「管理人作品」 「19桜祭」

問わず語り@管理人作品第6弾

2019/05/26(Sun) 01:40 No.651
 皆さま、こんばんは。いつも祭にご投稿及びレス、拍手をありがとうございます。

 本日の北の国、最低気温は11.9℃、最高気温は31.1℃でございました。 気温差20℃! 勘弁してください、令和ちゃん……。

 ラストスパート中の管理人、第6弾を仕上げました。 今回も尚隆登遐後の利陽でございます。苦手な方はご注意を。

※ 管理人の作品は全て尚陽前提でございます。

問わず語り

2019/05/26(Sun) 01:44 No.652
 満月に照らされた桜花は白く輝いていた。微風に揺れる枝から時折ひらりと花弁が散る。その音さえも大きく聴こえる静謐な夜。太い幹に背を預け、利広は宮の主とともに夜桜を眺めていた。

 彫像のように動かなかった女王が、不意に肩を跳ね上げた。大きく身を震わせ、細い指を膝の上できつく組む。利広は冷たくなっていくその指に手を添えた。女王は反射的に右を向く。笑みを湛えて眼を合わせると、女王は深く息をつき、再び望月を見上げた。

「――王さまの耳はロバの耳……」

 微かな呟きが形のよい朱唇から漏れ出る。利広はいつもの如く愛しい女の肩を抱き寄せ、密やかに紡がれる言葉を待った。

「──並ぶ者なき王と呼ばれながら、私の願いは、ひとつしか叶わなかった」

 淡く笑う恋人は王の貌をし、遠くを見やる。華奢な肩にかかる豊かな髪を弄びながら、利広は黙して問わず語りに耳を傾けた。

「愛するひとと結婚して……共に暮らし……そのひとの子供を産み育て……一緒に年老いていくこと……」

 言って女王は小さく笑う。それは、切ない自嘲の笑みだった。何を聞いても驚かない、問い返しもしない。遥か昔に交わした無言の約束を守りつつも、利広は細い肩を抱く手に力を籠めた。女王は、ゆっくりと利広を見上げる。そして、いつもはしない問いかけをした。

「──莫迦な女、でしょう……?」
「可愛い女だよ」

 決して叶うことのない願いを語る麗しき胎果の女王に即答し、利広は微笑してその頬に口づける。愛しい女はふいと横を向き、小さく呟いた。

「酷い女、だよね……」
「知っていて君を抱く私は、酷い男だろう?」

 利広は軽く笑った。女王は喪われた伴侶を忘れない。利広もまたそれを忘れたことはないのだ。その想いを知る女王は、そっと利広に身を寄せた。

「……利広は、酷くない」
「君は、可愛い女だよ、陽子。私に気遣う必要はない。私は君を抱きたいだけの狡い男なんだから」

 恋人の細い身体に腕を回し、利広は率直な本音を告げる。ありがとう、と囁いて、愛しい女は花ほころぶような美しい笑みを見せた。

 それでも君は泣かないんだね。

 利広は胸でそっと呟く。
「──利広?」
 女王は不思議そうに名を呼ぶ。そして、利広の顔を覗きこんだ途端、翠玉の眼を大きく見開いた。

「どうしたの、利広」

 慌てたように問う女王を見て、利広は己の頬が濡れていることに初めて気づいた。ごめんね、と必死に謝る女王を抱き寄せて口づけ、笑みを浮かべて告げる。

「私はね、幸せなんだよ、陽子」

 そう、利広はずっと焦がれていた愛しい女をこの腕に抱ける幸せを噛みしめている。その気持ちに嘘も後ろめたさもない。しかし。

 ──かの御仁は、もういない。

 この、打ちのめされるような想いは、利広のものなのだろうか。それとも、かの御仁の伴侶だった、腕の中の女のものなのだろうか。
 どんなときにも涙を見せない女王の代わりに泣いたわけではない。そんな烏滸がましいことは言えない。それでも、一度溢れた涙を止めることはできなかった。
 やがて、華奢な腕が優しく利広を抱いた。柔らかな朱唇が利広の涙を拭う。

「──ありがとう、利広」

 限りなく優しい声で、愛しい女は囁く。そして、今まで見たことがないくらいに幸せそうな笑みを見せた。

「あなたがいてくれて、よかった……」

 応えを返そうと開きかけた利広の口を、瑞々しい桜唇が封じる。

 君から口づけてくれたのは、初めてだね。

 熱い想いを唇に託し、利広は愛しい女をきつく抱きしめた。

2019.05.26.

