「管理人作品」 「18桜祭」

海客の笑顔@管理人作品第1弾

2018/03/16(Fri) 23:57 No.1
 昨日3/15、気象庁より高知にて最初のそめいよしのが開花したと発表されました。 管理人、暖かい南国にて肝を冷やしておりましたが 桜は待ってくださいませんでした……。 今年は久々に開花より遅れての開催でございます。 さすがに2日遅れは桜祭史上お初でございます……(苦笑)。
 というわけで、今年も祭を始めさせていただきます!

 投稿掲示板へようこそいらっしゃいました。 皆さまのご参加を心よりお待ちいたしております。
 投稿の見本も兼ねて、管理人作品第1弾を投下いたします。 よろしければお楽しみくださいませ。

海客の笑顔

2018/03/17(Sat) 00:16 No.2
 芳陵を訪れるのは何度目だろう。此度も楽しげに隣を歩く背の高い男を見上げ、楽俊は深い溜息をつく。何やかにやと理由をつけて、国主は楽俊をお伴に芳陵へと出向くのだ。楽俊の視線に気づいた延王尚隆は、にやりと人の悪い笑みを返す。楽俊は再び深い溜息をつくのだった。
 温厚な老師はいつも穏やかに迎えてくれるか、気紛れな王の相手に辟易しているのではないか、と心配になる。だが、そんなことを国主に告げてもどこ吹く風だ。あの老師はいつも気持ちよく迎えてくれる、と笑うばかりであった。しかし、今回は。

「何を心配しておる。此度はあちらから文を貰ったのだぞ」

 ほら、と差し出された書簡を見ると、確かに憶えのある手蹟であった。桜が咲き初めたのでどうぞお越しください、と書かれた文に、楽俊は安堵の息をつく。そして、まだ見ぬ花に思いを馳せた。

 芳陵を最初に訪れたのは、未だ己が王であることを知らなかった海客の陽子を、同じく海客である老師に会わせるためだった。庠序で教鞭を取りながら海客の研究をしていた壁落人は、博識だった。赤髪緑眼の陽子は海客ではなく胎果であること、言葉か通じる海客や胎果は今までいなかったこと、故に胎果の延王に助けを求めよ、と教え助言してくれたのだ。その後、景王であることが分かった陽子は首尾よく延王に会うことができた。

 慶国に渡り景王となった陽子は、老師への恩返しを望んだ。陽子のお蔭で雁の大学に入ることができた楽俊は、その意を叶えるべく動いた。何故だかその折にふらりと現れた延王尚隆とともに老師を訪ねた楽俊は、叶えたい望みはない、と言い切る欲のなさと、背の高い海客を延王と看破した慧眼に感銘を受けた。それは国主も同様で、礼として桜を贈る、と約したのだった。
 桜と聞いた海客の老師は僅かに眼を瞠り、懐かしげに頬を緩めた。不思議に思った楽俊に延王が種明かしをしてくれた。桜とは、蓬莱では春を告げる花で、人々にこよなく愛されているのだ、と。

 異国に流されても逞しく生き延び、飄々と根を張った海客が見せた一瞬の淡い望郷。落人にそんな貌をさせた花を己も見てみたい。楽俊はそのときそう思った。そして、延王も花が咲くときは見にこよう、と言ってくれたのだ。それが今日叶うことになる。
 まあ、桜が咲く前に何度も訪問することになったのは楽俊の胃痛を誘う原因になったのだが、それも国主を惹きつけた老師の人柄ゆえなのだろう。

 季節は春。未だ朝晩の空気は冷たいが、日中は充分暖かい。桜とはどんな花だろう。そんな楽俊の心を読んだように、綺麗だぞ、と国主は笑った。

 庠序に辿りつくと、老師が笑顔で迎えてくれた。早速案内された庭には、細いが背の高い若木があり、薄紅の花をつけていた。
「綺麗に花開いたな」
「お蔭さまで」
 咲き初めの時点でお知らせした甲斐がありました、と続け、老師は満開の花に眼を細める。蓬莱人は並んで桜を見上げていた。楽俊もまた初めて見る花を観察する。房になって咲く切れ込みのある五弁の花びらは薄紅で、優しい色合いだ。確かに美しい花だが、そこまで人を惹きつけるとは思えない。もっと目を引く花はあるだろう。楽俊は軽く首を傾げた。

「――不思議そうだな」
「あ、いえ……」
 胎果の王は楽俊を見下ろして笑む。海客の老師にも笑みを向けられて少し狼狽えた楽俊に、延王は楽しげに語り出した。
「こちらの者には地味に思えるだろうが、あちらでは桜は春を告げる花でな、古くから歌に詠まれ、ただ花見といえば観桜を指すほどに愛されている」

