泰麒の回想@管理人作品第4弾
2018/05/19(Sat) 19:05 No.620
皆さま、こんばんは〜。いつも祭にレス及び拍手をありがとうございます。
本日の北の国、最低気温は7.6℃、最高気温は12.0℃でございました。
東の峠では雪が積もったようでございます。我が街もリラ冷えでございますね〜。
あまりの寒さにニットを羽織っておりますよ。
さてさて管理人、なんとか第4弾を仕上げました。
リクエストをいただいた泰麒の小話でございます。
よろしければお楽しみくださいませ〜。
- 登場人物 泰麒・正頼・李斎
- 作品傾向 ほのぼの・シリアス
- 文字数 1352文字
泰麒の回想
2018/05/19(Sat) 19:10 No.621
雪が舞い始めた。泰麒は眼を輝かせて窓辺に駆け寄る。北国では普通に降る雪が、蓬莱生まれの宰輔には珍しい。ふわりと舞う雪は、融けることなく地面を白く染めていく。泰麒は暖かな室内から飽きることなくその様を眺め続けた。
泰麒が知る雪は、大きく重く、身体や地面に触れるとたちまち融けてしまうものだった。髪や服を冷たく濡らす水に還っていくもの。しかし、ここ、戴では全然違う。白く細かい綿毛は融けることなく髪を飾り、地面に舞い降りて積み重なっていくのだ。
「雪が恥ずかしがっておりますよ」
そのうち赤くなってしまうかもしれませんね、と笑い含みの声が続く。泰麒が驚いて振り向くと、そこには傅相の正頼がにこやかに笑って立っていた。
「え、戴では赤い雪も降るの!?」
「降りませんよ」
正頼の即答に、泰麒は何とも言えない貌をする。この傅相はいつも泰麒を煙に巻くのだ。そんな泰麒に、正頼は楽しげに続けた。
「外に出てみますか?」
泰麒は大きく頷いた。正頼は手際よく泰麒を冬支度させていく。そうして完全防備の泰麒を庭院へと連れ出した。
小さな雪片が降りしきり、地面は真白に覆われていた。歩く度に小さな足跡が残る。泰麒は歓声を上げて空を見上げ地を見下ろした。子犬のようですね、と笑う声に笑みを送り、雪が降ると犬は喜ぶんだよ、と返す。そうですか、と正頼はまた笑った。
ひとしきり庭院を駆け回り、泰麒は足を止める。帽子からはみ出た髪を、雪が白く染めている。防寒具の上からではその冷たさは分からない。こんなふうに融けない雪は、泰麒に違うものを思い起こさせた。
「――桜みたいだ」
蓬莱では春を告げる花。風に散らされる淡い紅の花びらの乱舞は桜吹雪とも称される。空から舞い降るこの雪は、あの美しい花びらのようだ。
「桜、ですか?」
「うん。蓬莱では、こんなふうに花びらを散らすんだよ」
春の花だけどね、と続けると、正頼は眼を細めて頷いた。
「いつか、驍宗さまにもお見せしたいなあ!」
泰麒は降りしきる雪を見上げつつ、眼を細めて呟く。国が落ち着いたら桜なる樹を探してみましょう。正頼はそう言ってまた笑った。
「――泰麒? どうかなさいましたか」
心配を滲ませた声が意識を揺り動かす。どうやら己は眠っていたようだ。
夢、だったのか。
泰麒は腕で両眼を覆う。幸せな、幸せだったあの頃。今はただ懐かしい想い出。
「泰麒?」
気遣わしげな声はあくまでも柔らかい。泰麒はゆっくりと身を起こし、声の主へと笑みを向けた。優しい笑顔を見せる李斎の肩越しに見える窓の外。泰麒は立ち上がり、窓辺へと歩を進めた。
淡い陽射しに照らされて輝く白いひとひら。ふわりふわりと舞う雪は、違う何かを思い起こさせた。
晴天に降る雪は風花という。そしてこんなふうに大きな雪片は牡丹雪と呼ばれる。北に冬の終焉を告げる春の使者のようなものだ。そう教えてくれたのは、そこにいる李斎だった。
まるで桜のようだ。
胸でそう呟いて、泰麒は唇を緩める。桜は春の花。
凍てつく冬の国にも、どうぞ春が訪れますように。
祈りを籠めて風花に見入る。そんな泰麒の背に温かな声が掛けられる。
「――じきにこの国にも春が訪れるでしょう」
春の使者が国に戻られましたから、と続ける李斎は慈しむような笑みを見せる。泰麒は声なく頷いて、春の花を思わせる白いひとひらに眼を戻した。
2018.05.19.
後書き
2018/05/19(Sat) 19:16 No.622
小品「泰麒の回想」@管理人作品第4弾及びリクエスト作品第3弾をお届けいたしました。
いやはや、こちらも難産いたしました……。
雪降るお外を駆け回る泰麒の姿を胸に抱き続けたこの2ヶ月余り、
漸く表に出せてほっとしております。お楽しみいただけると嬉しゅうございます。
さて、管理人はあとひとつ! そこのあなた、管理人とともに最後まで足掻きましょう!
あなたの素敵な桜、お待ち申し上げております。
2018.05.19. 速世未生 記
- 桜祭開催おめでとうございます。
もしできれば泰麒と桜の話をお願いします。 (お任せ・泰麒)
ご感想御礼 未生(管理人)
2018/05/21(Mon) 00:23 No.690
ネムさん>
はい、原作「黄昏」で李斎が述べているように、泰麒こそが戴の光。
そして春の使者でございましょう。
子供泰麒にとって雪は辛いものだろうかと思い「風の海」を読み返しましたが、
あの後すぐに汕子に回収されておりますので雪に対するトラウマはないかと判断いたしました。
なので、子供らしく子犬のように喜び駆け回っていただきました〜(笑)。
泰麒をだます正頼もツボ! でございます。
ほんとうに戴の未来が明るいものであることを願って已みません……。
文茶さん>
ですよね、南国住民にご同意いただけて嬉しく思います〜。
いえいえ雪にはしゃぐ文茶さん、きっと愛らしいに違いございません!
戴の春が現実になることを私も祈っております……。
饒筆さん>
正頼をお気に召してくださりありがとうございます〜。
私も実は大好きでございまして(笑)。
北の住人である私めは雪について語り出すと止まりませんよ〜!
晴天に降る雪、風花は晩冬の淡い陽に照らされるときらきらしてとても綺麗でございます。
お見せしたいわ〜。
ほんとに新刊で戴と驍宗さまが救われることを願っております。
由都里さん>
子供泰麒の無邪気さが愛おしく、高校生泰麒の落ち着きぶりに痛ましさを覚えます。
原作「黄昏」での李斎は再び泰麒に見えて戴を取り戻したかのような、
もぎはなされた子供を取り返したような、そんな印象を持ちました。
お母さん味と言われるとちょっと面映ゆいですが嬉しゅうございます(笑)。
このお話では驍宗さまを出そう! という野望を持っておりましたが、
ついぞ驍宗さまが出演してくださることは叶いませんでした。
その分、正頼が出張ってしまったのでしょうね〜(笑)。
ご覧くださりありがとうございました!