょうね。
アバウトな彼(=風漢)ももちろん好きですが、
殿がちゃんと王様らしくお仕事している姿も
やっぱり好きだなと思ったりしたわけです。
殿はニンジンがぶら下がるとがんばれる子だと思います(笑。
ほっこり癒しをありがとうございました。
・・・「在庫一斉セール」ってなんだよって、ついさっき気がつきました。。
寝ぼけてコメントするものじゃありませんね(恥。
謹んで訂正します。ぺこり(4/28。わー。はずかしい。。
セール期間は戦場かも(笑) 饒筆さま
2016/04/27(Wed) 23:41 No.429
雨が降って、いよいよやる気を出された主上に山のような書類を持参したら……
そりゃあ聡いお方ですからね、「この数字はおかしい」
「ここのコレはどうなっているんだ?」等とイタいところを突かれまくり、
各府庁は戦場と化すかもしれません。
ああ、玄英宮官吏のみなさん頑張って!(他人事・笑)
そして当の主上が意気揚々と南へ向かう頃には、
執務室や廊下が死屍累々な有様だったりして(ぷぷぷ)
五百年もあればそれも風物詩になるのかな?
最北の春、本当に待ち遠しいですね!
わくわく期待感に満ちたお話をありがとうございました♪
しとしとと 篝さま
2016/04/28(Thu) 00:22 No.431
このお話を読んでいる最中、奇しくも当地では雨が降っておりました。
二人の穏やかで、ちょっぴりお茶目なやり取りに、
その光景が目の前に浮かんできそうです(笑)
春を待ち侘びる思いは皆同じですが、
尚隆はより一層春が待ち遠しくて堪らないのでしょうね。
素敵な桜、ありがとうございました!
何よりも 桜蓮さま
2016/04/28(Thu) 19:04 No.435
尚隆のお仕事邁進の糧となるのは桜…ではなく、
それを見て喜ぶ陽子さんの笑顔なんですなぁ(何となく照れ・笑)。
本当に、本気でお仕事を始めたら、尚隆はキレッキレで恐ろしいでしょうね。
私も、玄英宮の皆様にエールを送りたいと思います!(笑)
無題 常さま
2016/04/29(Fri) 08:11 No.440
雨のしっとりとした静かな時間。
窓を開けたときの湿気を含んだ匂いがこちらまで伝わってきました。
しかし官吏たちの心の内は(主上がやる気になってる今のうちに!!)
ととても慌しいのでしょうね(笑)
花が咲いたら尚隆は弾丸のごとくすっ飛んで行くんだろうなあ。
花咲く様子を想像する尚隆と六太の周りに花びらが舞って見えました。
私のところでは藤もツツジも終わって初夏といったところ。
今年は天気に恵まれず春を味わえなかったので、
こうして皆さんの作品で再び春を堪能することができて嬉しいです!
雪 瑠璃さま
2016/04/29(Fri) 21:23 No.442
そちらは雪が降っているとか。いや5月に雪って降るんですね(@д@)!
こちらも晴れた割には気温が低めではありましたが。
雁の官吏の皆様は、春と慶の女王さまに感謝一杯でしょう(笑)。
そして雁の官吏たちは王様が真面目に働き出したら、
ああ春が来るんだなあと思うのでしょうね。
頑張って、延王。陽子さんが待ってるよ。
ご感想御礼 未生(管理人)
2016/04/29(Fri) 22:54 No.444
本日の北の国、最低気温は4.2℃、最高気温はなんと5.6℃でございました。
明日の予想最低気温は3℃、本気で朝起きたら真っ白かもしれない、と怯えております。
開きかけの桜も寒そうでございます……。
拙作にご感想をありがとうございました!
ネムさん>
冬には音を吸いこむ雪しか降りませんので、春の雨の音は新鮮でございます。
その音が聞こえてきそう、とは嬉しいご感想!
そして、真面目に政務に励むかの方に是非お茶と桜餅を差し入れてあげてくださいませ。
煩い側近に辟易していらっしゃいますので(笑)。
senjuさん>
はい、おっしゃるとおり! ここぞとばかり決裁案件を堆く積んでいることでございましょう。
やればできるのに何故いつも本気を出さない! と詰られながら(笑)。
人参ないとやれない子ですね〜困ったちゃん。
お忙しいsenjuさんにほっこり癒しを差し上げられて嬉しく思います。
饒筆さん>
ぷぷぷ(笑)。山の様な書類を持ちこんで返り討ち! なんて可哀想な官吏たち。
いつものことながら妄想を邁進させるご感想をありがとうございます!
なかなか春になりきらない北の国ではございますが、
桜が長持ちするとポジティブに考えようと思います〜。
篝さん>
そちらも雨降りでございましたか!
雨の中、雁国主従のやりとりを思い浮かべてくださりありがとうございます〜。
かの方の春を待つ心持ちというものは、もしかしたら陽子主上以上かもしれません(笑)。
桜蓮さん>
そうそう、桜は口実でございます(笑)。
うふふ、照れてらっしゃる桜蓮さんもお可愛らしいです〜。
かの方が本気でお仕事をすると、玄英宮内も嵐になるのかもしれませんね。
春嵐に翻弄される雁の官吏たちにエールをありがとうございました〜。
常さん>
窓を開けた時の春の匂いを感じ取ってくださりありがとうございます!
作品を書くときの目標のひとつですので大変嬉しく思います〜。
はい、かの方は桜が咲いたら嬉々として旅立ちます。
南国はツツジも藤も終わっているのですね! 北の国は何もかもこれからでございます。
ほんと日本は長いですよね〜。
瑠璃さん>
北の国では、GWが終わるまで車のタイヤ交換はしないものなのですよ〜。
今朝のラジオで雪が降ったので帰省を断念した、なんて話が流れてきて、
それ見たことか! と(笑)。
どんなに暖かい年でも朝晩峠を越える時は雪を忘れてはいけないのです〜。
さすがに平地で雪は見ておりませんが、あまりの寒さに明日の朝は真っ白かも、
と覚悟だけはしております。
はい、雁の官吏たちは陽子主上を女神の如く崇め奉っております。
そして王さまが働く春を心待ちにしていることでしょう(笑)。
かの方に温かなエールをありがとうございました〜。
五月に雪!! ミツガラスさま
2016/05/01(Sun) 23:39 No.476
降るのは雪ではなく雨、というのが北の国では印象的な季節の変わり目となるのですね。
あちらの世界の年度末がいつかは分かりませんが、
もしかしたら雁では慶国の桜が咲く三月末あたりに設定されていたりして…
今やれば来年度まで持ち越す書類は無し!
とばかりに一斉に大量処理されていくのが玄英宮風物詩かも(笑)
皆気象予報士並みに桜前線に詳しくなってそうです。
ご感想御礼 未生(管理人)
2016/05/03(Tue) 07:16 No.482
ミツガラスさん>
はい、北の地では雨が降れば春でございます。
そのうち六太あたりが年度末という制度を持ちこみそうですよね(笑)。
拙作に楽しいご感想をありがとうございました!