 世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし

「桜がなければ、いつ咲くか、いつ散るかと春をやきもきして過ごすことはなかろうに、という歌だ」

 ゆったりと詠じ、延王は笑みを湛える。こちらには少ない花だから忘れていたが、と続ける国主に、老師もまた頷いた。
「確かにこちらでは見かけませんね」
 私も忘れていました、と言いながらも、老師は桜を懐かしげに見上げる。蓬莱では学舎の周りに植えられることが多く、花が咲けば樹の下に集まって酒宴を行った、と語る老師。それを受け、国主が続けた。散り際がまた見事なのだ、と。そんなとき、満開の花が春風に散らされた。ふわりふわりと舞う花びらが雨のように降り注ぎ、楽俊はしばしその光景に見蕩れた。
「――桜吹雪ですね」
 美しい、と呟いた老師は、不意に国主を見上げて笑みを深めた。

「いつか、陽子さんにも見せてあげてください」

 きっと喜ぶと思います。そう続け、老師は一層穏やかな笑顔を浮かべる。僅かに眼を瞠った延王は、破顔して大きく頷いた。

「きっと、喜ぶだろうな」
 それから、延王は人の悪い貌をした。
「そなたの望みを叶えることもできる」

 老師は不思議そうに首を傾げた後に笑み崩れた。楽俊もまた人の良い老師を見て笑み、蓬莱の春告花を見て喜ぶ親友を思い浮かべて胸を温めたのであった。

2018.03.16.

後書き

2018/03/17(Sat) 00:24 No.3
 桜祭第1弾としてはお初の楽俊でございました。 こちらは16桜祭第9弾「再訪問」の続編となりますが、読んでいなくても解ると思います〜。
 今年は誰で書こうか、と考えて、振り返ってみました。 浩瀚・桜・浩瀚・尚隆・景麒・陽子・祥瓊・蘭桂・六太・鈴・虎嘯。う〜ん……。 そういえば楽俊のリクエストをいただいておりました。 というわけで、リクエストひとつ昇華でございます。 お気に召していただけると嬉しいのですが。

 皆さまの素敵な桜、お待ち申し上げておりますね!

2018.03.17. 速世未生 記

祝! 桜祭開催! ひめさま

2018/03/17(Sat) 01:56 No.5
 今年もお祭り開催おめでとうございます。そしてありがとうございます!

 管理人さま作品第一弾!  尚隆と壁落人との信頼関係は理解した上での楽俊の不安、戸惑いが見事に語られて。 陰で陽子さんも登場させるなんてニクイですね(笑)。

 リクエストに応募してみようかな、と『花見』を読み返しました。 まあ見事に忘れている、と申しましょうか、 お昼の再放送のテレビドラマを新鮮な気持ちで見ることができるという特技を 発見いたしましたよ(笑)。

桜祭開催おめでとうございます! 由都里さま

2018/03/17(Sat) 12:05 No.6
 桜祭の開催おめでとうございます!  今年も少しでも賑やかしになれるよう、 微力ながら絵や短い小説(できれば!)の投稿をさせていただきますね。

 再訪問のお話、私も大好きなので、続きが読めて嬉しいです。
 尚隆、何気に嬉しそうです。 雲海の上に生きて知り合いが少ないからか、 または身分差を心得ている上で普段通り接してくれる相手だからか、 壁先生は陽子とは別の方向でだいぶ気に入られてますね。 元日本人同士のお花見にほっこりしました。

おめでとうございます! 文茶さま

2018/03/17(Sat) 20:29 No.12
 桜祭開催おめでとうございます!  今年も目一杯楽しませていただきたいと思っておりますので、よろしくお願いします!

 尚隆はこれから毎年この季節に壁先生を訪ね、静かな時を過ごすのでしょうね。 桜の魅力を語らずとも伝わる者同士、とても大切な時間なのだと思います。 楽俊もいずれ桜の深みを知り、共に語り明かす日がくるのでしょう。 数年後にまた、この御三方の語りを聞いてみたいなと思います。
 素敵なお話で優しい余韻が残りました。ありがとうございます!

ご感想御礼 未生(管理人)

2018/03/17(Sat) 21:06 No.13
 皆さま、 旅の移動中にスマホでぽちぽち打っていた第1弾にご感想をありがとうございます〜。

ひめさん>
 此度は素敵なリクエストをありがとうございました!  何気に陽子主上まで出張りましたね(笑)。お楽しみいただけて嬉しゅうございます〜。 「花見」まで読み返していただけるとは!  12年も前のお話ですから忘れていても仕方ないと思いますよ。 重ね重ねありがとうございました!

