延王の懐桜@管理人作品第5弾
2017/05/21(Sun) 16:26 No.576
皆さま、こんにちは〜。いつも祭にご投稿及びレス、拍手をありがとうございます。
本日の北の国、最高気温は12.6℃、
最高気温は23.9℃と爽やかな陽気でございました。
さて本日作品投稿最終日、管理人は最後のリクエスト作品を仕上げました。
甘めの尚陽小品でございます。よろしければお楽しみくださいませ。
※ 管理人の作品は全て尚陽前提でございます。
- 登場人物 尚隆・陽子
- 作品傾向 しっとり
- 文字数 1577文字
延王の懐桜
2017/05/21(Sun) 16:29 No.577
「うわぁ……」
そう言って感嘆の溜息をついたきり、陽子は黙して桜を眺め続けた。今が盛りの八重桜は、風が吹く度にはらはらと緋色の雨を降らす。花吹雪の中に佇む紅の女王は、それだけで見蕩れるほど美しかった。やがて。
「――凄いね!」
長い緋色の髪を翻し、頬を紅潮させた陽子が振り返る。麗しき緋桜の共演に、尚隆は笑みを湛えて頷いた。これだけ喜んでもらえれば、何年もかけて探した甲斐があるというものだ。再び八重の緋桜に見入る伴侶を眺め、尚隆は懐かしい出来事を回想した。
発端は雁の春、桃色に染まる山だった。中腹を一色に染め上げるほどの花が何なのか確かめたい。そんな陽子の好奇心に応えて共に現地を訪れてみれば、それは濃き紅の山桜だったのだ。
まるで桃のようだ、と陽子は感嘆の溜息をついた。しかし、大振りな桃色の花を誇らしげに開いたその樹は、確かに桜であった。房になって咲く花も、切れ込みのある五弁の花びらも、花と共に萌えいずる葉の匂いも。
陽子は初めて見る濃き紅の桜花を嬉しげに見上げ、己が胸に抱く桜を語ってくれた。葉のない枝は横に張り出し、淡き紅の可憐な花をつける。それは染井吉野という桜。陽子がいた時代、蓬莱では普通に見られる桜だったという。
聞いて尚隆も己の故郷、瀬戸内の屋形で見ていたはずの桜を思い出そうとしてみたが、あまり巧くいかなかった。元より花を愛でる風雅な気風ではない。桜は春になれば普通に咲いて普通に散るもの。その程度の認識しかなかった。それよりも。
鮮明に思い出した桜は、こちらに来てから見たものだ。咲き初めは白、散る間際には緋へと色を変える見事な八重桜だった。
「
尚隆の桜、いつか見てみたいな」
尚隆の語りを聞いて、桜花のような笑みを見せた陽子。予期せぬその年二度目の花見は、忘れ難い想い出となった。あれから尚隆はあの桜を探し続けていた。いつか逢いし、あの緋色の桜を。
それは遥か昔に遡る出来事だ。折山の荒と呼ばれるほどの荒廃を乗り越えて、雁が息を吹き返した頃のこと。視察と嘯き国のあちこちを一人で彷徨っていた。そんなある年、気紛れに訪れた山の中、白い蕾をつける樹に眼を留めた。こちらではとんと見かけることがなかった桜ではないか、と気になったのだ。
何度か通ううちにほころびたその花は、ほんのりと頬に紅を差した乙女のように楚々とした白い八重桜。日を追う毎に、白から薄紅へ、薄紅から緋色へと色を濃くしていったあの桜は、艶やかで美しかった。
咲いて散るまでの時を、桜と共に過ごした。毎日うきうきと出かけ、夕刻には戻る尚隆を、側近たちは不思議に思っていたようだ。どこぞの女に現を抜かしてるんだ、と苦言を呈す六太には、極上の女だ、と答えたから、誤解した者もいたかもしれない。
そんな懐かしい八重桜を探すため、尚隆は早春になると、気儘に山を彷徨った。急いでいるわけでもない。いつか見つける時があるならば、麗しき伴侶と共に眺めよう。そう思い、幾歳が過ぎた。そして。
尚隆は再びあの八重桜とめぐり会った。大きく枝を広げ、白い蕾と薄紅の咲き初めの花と緋色の開ききった花をつける姿は見事としか言えない。尚隆は声なく桜を見つめ、唇を緩めた。
何度か通い、緋色の花が散るまでを見届けた。来年は、伴侶をここに連れてこよう。そう思いつつ、ひらりひらりと舞い降る緋色の花弁に手を伸ばした。
「ほんとに綺麗……」
「お前に似ているだろう?」
念願叶って伴侶と八重の緋桜を見上げ、尚隆は会心の笑みを見せる。楚々とした咲き初めの白、匂やかな薄紅、そして艶やかな緋色。ひとつの樹で鮮やかな変化を見せる八重の桜は、麗しき伴侶によく似ている。
聞いた陽子は頬を染め、恥ずかしげに首を横に振った。尚隆はそんな伴侶を笑って抱き寄せる。しかし、想いを言葉にすることはなかった。
この見事な花を忘れさせるほどの緋桜がお前なのだ、とは。
2017.05.21.
