「投稿作品集」 「12桜祭」

2年ぶりの参加です 五緒さま

2012/03/24(Sat) 21:56 No.78
 皆さまこんばんは。
 昨年は、諸事情で参加することができませんでしたが、 今年は創作脳が機能し始めたようで、一つ作品を書き上げることができました。

催花雨(さいかう)

五緒さま
2012/03/24(Sat) 22:00 No.79
 冬と春の狭間、陽子の好きな桜が咲く前には、雨が降ることが多くなる。
 それを「催花雨」と呼ぶのだとあの方が教えてくれた。


 いつだったか、僕が遠甫に会いに金波宮の太師邸へ伺ったとき、そこには先客がいた。
この国で陽子の次に忙しいであろうお方、浩瀚さまだった。
 
 お二人の話が終わるまで次の間で待とうとする僕に、雑談をしているだけだから一緒に、と誘っていただき、下での生活ぶりなどを訊ねられ、求められるままに話をした。

 話が一段落ついたところでお茶を頂いた。まろやかな味にほっと一息つくと、くすりと小さな笑いが響いた。音の出所を辿って視線を動かせば、柔和な眼差しで僕を見つめる浩瀚さまがいた。
 その眼差しは、かつて姉さんがそして陽子が僕へ向けてくれたものと同じように見えて、思わずどぎまぎしてしまった。

 何をうろたえているんだ、と内心で自分にツッコミをいれつつ、この状況を変える話題を何か提供しなくては、とめまぐるしく頭を働かせ、この時期の雨の多さについて訊ねてみようと思った。

 陽子の許を離れ下で生活を初めて数年経ったけれど、未だにこの国の季候がよく分からないのです、と切り出し、先程思いついたことをお二人に話した。
 すると遠甫は、国により多少の違いはあれど、木々や植物に目覚めを促すためこの時期には雨がよく降るのだと言われ、その後を引き継ぐように浩瀚さまが、今時分に降る雨には特別な呼び名があり、催花雨と言うらしい、と話してくださった。

 聞きなれない言葉と、いつも物事をはっきりと言われる浩瀚さまらしからぬ話し振りに首を傾げていると、少し離れたところにある小卓から筆と紙を持ってこられ、そこに文字を書きながら、これは主上から教えていただいた蓬莱の言葉なのだよ、と楽しそうに明かされた。

 真っ白な紙に書かれた「催花雨」の文字と、先程の遠甫の説明を頭の中で繰り返していると、まるで陽子みたいだな、と思った。

 主上のようだとは、と浩瀚さまに問われ、はっとした。口に出したつもりではなかったけれど、無意識に表に出していたらしい。
 照れ笑いを浮かべながら、陽子は名前や髪の色からよく太陽に例えられるけれど、冬のように何もかもが停滞しているこの国を目覚めさせようとしているところが、なんとなくこの言葉と合うなと思ったのです、と自分の考えたことをお二人に伝えた。
 すると、お二人とも顔を見合わせ、なるほど、と頷き、僕へ微笑みかけてくれた。

 僕の拙い思いをお二人に受け入れていただき、嬉しさに浸っていると、衝立の向こうから、桂桂、と呼ぶ声が聞こえた。
 姿を認める前に僕の周りに風が起こり、気がついたら優しく温かな腕に包まれていた。

 その様子を見ていた遠甫が、春の嵐のようじゃな、と呟き、僕と浩瀚さまの笑いを誘った。


 今日も雨が降っている。暖かく柔らかな音を立てながら。
 この国に潤いと恵みを授けるために。

 さあ、僕も自分に課せられたことを精一杯励もう。自分の思い描く「花」を咲かすために。

後書き 五緒さま

2012/03/24(Sat) 22:02 No.80
 できあがってみれば、当初頭の中で捏ねていたものと、 かなりかけ離れた話となりましたorz
 まあ、書き手のことは横に置いといて、 皆さまに楽しんでいただければ幸いです。
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背景画像 瑠璃さま
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