「投稿作品集」 「16桜祭」

祝! 桜祭開催 griffonさま

2016/03/19(Sat) 18:56 No.4
 ついに今年も始まりましたね\(^o^)/
 これが始まると、「蓬莱にも春が来たな」と言う気持ちになります。 毎年楽しみにして……去年は来れませんでしたが……_| ̄|○  今年は、ガッツリ参加出来る……と良いな(^_^;)

 と言うわけで……投下いたします m(_ _)m
 錯王のご子息とご息女、ダークサイドではありませんが、暗い作風です。

花 芽

griffonさま
2016/03/19(Sat) 19:02 No.5
 荒涼とした風景が広がっていた。

 確かに人の手は入っている。入ってはいるのだが、そこには手を入れた人の欲する作物と言うものは無い。鋤を地面に叩き下ろす事によって作られた畝があるだけ。掘り返された土は養分も……いや水分をすら含んでいるようには見えず、畝は作られた先から更に乾燥し、何物の種も受付はしないのではないかと思えた。まるで土壌に意思があり、人を拒絶するかのような、そんな荒涼とした畑。耕す者の心を根本から圧し折るような土からの拒絶に抗うように、畝は続いている。荒れた畑の中ほどには男が一人立っていた。そして鋤の柄に両腕を載せ、凭れるような姿勢で、荒涼とした畝を眺めていた。傍らには女が一人蹲り、両手で掘り返された土から石礫を拾い出しては笊に避けると言う作業を繰り返していた。

 畝から顔を巡らせた男の視線の先は、畦道の交差点となる少し広い場所にある一本の木が立っていた。

 荒々しい樹肌が螺旋を描いてうねるように纏まるその木は、桜だった。桜の木の根元には小さな祠がある。男の記憶では、この数年花芽すらつけたこともなかった。おそらくは枯れているのだろう。この時期、淡い色合いの花の下、畑作業の休憩などで里家の人々が弁当を広げる憩いの場所でもあったのだが、愛でる花も咲かず、愛でる人も……今は居ない。

 王の存在しない国は、人の心を折ることに腐心しているとしか思えない。植えた先から腐ってゆく作物。耕しても耕しても、硬い土。夜中に妖魔がばら撒いているとしか思えないような土中に湧き出る石礫。一畝耕すまでもなく、石礫に潰される鋤の刃。心を癒やす草花や鳥の声を奪い、その遠い和やかで暖かな思い出の、残滓だけを見せつける風景。

 里家で農作業に耐えうる者は、もう彼ら二人きりだった。

 ―― それでもっ

 男は、辺境の衛士でしか無かった父を敬愛していた。愚直に与えられた仕事をこなすことしか出来ない父だった。そして愚昧な王としか……いや……それ以上に言語に絶する愚かしい王呼ばれる父が哀れだった。降って湧いた天啓は男の父を狂わせた。

 ―― 父が何をしたと言うのだ。器に合わぬ重責が、大好きだった父を狂わせた。出来ることなら、その天啓を降らせた天帝とやらを殴りつけてやりたかった。同時に、その父を止められなかった自分を殺してしまいたかった。父を諌められなかった自分には、自身を殺すよりも、天帝を殴り飛ばすよりもしなければならないことが、ある

 男は、鋤の柄を握ると振りかぶり眉を顰めて叩き下ろす。

―― 次の王に、この国を渡さねばないない

 土に埋まった刃を手前に引き、掘り返す。鋤を持ち上げようと力を込めたその時、傍らにいた女が小さく呟いた。

 「……兄様」

 怪訝な声色だった。両手で土を掬い上げ、それを突き出すように男に見せる。顰めた眉をそのままに、男はその手に載った土を見た。水分を含み、黒々とした土がその手にあり、ぼろりと親指ほどの塊が落ちた。そこから何かが蠢き覗く。

 「兄様。蚯蚓……蚯蚓が」

 耕され空気を含んだ土。ここ数年水気を含んだ土など見た記憶が無かった。男は、あまりにそれが無さすぎて黒々とした土が本当に土なのかと疑われるほどだった。そして蚯蚓。そんなものは居るはずが無かった。山から枯れ葉を集めて腐葉土とし混ぜてはいた。腐葉土を喰う蚯蚓ごと畑となる土地に混ぜるのだが、腐葉土すら乾燥した砂のように変える畑は、蚯蚓をも拒絶する。水分がなければ死ぬだけ。そのはずなのだ。

 ―― そう言えば、今日はまだ鋤の刃が欠けていない

 両膝をついた男は、女の差し出す土を手に取った。水分を含んだ土の香り。柔らかな手触り。手に載せた土の先に、桜の木が目に入った。枝先が仄かに赤みを帯びているように思えた。

 手に載った土を取り落とし、幽鬼の如く立ち上がった男はふらふらと桜の木に向かって歩いてゆく。不思議そうに顔を上げた女も、桜の木が目に入ると、同じく立ち上がり、ふらふらと後に続く。あるはずのない花芽が桜の枝にはあった。そして、その根本にある祠には、黄色の旗。

 ふたりは祠の前で跪くと、そのまま固まったように黄色の旗を見つめ続けた。

 枯れ木のようだった桜に花芽が色付き、その下の祠に揚がる麒麟旗。巧州国に春が訪れる日はそう遠くない。

―― 了 ――

花芽 あとがき griffonさま

2016/03/19(Sat) 19:06 No.6
 と、言うわけで……皆様お久ぶりでございます。 生存証明を投下させていただきました。

 例によって需要のないお話ですいません。CPもありません。しかも暗いお話で(._.)  登場人物は錯王の息子と娘・・・アニメ基準でしょうか・・・原作にも出てましたっけ(^_^;)  イマイチよく覚えてない・・・ゴメンふたりとも_| ̄|○

 一応2バージョン天啓がありました(笑)  今回のお話のバージョンと、陽子さんが巧の卵果がなったことを告げに来るバージョン。
 ただ、麒麟旗って確か里祠に揚がるんだったっけ?(^_^;)  畦の小さな祠にまで揚がるんかい?  ってツッコミは、とりあえず置いといて(笑)ください。
 うまくまとまった(?)と言うより、まぁどうにかなったのがこのバージョンです。 昨年の桜祭には、参加どころかリアルタイムで読みに伺うことすら出来ず…… とても寂しい思いをしましたので、今年はどうにか・・・

 それではまた・・・
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