女王の夢現@管理人作品第3弾
2018/05/17(Thu) 23:21 No.615
皆さま、こんばんは〜。いつも祭にご投稿及びレス、拍手をありがとうございます。
本日の北の国、最低気温は10.6℃、最高気温は20.3℃でございました。
夏日を超えた昨日に比べると肌寒く感じる一日でございました。
けれど、木々は緑が眩しく、春というより初夏かなと思います。
リラ冷えがございます故、気は抜けないのですが。
それでは桜開花情報でございます。
5/14に釧路、15日には稚内のえぞやまざくらが満開となりました。
今年の「さくら満開状況」の空欄が全て埋まりました。
桜前線、お疲れさまでございました〜。
さて管理人は大変難産の末に漸く第3弾を仕上げました。
リクエストいただいた末声妄想でございます。苦手な方はご注意を。
※ 管理人の作品は全て尚陽前提でございます。
- 登場人物 陽子・尚隆
- 作品傾向 シリアス(尚隆登遐後末声注意!)
- 文字数 1368文字
女王の夢現
2018/05/17(Thu) 23:28 No.616
月が美しい夜だった。久々に訪れながら夜半を過ぎても顔を見せぬ伴侶に、陽子は不安を募らせる。自ら行けば擦れ違うかもしれない。そう考えた陽子は側付きの使令に頼み、伴侶を捜してもらった。程なく戻った班渠は、こちらへ、と隠形したまま陽子を導く。そこは満月がその光を惜しみなく注ぐ庭院だった。
盛りを過ぎて花びらを散らす桜の下で、伴侶は独り酒瓶を傾けていた。陽子は声なくその様を見つめる。月に照らされて白く浮き上がる桜花は、己の下に坐す男を守るように立っていた。
「願わくは花の下にて春死なん その如月の望月の頃」
低く詠じられる古の蓬莱の歌。聞いて陽子は息を呑む。
いつか、桜のように、潔く。
かつて伴侶はそう言って笑った。陽子は涙を滲ませつつも笑みを返した。そのときは笑顔で見送る、と。それなのに。
いかないで。
胸で叫び、陽子は瞳を潤ませる。
ここにいて。まだ、逝こうとしないで。
走り寄りたい気持ちを抑え、陽子はゆっくりと階を降りた。散る花に手を伸ばした伴侶は不意に振り返る。そして、優しい笑みを見せた。
胸を衝かれ、陽子は立ち止まる。思わず眼を逸らし、皓々と光る満月を見上げた。そして月明かりに白く染められた桜花に眼を移す。連れていかないで。胸でそう呟きながら伴侶に眼を戻し、陽子は再び歩を進めた。
黙して見つめる伴侶の左に腰を降ろし、陽子は淡く笑む。唇を緩めた伴侶は、瞬きをする度に落ちる陽子の涙を声なく眺めていた。
何も言ってくれないんだね。
言葉に出せぬ想いを呑みこみ、陽子は眼を閉じる。そして伴侶の肩に頭を凭せ掛けた。伴侶は優しく陽子の肩を抱く。時が静かに流れ、寄り添うふたりの身体を温めた。やがて。
密やかな笑い声に、陽子は顔を上げる。伴侶を見つめる陽子の瞳はもう乾いていた。
「――たまには夜桜もよいものだ。だが、やはり緋桜の方が美しい」
伴侶は楽しげに陽子の耳許で囁いた。首を傾げる陽子に応えることなく立ち上がり、陽子の腰を抱いて歩き出す。ひらりひらりと花弁を散らす桜花にそっと眼を遣り、陽子は小さく安堵の息をついた。伴侶を送る日は、今宵ではない、と。
昔のことを思い返し、陽子はゆるりと庭院に視線を落とす。あのときと同様に、望月が歳経りた桜花を照らしていた。
ふ、と自嘲の笑みを浮かべる。伴侶を見送って、もう幾歳も過ぎたというのに、記憶は今も鮮やかだ。月夜に白く浮かび上がり、ひらひらと花弁を散らす桜の樹を、陽子は黙して見つめる。
逝かないで。
胸で何度もそう叫んだ。夢を見ては、桜吹雪の中に消えていく伴侶の背に手を伸ばした。追い縋る気持ちがそうさせるのだろうか。しかし。
陽子は眼を瞠って立ち尽くした。伴侶がいつもの桜の樹に寄り添うように佇んでいる。愛しいひとは、あのときのように優しく微笑んでいた。
「――
尚隆」
小さな声で名を呼べば、笑みを深めて大きな手を差し出してくる。それだけで泣きたくなった。涙など、あれから流したことはない。景王陽子には必要ないものだから。
ひときわ強い風が吹き、陽子は瞳を閉じた。そうして再び眼を開けたなら、乱舞する桜吹雪の中で笑うひとは姿を消している。夢も現もいつもそうだった。それなのに。
陽子。
呼び声がする。眼を開けても愛しいひとはそこにいた。差し出す手もそのままに。
景王陽子は立ち尽くす。月は桜を照らし、風は花を散らすばかりだった。
2018.05.17.
