「管理人作品」 「18桜祭」

延王の頭挿@管理人作品第5弾

2018/05/19(Sat) 22:56 No.624
  第5弾及びリクエスト作品第4弾仕上げました。なんんとか間に合いました〜。 かなりゆるい尚陽小品でございます。よろしければご覧くださいませ。

 ※ 管理人の作品は全て尚陽前提でございます。

延王の 頭挿(かざし)

2018/05/19(Sat) 23:00 No.625
 行ってきます、と眩しい笑顔を見せて、陽子は伴侶とともに禁門から飛び立つ。心尽くしの手弁当を持たせた鈴と祥瓊もまた笑みを湛えてふたりを見送ったのだった。
「今年も無事に送り出せたわね」
「そうね、よかったわ」
 季節は春。甘い匂いを孕んだ風が回廊を吹き抜ける。靡く髪を押さえつつ、鈴は祥瓊と笑みを交わした。友でもある多忙な国主が眉間の皺を消す花見の時季、存分に楽しんでほしい、と願っている。

 休むことを知らなかった生真面目な女王に休息を教えたのは伴侶でもある隣国の王だ。誰がどんなに勧めても書卓に貼りついたままだった女王を強引に連れ出した。きっかけになったのは、こちらでは珍しいという桜。蓬莱では春を告げる花だ。困惑しつつ出かけた陽子が戻ってきたときの笑みを、鈴は今なお鮮やかに思い出せる。肩の力が抜けた柔らかな美しい貌であった。寛いだ笑みを見せながら、陽子は手土産の桜の花びらを茶に入れて側近みなに振る舞った。

 それから花見は毎年続いている。桜が満開になる前に仕事を片付ける、という目標に向かい、国主は書簡を捌く速度を上げるのだ。その姿は真剣であるが楽しげにも見え、周囲の者たちも主のささやかな願いを叶えるために尽力する。春とはそんな季節であった。
「さて、仕事仕事!」
 鈴と祥瓊は声を合わせて笑った。中断した作業の続き、茶会の準備。国主が帰ってくるまでにやるべき仕事は山ほどあるのだった。

 戻ってきた陽子は匂やかな笑みを浮かべていた。茶会の支度をして待ち受けていた鈴は見蕩れて己も笑顔になる。祥瓊は笑みを湛えつつも友の頭を指差した。

「桜の簪釵ね。素敵だわ」

 言われて鈴も陽子の頭を見やる。緋色の髪に挿された薄紅の花は普段凛々しい友を可愛らしく見せていた。そんなとき。

娘子(おとめ)らが 頭挿(かざし)のために
 風流士(みやびを)の (かづら)のためと
 敷きませる 国のはたてに 咲きにける
 櫻の花の にほひはもあなに」

 それまで黙していた隣国の王がゆったりと歌を詠じた。鈴が驚き眼をやると、友の伴侶もまた桜の簪釵をつけている。眼を丸くする鈴とは裏腹に、祥瓊は笑い声を立てた。

「まあ、お揃いなんですね」

 にやりと人の悪い笑みを見せた延王尚隆は歌の意味を披露する。

「乙女たちの頭挿のために、風流士たちの縵のために、大王が統べられるこの国の端々まで輝くほどに咲いた桜の花の何と美しいことか、という意味の歌だ」

 というわけで、と続け、隣国の王は慶主の肩を抱き寄せる。驚き慌てる陽子に構うことのないその所作に鈴も祥瓊も苦笑を零した。

「乙女に献上したら、お返しを貰ったのだ」

 頬を朱に染める陽子を見やり、延王は破顔した。聞いた祥瓊は肩を竦め、鈴はふたりを見つめる。真っ赤になって絶句する伴侶を眺める隣国の王はほんとうに楽しげだ。

 枝を折ると桜は傷む。

 そう告げるのはまたの機会にしよう。鈴はそう思い、祥瓊と苦笑を交わしたのだった。

2018.05.19.

後書き

2018/05/19(Sat) 23:04 No.626
 小品「延王の頭挿」@管理人作品第5弾及びリクエスト作品相4弾をお送りいたしました。 こちらのベースは「国のはたてに咲きにける」でございますが、 読んでいなくても解ると思います〜。

 今までなんだったの、と思うくらい今日は捗りました。 ただ、頭が壊れてまいりまして……(苦笑)。 それでもお楽しみいただけると嬉しく思います。

2018.05.19. 速世未生 記

お疲れ様でした!  ネムさま

2018/05/19(Sat) 23:44 No.629
 リクエスト達成! おめでとうございます パチパチ
 ラストスパートは惚気尚隆でしたか。でも、いつも惚気てると思うんだけど(笑)
 頭挿の桜花、懐かしいですね!  お揃いの簪を見てしまっては、鈴も祥瓊も、花泥棒を許すしかないでしょう。
 ほのぼの尚陽、しっかり味わせて頂きました ^m^

