桜守の早春@管理人作品第2弾
2019/03/27(Wed) 23:49 No.75
皆さま、こんばんは。いつも祭をご覧いただきありがとうございます。
本日の北の国、最低気温は−0.8℃、最高気温は+4.1℃でございました。
今朝起きたら外が真っ白で顎が落ちかけました。冬将軍殿はやはりしぶとい!
まあ、春の淡雪は陽に照らされて儚く融けてしまうのですが。
それでは桜開花情報でございます。
3/27に岡山・大阪・京都・神戸・水戸・前橋・甲府にて
そめいよしのが開花いたしました。
また、3/27に東京のそめいよしのが満開となりました。
さて、本日3月27日は「さくらの日」ということで、一作仕上げてまいりました。
捏造満載な芳のお話、よろしければご覧くださいませ。
- 登場人物 沍姆・月渓・祥瓊
- 作品傾向 ほのぼの
- 文字数 1190文字
桜守の早春
2019/03/27(Wed) 23:50 No.76
ふわりと大きな白いひとひらが舞う。真冬のものとは明らかに違う雪をぼんやりと眺め、沍姆はゆっくりと顔を上げた。差し伸べた手の上で儚く融ける淡雪は近づく春を思わせる。沍姆は硬く小さな蕾を幾つもつける若木を見つめ、唇を緩めた。
ひょろりと細い樹の名は桜、蓬莱では春を告げる花を咲かせるという。馴染のないそんな樹がここにあるのは仮王がそれを望んだからだ。
先年、沍姆は勅使に連れられて鷹隼宮を訪ねた。仮王月渓のお召である。その際、沍姆は意外な人物に引き合わされた。以前里で預かっていた元公主である。玉葉と名を変え、不本意そうに暮らしていた娘にいい思い出はない。しかし、簡素な官服を纏い優雅に礼をする娘は凛然と美しかった。沍姆に元の字を呼ばせるほどに。
今は慶国金波宮にて官吏として景王に仕えているという元公主を、仮王は、祥瓊さま、と呼んだ。これには呼ばれた本人も苦笑していたが、沍姆はそんな仮王の人柄を好もしく思う。
里で元の身分を明かされて里人に私刑にされそうになった事件を報せに州城に走ったのは、元公主のためではなかった。月渓が彼女を生かそうとしていたからだ。そして祥瓊はその期待に応えてみせた。
沍姆の息子を処刑した憎き仲韃の娘。父王が討たれても生きることを許された元公主を赦したわけではない。けれど、敬愛する仮王月渓が今なお大切に扱い、自ら悔恨を見せて沍姆に詫びを入れた娘を憎み続けることは難しかった。
祥瓊さま、と声をかけた沍姆に涙を湛えて礼を述べたその顔は美しかった。慶の女王がこよなく愛しているという桜もまた。
雁より寒さに強い自生種を取り寄せて贈ったという桜の若木。仮王はそれを植樹して残すことを望んだ。そしてその場所は鷹隼宮ではなかった。今の身分は仮のもの、正当な王にお返しすべきもの。そう断じる仮王は早くその場を辞したいように見えた。だから沍姆は若木の守人になることを申し出たのだ。ただの里にあれば、仮王の身分を解かれたときにも気軽に見に来られるだろう。そして沍姆が天寿を全うしても月渓に世話になった里人が守を引き継いでくれるだろう。
鉢に移され大切に育てられた若木は秋のある日に沍姆の里に植樹された。それから沍姆だけではなく里人にも大事にされている。毎年開く花を増やし、すくすくと伸びた。沍姆は眼を閉じ昔を思い出す。
(芳での吹雪は辛いものだったけれど、散り際の桜吹雪はとても美しいのですよ)
祥瓊はそう言って眼を細めた。
(風が吹く度に薄紅の花弁が舞う様はほんとうに吹雪のようです。楽しみにしていてくださいね)
沍姆は眼を開けた。北国の冬は長く辛い。しかし、晩冬にふわりと舞い降る大きな雪は春を思わせる。そして、五弁の花びらを散らす桜は確かに雪のようだった。春を思わせるこの雪は、正に桜だ。
北の冬もそろそろ終わりを告げる。細い枝に舞い降りて淡く融ける桜雪を眺め、沍姆は笑みをほころばせた。
2019.03.27.