後書き

2019/05/26(Sun) 01:46 No.653
 またも連作の一編で失礼いたしました。 こちらは以前拍手其の三百七十八「問わず語り」、其の三百七十九「束の間の幸せ」として 13年に開きました「突発ぷち利陽祭」にて出したものでございます。初筆はなんと07年。 腐臭がしてまいりますね……(苦笑)。
 前作と同じく雰囲気で読んでくださいませ。

 さて、本日は投稿終了日でございます。ラストチャンス!  あなたの素敵な桜、まだまだお待ち申し上げておりますよ。 管理人と共に足掻きましょう(笑)。

2019.05.26. 速世未生 記

散る桜は  桜蓮さま

2019/05/26(Sun) 10:26 No.659
 未生様の利陽は、切なくていつもキュンキュンしてしまいます…。
 二人の間にはいつもかの方がいて。彼を挟まないと成り立たなくて。 未生様の利陽を拝見してから、散る桜は利陽のイメージが割と固定しています(笑)。
 今回も、切なくも美しい利陽のお話を読ませていただき、どうもありがとうございました!

静かな時 文茶さま

2019/05/26(Sun) 12:18 No.666
 そう、泣き虫な陽子さんは尚隆が連れて行ったのですよね。 陽子さんは泣かないけれど、正直な胸の内を利広にだけは話せることに安心しました。
 利広がみせた涙は、いじらしさ、切なさ、やりきれなさ、愛しさ...... 色んな想いが重なってのものなのかなと思います。 謝りながら、それでも幸せそうに笑う陽子さんに胸が一杯になりました。
 切ない、けれど優しさに溢れたお話をありがとうございました。

キュン… 葵さま

2019/05/26(Sun) 17:50 No.683
 未生さま、こんばんは!
 あなたさまのネコ型ロボット試作品・葵でございます。
 利広さんと陽子さんの間に、かの御仁の影がくっきりと横たわりながらも、 なおも互いに手を伸ばさずにはいられない慕情が胸に甘く苦い痛みを呼びます。
 人が人を想うことは決して罪ではないのだけれど、 二人の優しさが疼いてしまうのでしょう。
 情感あふれる素敵なお話を堪能させていただきました!

ああ senjuさま

2019/05/26(Sun) 21:28 No.698
 未生さま、このタイミングでこんな素敵な情景を投下されるなんて。。。 どんなに心が動いても、もう間に合いません(苦笑。
 ですが、ひとこと告白させていただけるなら、私は未生さまの描く利広がとても好きです。 私の描く彼には(たとえお話に関係にない絵であっても) 未生さまの利広成分(笑)が含まれているんだろうなと、 このお話を読んで気が付きました。・・・遅いですねぇ。本当にいろいろ(笑。

誰のせい? ネムさま

2019/05/26(Sun) 21:57 No.699
 敵わぬ願いも、寂しい気持ちも、聞いてくれる人がいるだけで、どれだけ救いになることか。 それが分かっているから利広は黙って聞いていて、その想いの深さに涙するのですね。
 じんわりとするお話でした
(でも、利広を泣かせたのは陽子のせいなのかなと思った途端、某王様の人の悪い笑みと、 風来坊の太子様の壮絶な笑顔が頭に浮かんで、怖かったです… ^^;)

ご感想御礼 未生(管理人)

2019/05/29(Wed) 00:31 No.782
桜蓮さん>
 利陽をお気に召してくださりありがとうございます。
 利広はかの方を忘れない陽子主上を受け入れることでその心身を手にしています。 故にいつもかの方がそこにいることになりますね……。 自分で書いていて悲しくなってまいりました。
 散る桜が利陽のイメージ! 嬉しいお言葉をありがとうございます〜。 需要がないと思いつつ書き続けてまいりました甲斐がございました。 こちらこそご覧くださりありがとうございました。

文茶さん>
 そうなんです。泣き虫陽子はかの方と共に去りました。 けれど陽子主上は寄り添う利広に胸の内を明かせるようになっております。
 利広の涙はずっと書きたくて(なんといっても初筆が07年/笑)今回やっと書けました。 幸せそうに笑う陽子主上の本音もそのうち聞いてみたいと思います。 ご覧くださりありがとうございました。

葵さん>
 まあ、可愛いネコ型ロボットですこと。お膝へいらっしゃい〜。
 美しいコメントを拝見して涙ぐんでしまいました……。 ご覧くださりありがとうございました。

senjuさん>
 ああ、祭には間に合いませんが、妄想昇華はいつでもウェルカムでございますよ!  是非是非跡地または宝重庫に飾らせてくださいませ。お待ちいたしております。
 そして凄い告白を受けてしまいました……! ああありがとうございます!  senjuさんの描く利広には私成分が含まれているなんて光栄でございます〜。

ネムさん>
 ここまで心情を吐露してくれるようになったことに喜びも感じている利広がつい見せた涙。 ずっと書きたかったので最後に出せてうれしく思います。
 最後のお言葉で二人のにらみ合いを想像して私も少し怖くなりました(苦笑)。
 ご覧くださりありがとうございました。

 蛇足ですが、このお話、拍手の段階では枕語りでございました。 結構修正が大変だったことをここに記します……(苦笑)。
背景画像「素材屋 flower&clover」さま
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