鈴ちゃんナイス!(サムズアップ)  饒筆さま

2018/05/20(Sun) 10:26 No.641
 鈴ちゃんのナイス・ツッコミに拍手喝采です(笑)好きです。
 そうそう、親身になって協力や心配するけれど甘やかさないのが良き親友ですよね〜!
 桜を挿して浮かれているリア充お二方を、ほのぼの見守る親友 (&たぶん周りの人たちも)の温かさがまさに春爛漫って感じで素敵です。
 ほっこり楽しいお話をありがとうございました。

良いですねぇ〜^ ^ 文茶さま

2018/05/20(Sun) 11:10 No.643
 見せつけ尚隆と、「はいはい、ごちそうさま」と呆れている祥瓊の対比が楽しいです(笑)  そして傍で赤くなってる陽子さんの可愛らしいこと!  このシチュエーションが萌えるのです〜(//∇//)
 しょうがないなぁと苦笑しながら、二人を見守る祥瓊と鈴の温かな眼差しに、 にっこりほっこりしました〜。

ラブラブ♪ 葵さま

2018/05/20(Sun) 14:07 No.650
 未生さま、こんにちは!
 ほほえましいカポーゥですねぇ、扉の影からお二人の様子をガン見しちゃいました。 御揃いの桜の簪……頬を染める乙女。いいなぁいいなぁ絵になっちゃう。
 一方で鈴の「桜の枝を折ると傷む」という冷静な突っ込みもたまりません(笑)  うんうん、当事者以外はわりと冷静にペアグッズを眺めるものだというアレでしょうか…
 仲良しのお二人さまに当てられた心地がいたします。いつまでもお幸せに!

知ってます(笑) 由都里さま

2018/05/20(Sun) 17:18 No.658
 殿のでれでれな惚気いただきましたー!
 陽子には歯の浮くようなことばっかり言ってますが、人前ではどうなんでしょうね。 でもわりと他人の前でも平気で同じことしそうなので、 鈴と祥瓊は((また始まった…))と思っているのかもしれませんね(笑)
 それにしても、夢幻夜話様の尚隆は本当に風流ですなあ…。 昔の歌もよく覚えてますなあ…作者様に似て、この尚隆は頭が良いのですなあ…

色んな意味で春だ〜 晃子さま

2018/05/20(Sun) 23:40 No.687
 延王と陽子のおソロな花簪とは可愛いすぎです(*≧∀≦*)  お話読んでいてニマニマしてしまいましたよ!!  延王もっと惚気ちゃってくれ〜(//∇//)  そして可愛すぎな陽子を見せてほしい( ^ω^ )
 未生さん可愛すぎなお話、本当ありがとうございましたヽ(´▽`)/

ご感想御礼 未生(管理人)

2018/05/21(Mon) 00:46 No.691
 皆さま、頭の壊れた小話にご感想をありがとうございました〜。

ネムさん>
 ありがとうございます、間に合わないかと思いまました(苦笑)。
 いつも惚気てる!? わあ……(恥)。
 お揃いの頭挿、2011年でございました。いやはやもう7年も前でございますよ!  仙籍に入っているせいか、そんなに前とは思いませんでした(笑)。
 さすがに鈴も虎嘯には言えても 隣国の王さまには苦言を呈すことはできないらしゅうございますね!

饒筆さん>
 鈴もツッコミは胸に留めるほかはないでしょうねぇ、この場では。 はい、鈴と祥瓊しか書いておりませんが、周囲にはばっちり側近連中が揃い踏みでございます。 リア充なバカップルに何も言えないことでございましょう(笑)。

文茶さん>
 はい、拙宅の陽子主上は可愛くなるのは尚隆の前限定、 側近連中の前では凛々しいはずですので、貴重な姿でございましょう(笑)。 萌えてくださりありがとうございました!

葵さん>
 リア充バカップルを微笑ましくご覧くださりありがとうございます(笑)。 鈴も突っ込めないほどの惚気ぶり……。楽しんでいただけて嬉しゅうございました〜。

由都里さん>
 照れて固まる陽子主上が可愛らしくて人前でも惚気てしまうのかもしれませんね〜。
 実は原作「東西」での尚父の「連歌の会までには戻れ」との言が印象的でございまして……。 意に添わなくても尚隆はきちんと歌の勉強をしていたのではとの解釈にございます。 いえいえ、作者はいつも頑張って調べておりますので頭はよろしくございません〜。

晃子さん>
 リア充バカップルのお話をお楽しみくださりありがとうございます。 頭壊れてるな〜と思いつつ仕上げましたが、壊れた方がよいのかもしれませんね(笑)。
 「国のはたてに咲きにける」はもう甘々ですので、 お楽しみいただけると更に嬉しゅうございます!
背景画像「素材屋 flower&clover」さま
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