「投稿作品集」 「12桜祭」

メーデーに間に合いませんでした 空さま

2012/05/03(Thu) 17:32 No.836
 原作とは激しく異なります

慰安旅行

空さま
2012/05/03(Thu) 17:33 No.837
「え、すとらいき中止なの?」
拍子抜けした顔で重朔が驃騎に尋ねた。
「みたいだぜ」
「なんで?あれ、俺、割と好きだったんだよな〜」
「だよな、あの時ばかりは言いたいことを声高に言えるんだからな」
「そうそう。お、班渠じゃねえか。今年はいったいどうしたんだ?」
どさりと、四本の脚をたたみ使令集会室に班渠は腰を下ろした。
「ストライキ中止は俺たちの蓬莱行きが原因らしいぜ」
そう班渠がため息をつきながら言葉を吐き出すと、それきり目を閉じてしまった。
「え、なんでだよ。あれは分会長の冗祐が去年台輔と長時間の交渉の末に勝ち取ったものだったんだぜ。なんで、慰安旅行に行くとストライキができないんだよ」
「そうかっかするなよ、重朔。何か事情がありそうだぜ、な班渠?どうしたんだよ、しゃべってみろよ」
驃騎が自分の体の周りを一回りさせた自分の尾をぺろりとなめながら促した。
「ジャージャーコッコ!」
「ほら、雀瑚も気にするなって言ってるぜ」

「いや、ストライキをやめさせられたわけじゃないさ。肝心の交渉相手がいないんだよ」
そう、班渠は切り出した。
「へ?台輔、視察かなんかか?」
「重朔、お前のんきだな。もしそうだったら、俺たちのうちの誰かが台輔に付いていっているはずだろ」
「あ、そうか」
「ほら、組合の婦人部だよ」
「ぎょ、芥瑚か〜」
そこへ、主上に付いていた冗祐がふらふらと流体的な足をくねらせながら入ってきた。
「お前ら、聞いた?」
「なんだよ冗祐、聞いたって何を?」
「ああ、班渠か。今年はストライキは中止だ」
「その話なら、今班渠から聞いたぜ」
「なんだ、驃騎。そんなら話は早いな。だから今日は休みだそうだ」
「へ?冗祐。誰がそういったんだ?」
「主上だけど」
「ジャーココッコ??」
「ああ、雀瑚もいたか。驃騎、なんて言ってんだ?」
「だ、か、ら!もうちょっと雀瑚の言い方を研究しろよな。台輔と芥瑚がどうしたんだと聞いているんだよ」
「わかったよ、今説明するよ。お二人は主上の命で蓬莱へ視察に行ったんだ。と言うのは表向きでさ」
「おう」
「芥瑚が主上に泣きついたらしいよ?」
「へ、何て泣きついたんだ」
「お、班渠も興味あるのか?ほら、俺抜きで蓬莱に物見遊山に言っただろ?」
「あ、冗祐何て事を!あれは慰安旅行で当然の権利ってやつだぜ。ってもともとお前が勝ち取ったんだろうが!」
「そうだよ、重朔。そう怒るなよ、まあ俺のことを心配してくれるのは嬉しいけどさ」
「ジャージャジャ?」
「あ、先を言えってね、わかったよ雀瑚。台輔がかわいそうだって泣きついたのさ」
「「「「……」」」」
後の四人はそれを聞くと呆れて物が一瞬言えなくなった。
「そこで、主上が芥瑚に台輔と一緒に蓬莱へ行って温泉に入ってくるように勧めたんだってさ」
「「「あ〜〜〜」」」
「ジャ〜〜〜」
四人は台輔に負けずとも劣らないため息をついた。
「うちの婦人部は特別だからな〜」
班渠が知ったように言う。
「だよな〜最大で人数十二名以上には絶対ならないんだぜ」
冗祐も遠い目をした。
「このところ、圧倒的に十二名そろわねぇし……」
重朔も先を続ける。
「ジャージャージャーコッココ」
「ああ、俺もそう思う」
驃騎が雀瑚に相槌を打つ。そんな驃騎を冗祐が腕だか脚だかわからない浮遊した流動体で黙ってつついた。
「お、やめろよ急につつくのは。わかったよ、翻訳すればいいんだろ? 雀瑚は、婦人部は決して権利を主張しないと言ってたんだよ」
「だろうな」
訳知りの冗祐がつぶやいた。
「へ、どういうこと?」
「重朔、お前は知らないのか? 女怪が麒麟の母親代わりだって言うことを」
「ええっ!!そうだったの!!!」
「ああ、母の愛は何よりも強しってね。麒麟に対する愛情は盲目的らしいよ。それが却って災いを呼ぶ場合もあるくらいなんだってさ」
「「「「……」」」」
「ま、今回は主上も冢宰も認めているから、きっと大丈夫だろ?」
「へ、冗祐主上はともかく冢宰も認めているのか?」
不審そうに班渠が尋ねた。
「ああ、だから今日は使令を含めて完全公休日だそうだよ」
「あ、あのさ冗祐……」
「なんだい驃騎?」
「いや、何でも無い」
「なんだよ、はっきりってくれよ」
「ま、まあまあ冗祐、それじゃあ俺たちも休暇を楽しもうぜ」
「そうか?まあ今年度の分会長がそういうなら、この弁当も貰ってきたかいがあるかなあ」
「え、何何?!」
「重朔は食いしん坊だなあ。ほら主上がまた玉弁当出してくれたんだぜ。お小遣いをためてあがなってくれているらしいよ。主上は本当にいい人だなあ〜」
「ジャーコッココジャージャ!」
「って、ストライキ中止なんだから休暇を楽しもうってさ」
そうして、また五人分の素敵な弁当が開かれた。なんと、白メノウの上に金、銀、ザクロ石、桃色水晶、トラ目石、金剛石などの色とりどりの板が乗っていて、まるで蓬莱の江戸前寿司のようだった。が、『江戸前寿司』に似ていると言うことは使令たちには解らなかったようだ。それでも、見た目に美しく今までの物とはちょっと違うと言うことは彼らにもよくわかったのだ。
「おい、冢宰府の近くに満開の八重桜があっただろ。あそこへ行こうぜ」
「よし来た冗祐、行こう行こう」
「また、冢宰仕事してんじゃね?」
「大丈夫だよ、班渠。今日は完全休業日にするって冢宰が自ら言ったんだぞ!」
「へえ、冢宰も休むのか。珍しいこともあるもんだ」
 と独り言を言った後、班渠はふと気づいて驃騎と視線を交わし合った。

――俺達、だれも主上に付いていないってことだよな。王気をたどれる台輔もいないし。今日、主上は一体誰と何をしようとしているんだ??――

ふたりの心配はともかく、使令たちの宴会は今日も盛り上がっていたそうだ。

おしまい

あとがき 空さま

2012/05/03(Thu) 17:35 No.838
 すっかりロム参加ですみません。 感想はおろかまだ皆さんの投稿を見たり読んだりするのも追い付いていません。
 一日にも書いていたのですが、どうしても間に合いませんでした。 しかも、内容が無いよう……
 楽しんでいただければ幸いなのですが。 どうぞよろしくお願いいたします。
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