後書き
2019/03/27(Wed) 23:54 No.77
17桜祭に投稿いたしました小品「仮王の招聘」の続編になるでしょうか。
でも読んでいなくても解ると思います。
今年の北の国は暖かくて3月中に積雪深も0になってしまいました。
それだけに今朝の真っ白景色には驚きましたが「3月はこんなもんだな!」感が……(苦笑)。
北の雪のお話、お楽しみいただけると嬉しゅうございます。
2019.03.27. 速世未生 記
Re: 春の雪 凛さま
2019/03/28(Thu) 01:02 No.78
桜祭り開催おめでとうございます。
以前出された月渓と祥瓊と沍姆が会うあのお話、私好きです。
多分会わないだろうと思いながら、それでももし会ったらどうなるんだろうと。
祥瓊さまと名を呼ぶ想いに込めた未生さんの優しさがたまらなく染み入った事を
今回のお話でも思い出しました。
今回は、沍姆が苦みばしった想いと折り合いをつけながら、
里で若木を守り続ける姿に静かな強さを感じました。
若木は細くともしなやかに生きている。そのはまるで沍姆のようにも感じました。
読ませて頂きありがとうございました。
ご感想御礼 未生(管理人)
2019/03/29(Fri) 02:18 No.81
凛さん、祭へようこそお越しくださいました。
祭開催を寿いでいただき嬉しゅうございます!
「仮王の招聘」を思い出してくださりありがとうございます。
地味なお話ですが万感の想いを抱きつつ書いた作品ですので……。
原作「万里」を読んだとき、私は既に大人で、
三人娘よりも景麒や沍姆や梨耀さまに感情移入してしまいました。
沍姆が祥瓊にきつく当たらずにはいられなかったこと、
煩悶しつつも私情に溺れずにいたことが印象深かったのです。
沍姆の強さやしなやかさを汲んでくださりありがとうございました。
沁みました...... 文茶さま
2019/03/29(Fri) 21:58 No.83
桜には「精神の美」という花言葉があるのですが、
まさにこのお話にぴったりだなと思いました。
沍姆 の悲しみが生涯癒えることはないけれど、月渓を通して、
そして実際に相見えることで祥瓊の成長を感じ、辛さも少しずつ和らいでいくのですね。
桜と沍姆、互いに見守りつつ、共に時を過ごしていくのだと思うと心が温かくなります。
桜雪を見てみたい 饒筆さま
2019/03/29(Fri) 23:18 No.85
北国の雪は時期によっていろんな種類があるんですね……
冷えた心をいやす「桜雪」をぜひ見てみたいです。
確かに沍姆さん、意地悪はやめられなかったけれど
復讐の誘惑に溺れず行動を起こすことができてご立派でしたね。
今はそんなご自身を誇っていいんじゃないかなあ……
どうか桜の花の数と一緒に笑顔も増えますように。
個人的には、きっと永遠に自分を責め続けるであろう月渓氏にも
微笑くらいは浮かべてもらいたいので、
沍姆さん、ぜひ仮王に桜の便りを出してあげてください。
春を迎える喜びをしみじみと噛みしめたくなるお話をありがとうございました。
季節の間 (ときのあわい) ネムさま
2019/03/31(Sun) 22:02 No.100
雪と桜、違う季節の象徴なのに、どうして似ているのでしょうね。
冬から春へ移ろう間に、雪と花弁が重なりながら舞うように、
沍姆の心も、止むことのない冷たい想いから、
静かに降り積もるものへと変わって行ったのでしょうか。
そうした沍姆の心が祥瓊のいる国から送られた若木を育て、
月渓や芳の国の人々が癒される花を咲かせる様が見えるようです。
しんとした美しいお話、堪能させて頂きました。
ご感想御礼 未生(管理人)
2019/05/19(Sun) 18:55 No.583
大変遅くなって申し訳なく。
文茶さん>
「精神の美」、桜にはそんな花言葉があるのですね。
拙作をそんなふうにご覧いただけて嬉しくも面映ゆく思いました。
一皮むけた沍姆をお見守くださりありがとうございました。
饒筆さん>
北国の雪は多種多様でございます。粉雪・牡丹雪・細雪・風花・吹雪……。
日本人に生まれてよかったと心から思いますね!
そんな言葉では表しきれなかった春の雪を桜雪と命名した陽子主上は
北の人間ではないからなのでしょうね〜。いつか是非桜雪を見にいらしてくださいね!
沍姆は人間らしい人だと思います。
これから穏やかに生きて死を迎えてほしいとここから願います。
そして月渓にもいつか安らかな日がきますようにと祈って已みません……。
ネムさん>
美しい言葉をくださりありがとうございます。心洗われる思いがいたします。
北国の人間だからこそ、長く厳しい冬を乗り越えるための癒しが欲しいのかと思います。
北の人間ではない陽子主上とは別視点でございますね……。