後書き
2017/05/21(Sun) 16:31 No.578
管理人作品第5弾及びリクエスト作品第4弾「延王の懐桜」をお送りいたしました。
下敷きは小品「いつか逢いし緋色の桜」及び短編「懐桜」・短編「春盛」でございます。
桃色の山桜はご存じ蝦夷山桜、緋色の八重桜は
松前町光善寺の
血脈桜
を想定しております。
血脈桜は07桜祭に写真投稿がございますのでよろしければご覧くださいませ。
血脈桜の一部 五緒さま
尚隆が好きな桜、ということで、「いつか逢いし緋色の桜」をモチーフに書き始めましたが、
意外に難産いたしました。あれ?
最終日まで持ち越しましたが、なんとか仕上げることができました。
お気に召していただけるとよいのですが……。リクエストありがとうございました!
作品投稿最終日、管理人とともに足掻きましょう(笑)。
あなたの素敵な桜、最後までお待ち申し上げております。
後程レスしに戻ってまいりますね〜。
2017.05.21. 速世未生 記
- 「尚隆は何の桜が好きなのか」というお話を(お任せ・尚隆)
極上の緋桜! 文茶さま
2017/05/21(Sun) 22:36 No.585
ひゃー! ジタバタジタバタ、ガタガタ!
......萌え過ぎて擬音語しか出てきませんです(笑)
尚隆は緋桜にいつか出逢う極上の女性の面影を重ねながらその日を待ち続けたのですよね。
そしてやっと出逢えた。バタバタ、ガタガタ....!(←また 笑)
恥じらう陽子さんが可愛らしくてもうノックアウトです〜。
血脈桜のお写真も拝見しました。艶やかですね、うっとり。これは惚れます!
しっとり美しいお話をありがとうございました〜!
五百年後の桜 ネムさま
2017/05/21(Sun) 23:09 No.588
花に興味が無かった尚隆が、何故この桜は気になったのか?
雁がようやく息を吹き返した頃とあるので、
尚隆自身も蓬莱を思い出す辛さが少し和らいだ頃なのでしょうか。
そして鮮やかに移り変わる花に、もう一度与えられた国の成長を思い描いたのかも…
などと妄想いたしました。
極上の女だと六太に答えたのも、そんな女性が現れるのをどこかで待ってたのでしょうね。
五百年待った甲斐があり幸せな尚隆の姿が浮かびます。
ラストスパートお疲れ様でした。美しい桜を堪能させて頂きました!
血脈桜とは……! 饒筆さま
2017/05/22(Mon) 00:11 No.602
「血脈桜」って、字面の時点で凄いインパクトですね。
お写真を拝見すると、花は大ぶりなのでしょうか?
