「投稿作品集」 「12桜祭」

なんと夢に見ました(笑) 饒筆さま

2012/05/10(Thu) 12:08 No.930
 度々失礼いたします〜。
 一昨日、やたらジェントルメンな浩瀚とホンワカ幸せな陽子さんの夢を見ました。 間違いなく空さまの影響(拙宅設定ではありえない・笑)だと思いますので、 「鉄は熱いうちに打て!」と連鎖妄想に仕上げてみました。
 No.897「雅なる迷夢の八重桜」の、陽子さん視点・ やや乙女なトキメキ仕立てでございます。 ジェントルメンがお仕えするに相応しい、イノセントな女王を目指して見ましたが・・・ 一気書きですので、空さまの繊細で温かなお話を壊していないことを祈ります。
 空さま、こんな感じだと思ったんですけど、いかがでしょう?(恐る恐る)

今度は一緒に夢を見ようね

饒筆さま
2012/05/10(Thu) 12:11 No.931
 それは口の端からほろりと零れた、無意識の愚痴だったのかもしれない。
「まだこの園林は寂しいね。いつ花が咲くんだろう?」
 慣れぬ場所、慣れぬ生活、慣れぬ人間関係――未だ馴染まぬ「王」という立場。四六時中気を張りっぱなしで、息が詰まっていた。
 特に返答は期待していなかったが、万事頼みの綱の冢宰は柔らかく微笑んで応えてくれた。
「主上、園林の端に梅が花をつけております。すぐ、あちらにございます桃も花が咲くかと思われます」
 他愛も無い言葉に労いが滲む。ありがとう、浩瀚。いつも気を遣ってくれて。
 少しほっとして、肩の力が抜ける。
「ああ、そうか。春だな」
「左様でございますね」
 浩瀚が軽く拱手する。
「梅、桃、とくれば、その次はやはり桜かな?」
 言いながら首を捻った。そう言えば、こちらに来てから桜を見ていないような気がする。
「はい、桜ならば冢宰府に渡る途中の園林がきっと美しいでしょう。大きな木が何本か植えられておりますので」
 こちらでも咲いていたんだ!!
 陽子の脳裏に、校庭の、河原の、公園の桜吹雪が鮮やかに蘇る。思わず身を乗り出した。
「本当? もし咲いたら、見に行ってもかまわないか」
「もちろんでございますとも。主上は桜がお好きですか?」
「好きだよ。でも、蓬莱の思い出と通じることが多くて、実はあまり大きな声で言いたく無いんだ」
 蓬莱の思い出はまだ生々しすぎて切ないから。積極的に思い出すのはもっと先にしようと決めていた。
 浩瀚が軽く眼を見開く。
「そのようなことはございません。どうぞお心のままに、なさってください」
 ああ、心配させちゃったかな……そうだ!せっかく桜の園があるのなら、ただ眺めるより、蓬莱流の花見をやって皆で楽しく盛り上がろう。そうしたらきっと、私もしみじみせずに済むだろう。
「そうか、うれしい。浩瀚、ありがとう」
 陽子はニッコリ笑って、執務に戻った。


 それからしばらくして、春の気配も濃く薫るように深まって。
 口には出さないけれど、今年はお花見ができるのだとワクワク楽しみにしていたら。
「せっかくの雅な御提案ですので、ぜひ雅な装いをしてくださいませ」と浩瀚が用意してくれた襦裙を見て、見事な肩透かしを受けた。
 思わず目を丸くする。
「これが桜の襦裙なのか?」
 色とりどりの絹布に描かれていたのは、全て八重桜だ。花弁の色も濃いものが多い。ちなみに、花びらが散っているものは一枚も無い。
 うん……まあ、確かに桜と言えば桜だ。八重桜だって、ぽってり可愛いし、ひらひらして華やかだよ? 芍薬や牡丹に似て、いかにも常世の人々が好みそうだ。花が散る意匠は不吉だと嫌がられるのかもしれない。それもわかる。わかるけれど。
――どうしてこんなにガッカリしてしまうんだろう。
「お気に召しませんでしたか?」
 懸念と落胆に翳る声。せっかくあれこれ慮って用意してくれたのに、我儘を言っちゃいけないよな。
 それでも浩瀚の目を正視できず、俯き加減で微笑んだ。
「そんなことは無い、ありがとう。そうだな、この中から選んで着て行くことにするよ」
「ありがたき幸せ」
「なんでも、御庫の中から探してくれたんだって? 慶の懐事情への気遣いありがとう」
 なにより、私の為にと花見の宴を準備している浩瀚が嬉しそうだから。(意外と宴会が好きなのかな?)私もその気持ちが嬉しいよ。どんな桜でも、花見はきっと楽しいよ。
 陽子は自分にそう言い聞かせ、沈んだ気持ちをあははと笑い飛ばした。


 花見と言えば。
 眩しい青空、明るい喧騒、ビニールのピクニックシートに手作りのお弁当。友達と行ったこともあるけれど、今、瞼に浮かぶのは家族で見上げた淡い花雲だ。
 おにぎりを片手に、時折吹く風で舞い散る花に目を細める。「綺麗だね」「ああ綺麗だな」「いいお天気で本当に良かったわ」……それだけで充分に幸せ。そして最後に、林檎のうさぎさんを齧りながら言うんだ。「また来年も来ようね」
 最後に家族で花見をしたのはいつだろう?
 そのとき約束した「来年」はもう二度と来ないんだ。