後書き
2018/05/17(Thu) 23:35 No.617
管理人作品第3弾「女王の夢現」をお送りいたしました。
こちらはリクエスト作品第2弾になります。
前半は小品「望月頃」の陽子視点になりますが、読まなくても解ると思います。
末声連作の一部で失礼をば。雰囲気で読んでくださいませ。
リクエストありがとうございました。
さて、祭終了まであと3日。書きかけ描きかけを抱えたそこのあなた!
諦めずに仕上げてくださいね。管理人とともに足掻きましょう(笑)。
あなたの素敵な桜をお待ち申し上げております。
2018.05.17. 速世未生 記
- 尚隆登遐後、桜吹雪の中に尚隆の幻影を見る陽子のお話をお願いしたく思います。
(お任せ・陽子)
それでも、ね ネムさま
2018/05/19(Sat) 01:30 No.618
昨夜615が出たところまで見たのですが、寝オチしましたので、
ようやく今お話が読めました。
う〜〜〜 思わず「尚隆のバカー!」と叫びたくなりますね。
一人で「願わくば」なんて詠って、陽子にこんな切ない想いをさせて〜〜(唸)
でも陽子が傍らに寄り添ってくれた時、どんなにか安らいで幸せだったんでしょうね(溜息)
陽子もどれ程切なくとも、それを忘れないでいて欲しいです。
月と桜とそして風。美しい春宵をありがとうございました。
得意なこと ひめさま
2018/05/19(Sat) 22:09 No.623
「雰囲気で読むこと」。これは本当に得意なんですよ。
「それを言葉に(で)表すこと」。こちらは苦手、なんですね〜(汗)
……雰囲気で読ませていただきました。
景王としての陽子さんのお話、と簡単に片づけてしまえるものではないのですが……
涙涙涙...... 文茶さま
2018/05/20(Sun) 09:18 No.637
もうダメです......痛いくらいの切なさが込み上げて、前半から泣いてしまいます......。
いつか来る日を覚悟しながら、それが今ではないと安堵しながらーーー
千々に乱れる気持ちを抱えて過ごす時間は、陽子にとって辛いものだったでしょう。
それでも、二人寄り添う穏やかな時間が幸せであったことに胸が温かくなります。
景王陽子から泣き虫陽子に変わりそうになったとき、
泣いていいんだよ......と声を掛けてあげたくなりました。
うまくまとまらなくてすみません。 もう胸がいっぱいで......(泣)
ありがとうございました!
王様の悲哀 饒筆さま
2018/05/20(Sun) 10:01 No.639
先日ネムさまの御話では見送る麒麟の悲哀について思いを馳せましたが、
このお話で今度は去る王様の辛さについて改めて考え込んでしまいました。
十二国の王様って、自分で自分の死を招く
(あるいは覚悟をもって迎える、足掻きながら沈む等)しかないんですよね。
国の御柱になって王様業に向き合う事すら大変なのに、
自分の死にまで正面から向き合って自分で決断しなければならないんですよね……
溺れるように沈みゆく尚隆氏の内心の苦しみは察して余りありますし、
陽子さんも、失う悲しみだけでなくいずれ自分に訪れる同様の苦悶を見せられているのだなあと
思うと、もう、胸が痛くて言葉が出ません。
……桜が、慰めてくれているのなら良いのですが。
お願いだから、悲しみに暮れているひとを惑わさないで。
切なくも美しいお話をありがとうございました。
ご感想御礼 未生(管理人)
2018/05/20(Sun) 23:51 No.688
末声小品に温かなご感想をありがとうございました〜。
ネムさん>
ありゃりゃ、お待たせいたしました(苦笑)。
夜桜に惹かれてかなりきわどいところまで連れて行かれていた尚隆を引き戻したのが
この時の陽子主上でございます。実は昨年挫折した代物でございました……。
ひめさん>
いえいえ末声は感想を送りにくいと思っております。なんかごめんなさい。
雰囲気で読んでくださりありがとうございます〜。
文茶さん>
ああ、文茶さんを泣かせてしまった……!
「いつか訪れる現実」を覚悟しながらも寄り添うふたりでございます。
私も泣きそうになりながら書き上げました……(泣)。
未だ泣けない陽子主上を不憫には思いますが、
「そのとき」が来たならば解禁になることでございましょう……。
饒筆さん>
十二国の王は寿命がございません故、自分で最期を決めるしかないのだと思います。
大国の王ほど終わりのない辛さに呑まれ、
けれど自分で終わらせることができなくて民を虐げてしまうのではないかと。
それはある意味緩慢な自死なのではないでしょうか……。
含蓄のあるご感想をありがとうございました。
こんなところで捕捉するのもなんですが、この頃の尚隆は生きることに倦んでおりまして、
ただ陽子主上のためだけにとどまっている状態でございます。
そして陽子主上もそれに気づいている。
喪う覚悟がまだできず、煩悶しているのでございます……。
後半はもう、陽子末声間近でございます。いつ辿りつけるやら……(苦笑)。
皆さま、ご覧くださりありがとうございました。