由都里さん>
 今年もいらしてくださりありがとうございます〜。 北の桜が散るまでどうぞよろしくお願いいたしますね。
 「再訪問」お好きですか、嬉しゅうございます〜。 続編もお楽しみくださりありがとうございます。 はい、かの方は壁先生がお気に入り(笑)。

文茶さん>
 今年もともに踊りましょう(笑)。どうぞよろしくお願いいたします。
 きっと桜が増えていけば、楽俊もこの花の良さを理解していくのだろうと思います。 「再訪問」ともどもお楽しみくださりありがとうございました。

桜祭開催 おめでとうございます  ネムさま

2018/03/17(Sat) 23:56 No.18
 またこの日がやってきました!  気の早い高知の桜のお蔭で、少々焦っておりますが、 またこちらで皆様とお会い出来てうれしく思います。

 トップバッターは楽俊! そして尚隆と壁先生だぁ〜。 うれしい組み合わせです。 なるほど、中華世界で生まれた楽俊にとっては、桜は地味なんですね。 これは是非花吹雪を見せてあげたい。それを理由に陽子を引っ張り出してね、尚隆。

 心温まるお話をありがとうございました ^^

これは絶対お酒が美味しくなるコンビ!  饒筆さま

2018/03/18(Sun) 00:47 No.21
 改めまして、お祭りの開催ありがとうございます&今年もよろしくお願いします!

 うっわ〜! 殿と老師の穏やかな友情? 同郷の士? 関係が素敵ですね!  これは絶対、二人で飲んだらお酒が美味しくなる仲ですよ〜
 蓬莱風情たっぷりの桜吹雪を眺めながら、 縁側で並んで酒を酌み交わすお二方の背中が見えました。 こちらも並んで座る楽俊&陽子さんはお酒より桜餅で!(笑)

 ほっこり情感豊かなお話をありがとうございました。

ご感想御礼 未生(管理人)

2018/03/21(Wed) 01:53 No.51
 遅くなりました〜。拙作にご感想をありがとうございました!

ネムさん>
 今年もいらしてくださりありがとうございます〜。 ほんと高知の桜、気が早過ぎますよね(苦笑)。 ネムさんの作品、のんびりお待ちしておりますね。
 はい、第1弾はお初の楽俊、そしてかの方と壁先生でございます。 お楽しみいただけて幸いでございます〜。 あちら生まれの楽俊にとっては桜は地味だと妄想いたしまして、桜の雨を浴びていただきました。 巧生まれの楽俊は吹雪を知らないでしょうから雨でございます(笑)。

饒筆さん>
 今年も早々の花輪をいただき恐悦至極にございます。どうぞよろしくお願いいたしますね。
 ああ、花見酒に花見餅! 素敵でございます〜。 いつもながら妄想を邁進させるご感想をありがとうございました!

言祝ぎ 篝さま

2018/03/21(Wed) 23:34 No.58
 この度も桜祭を開催してくださり、本当に本当にありがとうございます。 そして十二回目という大きな節目を迎えられたことをお祝い申し上げます。

 今年も少しでも賑やかになりますようにと、 お祭りの隅っこでわっせわっせと桜の花びらもとい妄想をまき散らしていけたらなあと 思っております〜(笑)

 未生さまの早速の第一弾の作品を拝見して、 かの有名な和歌を引用されている部分で真っ先に思ったのが、 「あれ? そう言えばこれって私達(桜祭に参加されている面々)のことじゃない??」 でした(爆笑)
 あちらで某種類の桜が咲いたと聞きつけては走り、 こちらでまた別の種類の桜が咲いたと知ってはせっせと通いつめ、 まさに翻弄されているなあと…わはは… (いや、それだけ桜は素晴らしいんだよ〜と伝えたいという歌の主旨は解っておりますが(笑))

 壁先生も殿も蓬莱での桜に関する思い出はたくさんあるでしょうね。 またこちらでも新たな思い出を、 今度は陽子さんや楽俊、かけがえのない仲間達と共に作っていってほしいものです。かお  ほのぼのとじんわり心温まる作品をありがとうございました。

ご感想御礼 未生(管理人)

2018/03/23(Fri) 00:23 No.60
 篝さん、今年も祭にいらしてくださりありがとうございます。 気づけば12回でございます(笑)。
 今年の右往左往ぶり、正にこの歌のとおりでございました〜。 ほんとに私たち振り回されておりますよね!  これも楽しみではございますが(苦笑)。
 はい、時代は違えど、 桜は蓬莱生まれの二人にとって思い出深い花ではないかとの妄想でございました。 お楽しみいただけて嬉しゅうございます。
 篝さんのご投稿もお待ち申し上げておりますね〜。
背景画像「素材屋 flower&clover」さま
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