「投稿作品集」 「12桜祭」

慰安旅行 空さま

2012/04/12(Thu) 22:23 No.469
 使令労組シリーズ今年も投稿いたします(原作とは激しく異なります)

慰安旅行

空さま
2012/04/12(Thu) 22:41 No.470
 チチィ、ピィッ、ツイィーツツイィーツ、ピィピィピィ、チチチチチ……
 さえずる鳥の声も色々なら、その山にところどころ見えるピンク色の桜も様々な風合いを競っていた。
 ここは蓬莱のとある深い山の奥。まだ葉を持たない木々の間に見える沢のたまり水が、まるで雲に覆われているかのように白くかすんでいる。どうやら温泉が吹き出ていてあたりを湯気が覆っているようだ。人の入れる場所では無いらしく、周りには山以外の何もないところだった。
 そんな中で、人とは思えぬ声がしている。

「ああ、いい湯だなあ〜〜」
「ほんとうだな」
「たまにはいいよな」
「ジャジャッコ!」

慶国の使令四人、いや四匹か、は、なんと休暇をもらって蓬莱に来ていた。

「主上から色々お話をうかがっておいて良かったよな」
リーダー格の班渠が、ぶるんと身体を震わせ、湯からあがると大きな岩に腰をおろし、手先(前足)をぺろりとなめた。
「ああ、『温泉』の話やら、桜の花見のことやらだろ? おれも命の洗濯ができたぜ」
暖かい湯につかっていたせいなのか、そもそもそういった色なのか、赤い顔をした驃騎も岩に上がった。
 猿型の妖魔である重朔は、上に伸びていた木の枝をひょいとつかみその勢いを利用して、大岩のてっぺんに飛び乗った。
「しかし、本当に実現するとは思わなかったよ」
「うんうん」
「そうだなあ」
「ジャジャーコッコ」
そういって、その四人はしみじみ昨年の労使交渉を思い出した。

 昨年、景麒に向かって分会長だった冗祐は、粘り強く交渉を続け、ついに二日間の有給休暇を勝ち取った。え?今まで??もちろん、休暇は無い。年中無休の麒麟護衛集団に休暇等あるわけがないのだ。そこをねじ込んだのはもちろん訳がある。陽子が、どうせ休むなら、虚海を渡って蓬莱へ行ってくると良い、と入れ知恵したのだ。もとい、熱心に勧めたのだ。休暇をもらっても常世にいたのではどうせこき使われるだろう。自分に護衛はいらないから景麒にだけ使令を残して他の四人は慰安旅行に行かせてもらえ。と提案していたのだ。そして、冗祐もさるもの、労使交渉も終盤のころ、景麒に対して「殿下」の宝刀を抜いた。つまり、主上も認めていると言って迫ったのだ。景麒はそれを聞いてぐっと言葉に詰まり、大きなため息をつくと、慰安旅行を認めることにした。ただし、
「私は良いから、雀瑚を除いた他の四人から主上に一人付いて残るように。今回は分会長の冗祐、お前が残りなさい」
そういったのだ。
 そして今、かわいそうな冗祐を抜いた後の四人は、こうして蓬莱の山奥で桜を見ながら温泉につかっている。
「はあ、本当にいい湯だなあ。蓬莱ってところはすごいところだ。自然に風呂が沸くんだからなあ」
「本当だ。今年も主上が持たせてくれた宝玉の弁当、うまかったなあ」
「俺も、酔いが回ってきたぜ」
「ジャァ〜〜〜ッコ」
今年の弁当は、翡翠のまんじゅう、桃色水晶の桜餅(なぜか桜の葉は本物の塩漬け)、猫目石のお稲荷さんに、月長石のお結び。ラピスラズリとザクロ石のお漬物、と本当に色とりどりで沢山あったのだ。なんて幸せなんだろう、俺たちって。

「桜の好きな主上に、この山の桜、折って土産にするか?」
「お、班渠。お前たまにはいいこと言うなあ」
「なんだよ、重朔。『たまに』は余計だろ」
「おいおい、班渠も重朔もちょっと待て。雀瑚が何か言っている」
「ジャーージャコッコ、ジャコジャコジャーーーッコッコ」
「???」
「お前らなあ、長い付き合いなんだからいい加減雀瑚の言葉を理解しろよ」
「そんなことを言ったって、解るのは驃騎、お前だけなんだよ」
班渠がつぶやく。
「わかったよ。雀瑚は、桜は折るとすぐに枯れると冢宰が言っていた、と言うんだよ」
「へ?雀瑚、お前そんなこといつ聞いたんだ?」
「ジャージャァジャァジャー」
「先だって主上に抱っこされている時だってさ」
「お、いいなあ。俺も抱っこされてー」
「重朔、お前重すぎ」
「また、驃騎も重朔も!そういうのをセクハラっていうんだぜ」
「残念でした、班渠。本人が不快に思わなきゃ『セクハラ』とは言わないんです!主上はここにいないもんね」
「重朔お前、詳しいな」
「って、主上と冢宰が話してた」
「ど、どこで?」
「聞かないでくれ」
四人には、しばし気まずい沈黙が続いた。

少したって、
「まあ、主上と冢宰は仲がよろしいよな」
と、班渠が口火を切ると、
「そうだ。だからこうして俺たち慰安旅行で桜見物をしながら温泉に入れるんだぜ」
と驃騎がしたり顔で頷く。
「そう、それについては何の反論も持ってないよ」
と、重朔も後を追う。
「ジャージャッコ」
温泉につかりながら、雀瑚は深く縦に首をふった。

 他愛のないおしゃべりは、仕事の疲れをいやすには格別の効果があるようだ。

 等と言っている間に、王が倒れたりしなければ良いのですが。
 ま、大丈夫でしょう。
 常世には、かわいそうな冗祐もいるし、使令たちに噂の冢宰もいるし、きっと使役者の景麒も元気です。

おしまい!

あとがき 空さま

2012/04/12(Thu) 22:48 No.473
 鷲生智美さまの小説を読んで、 こんな能天気な話を投稿してよいのかどうか悩んだのですが、 使令労組シリーズはこちらのお祭で生まれた話なので、ついつい書いてしまいました。
 単なるギャグとして、独立した話として、お認めいただければ幸いです。
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