 思った通り、花見の席は咲き誇る八重桜の下に設えてられていた。
 華やかな襦裙に身を包んで薄化粧をすれば、自ずと気分も上がる。珍しい出で立ちを皆に褒められるのは面映ゆいけれど、園林にて大勢でとる昼餉は楽しかった。また見知った顔が増えた。膳夫たちの御馳走は、目にも舌にも美味しかった。そして最後に、参加者たちは「また来年も催しましょう」と口々に約してくれた。
 うん。やっぱり花見をやって良かったよ。
 薄紅の花雲も、舞い散る花弁も、おにぎりも、林檎の兎も無かったけれど。


 粛々と執務をこなしていると、先触れが冢宰の参内を告げた。
 なぜか硬い表情で、僅かに肩を落として跪礼する浩瀚に、陽子は柳眉を顰める。(あれ?お酒が進まない宴会は好きじゃなかった?)
「浩瀚、今日はありがとう、楽しかったよ。どうかしたのか?」
「恐れながら、主上はあまり楽しそうには見受けられませんでしたので」
「ああ、やはり私は思っていることが顔に出てしまうんだね。うん、それは申し訳なかった」
「とんでもございません。私の方こそ、差し出がましいことをしたのではと悔いております」
 違う。浩瀚に非は無いんだ。陽子はまっすぐに彼を見つめた。
「いや、浩瀚?」
「はい?」
「こちらで、桜といえば、八重桜のことなのか?」
「いえ、そうとは限りませんが、この金波宮には八重桜が多いようでございます」
「そうか」
 詫びなければならないのは私の方だ。結局最後までボタンをかけ違えたまま終わってしまって――浩瀚にこんな顔をさせるなんて。自分の思いをきちんと伝えなかったのが悪かった。
 静かな時が二人の間に流れる。今更だけど、素直に謝ろう。
「私はどうやら、八重桜ではない桜が好きだったようなんだ」
 浩瀚が瞠目した。
「誠に申し訳ございません」
「いや、冢宰を責めることはできないよ。襦裙もありがとう、あれも皆八重桜の模様だったね。お前が持ってきた時はずいぶん生地が薄いと思ったけれど、今日は日差しがあって昼餉と共に花を愛でようと思ったらちょうどよかったよ。申し訳ないのはこちらだ」
「いえ、臣として主上の御心をおはかりできなかったことは私の失態でございます」
「お前がそう言うならそうかもしれない。でもね、浩瀚?」
 ああ、なんて言ったらいいのかな。やっと芽吹いたこの気持ち。
「自分の好きな桜がこれではっきりしたことは良かったと思う」
「では、主上がお好きな桜とは?」
「うん、花弁が五枚であまり赤くなくて、花だけ先に咲き始める種類だ。確か蓬莱名ではソメイヨシノと言うんだ」
 そう。薄紅の花雲が見たい。
「そめいよしの、という桜は初めてお聞きしましたが、五枚の花弁で薄色の桜なら、自然の山に自生しているのではないかと存じます」
「そうなのか? 花弁が散る時は雪が舞うように見えるのか?」
「恐らくは」
 常世でも、舞い散る花弁はさぞ美しいだろう。
「そうか、きっと私が好きなのはそう言った種類の桜だと思う」
 陽子は窓の外に視線を移した。
「その桜はまだ山に行けば咲いているのかなあ?」
 お弁当を持って、見に行ける?
「申し訳ございません。恐らくすでに散っているかと存じます」
「そうか、八重桜の方が咲き始めるのが遅いんだね」
「確か、そう記憶しております」
 蓬莱と同じだ。
 そう思ったら、おへその辺りから喜びが込み上げてきた。
 山の中でいいよ。手入れなんかされてなくても、桜はとても綺麗だよ。空から舞い散る花弁を見上げ、目を細める自分が浮かぶ。
 厨房に入ったらまた景麒に小言を言われるかな……でも、小さなお弁当でいい。おにぎりと卵焼きくらいは作っていいよね?うちのは甘いけれど、口に合うかなあ? ああ勿論、林檎のうさぎさんは忘れちゃ駄目だ。
 手作り弁当を提げて――手を繋いで見に行こうよ。
 ねえ、浩瀚。
「来年で良い」
「は?」
「来年、どこかに咲いているのを見つけておいてくれ。それを見に行くよ」
「かしこまりまして」
「お前と一緒に見に行きたい」
 冢宰の顔がぱっと晴れる。陽子も晴れ晴れと笑う。
 蓬莱の家族と花見をすることはもう無いけれど。あの美しい花雲を一緒に見上げたいひとは、今、目の前に居るから。
 来年も、絶対に、花見をしようね。

<了>

あとがき 饒筆さま

2012/05/10(Thu) 12:13 No.932
 つまり、私の夢の中の浩陽は、 桜の下で仲良く並んでおにぎりやら林檎のうさぎさんやらを食べていたのです(笑)
 間違いなく来年は、あのおしどり夫婦神像がある祠(No.160ネムさま切り絵、 No.63空さま「麗なる森厳の神宝」)の側で、並んで座って食べてくれると思います。 (ほっこり)
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背景画像 瑠璃さま
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