堂々とした咲きぶりも素敵ですし、
楚々とした白から緋色へ変化するのを女性に例えるとなんとも色香が漂うような……(笑)
そりゃあ尚隆氏もお気に召してしまいますね!
最終的に両手(頭上と腕の中?)に花なんて羨ましいな!!
幸せいっぱい、眩いばかりの春のヒトコマをありがとうございます♪
結局陽子さんが一番! 由都里さま
2017/05/22(Mon) 20:09 No.628
ラブラブな二人を見れて嬉しいです。ありがとうございます!!
氾王に山猿だ猿王だとののしられながらも、意外と花見の風流を解する尚隆。
そんな彼はどうやら「赤」がお好きらしいですね。
例の緋桜に惹かれた理由、そして後の陽子さんに繋がるのだと考えるととても美味しいです。
ご馳走様です。
しかしまあ、尚隆は結局のところ、陽子さんが一番なんですな!(知ってた)
ごちそうさまです!! 篝さま
2017/05/22(Mon) 21:03 No.631
お二人のらぶらぶっぷりでお腹いっぱいでございます!!
ごちそうさまです!! ありがとうございます!
もーーーー!!
のっけから「麗しき緋桜の共演」だなんて、素で惚気る殿ににやにやしっぱなしですよ、
ええ、ええ。
無駄に言葉を連ねることはしないけれど、
ここぞという時にはしっかりと己の想いを相手に伝える殿の余裕がニクいです、
格好いいです。
私も頬を赤らめる陽子さんが見とうございます。
いや、殿だけの特権だけだっていう話ですね、ごちそうさまです。満腹です。
陳腐な言い回しですが、まさに「運命」という言葉がぴったりと申しましょうか、
パズルのピースを当てはめたかのようにかちりと合わさったかのような、
奇跡の巡り合いに感謝します。
素敵なお話をありがとうございました。
ごちそうさまです!! 晃子さま
2017/05/22(Mon) 23:01 No.647
美味しすぎる二人、ごちそうさまです〜(*^^*)
照れちゃう陽子がまた可愛すぎてたまりません( ´ ▽ ` )
そして陽子を桜に例えるとやっぱり八重桜なんだと思うと
同志がいたとうれしかったりします。
素敵なお話ありがとうございました。
ご感想御礼 未生(管理人)
2017/05/22(Mon) 23:49 No.655
皆さま、拙作にご感想をありがとうございました。
この作品、どうして時間がかかったのかよく解りました。
久々に恥ずかしい作品でございましtね……(照)。
血脈桜は10年経ってもまだ見に行けておりません。
いつか見たい桜でございます……。
文茶さん>
尚陽派の文茶さんにそこまで悶えていただけて本望でございます!
あの緋桜に見合う極上の女を伴侶にできた、ということで(笑)。
ネムさん>
桜が気になったのは、やはり蓬莱を思えるくらい余裕ができたからなのでしょうね〜。
そして、「極上の女」を待つことなしに待って、見つけてしまった幸せな方でございます。
こちらこそ懲りないラストスパートにお付き合いくださりありがとうございました!
饒筆さん>
「血脈」とは、死んだ人が仏になれるよう僧侶が与える書付のことだそうでございます。
切られることになった桜が僧侶に血脈を求めたとの伝説があるようなのです。
樹齢三百年にも及ぶ桜、切られなくてよかった……。
はい、楚々とした乙女から妖艶な美女までを楽しめる桜、
かの方好みでございましょう(笑)。
由都里さん>
ラブ過ぎて書くのが辛かったということが判明いたしました(苦笑)。
お楽しみいただけて嬉しゅうございます。
はい、陽子主上が一番でございます。口には出さないでしょうが(笑)。
篝さん>
尚陽派の篝さんにお楽しみいただけて嬉しゅうございます。お粗末さまでございました。
書いた私も食傷気味でございます(苦笑)。
「運命」とか……(照)。ありがとうございます!
晃子さん>
甘いお話をお楽しみくださりありがとうございます〜。
やはり陽子主上は八重の緋桜! ご同意くださり嬉しゅうございます!