「投稿作品集」 「16桜祭」

笑って許して頂けると<m(__)m> つくしさま

2016/03/29(Tue) 21:42 No.200
 漸く春の陽射しが戻って気温が上がり、ソメイヨシノの満開寸前! の福岡です。
 少し笑って頂けたらと思い、玄英宮でのドタバタ劇を。 桜に因んだと言えるのか・・・かなり無理な設定かと思いますが、 笑って許して頂けたら幸いです<m(__)m>

花より大根!?

つくしさま
2016/03/29(Tue) 21:44 No.201
「これは俺のだ! 手出すんじゃねぇ、このバカ殿!」
「何を言う! これは王への献上品だ。俺が食うのが当然だろうが!」
実に不毛な言い争いは、この玄英宮の主と僕(一応)のやり取りである。


慶長3年、1598年の春
時の太閤、豊臣秀吉は醍醐寺三宝院にて盛大な桜見の宴を催した。
後世に名高い「醍醐の花見」である。
正室・北政所、淀殿をはじめとする多数の側室達が桜とその美貌を競いあい、
秀吉のお声がかりで集められた料理の名人達がその腕を振るった。

京都三条に店を構え、「燻製名人」と謳われる栄佑もまた、この宴に自慢の料理を献上した一人だ。
彼は桜の木を使って燻製を作らせたら「日の本一」との評判だった。
「さぁ、早く帰らなければ! 夜は前田様の宴席予約が入っているし・・・」
近道をしようと、木立の中を抜けようとした栄佑は木の根に躓き、前のめりに倒れた。
「しまった!」と思った瞬間、体は冷たい海の中に投げ出された。
「う、うわぁ! み、水って? なんでだよ!」
生まれが琵琶湖畔であったために泳ぎは達者、その上、幸運にも持っていた大型の桶(料理を運ぶために持参していた物)にしがみつき、虚海を漂うことになった。

程なくして戴から雁への交易船に助けられ、しかも玉の取引交渉の帰路であった雁国冬官府の中級官吏が乗り合わせていた為、言葉が通じた。
栄佑は官吏に「戦国の世を統一した太閤殿下に料理を献上する料理人」と自己紹介したが、
仙である官吏には「大規模な内乱を鎮圧した偉大な国主お抱えの料理人」と理解された。
そんな立派な国主が重用する料理人なら、胎果の主上と台輔に蓬莱の料理を献上すれば、
きっとお褒めの言葉を頂けるに違いない。
ひいては出世の足掛かりになるやもと、官吏は栄佑を知合いの宿へ連れて行くと、大量の桜の木屑を与え、自慢の燻製の製作を命じたのだった。

「ほう、蓬莱の国主お抱えの料理人だと・・・」
「はい、主上。大層腕の良い料理人のようでございます。」と官吏が自慢げに答える。
「この度は台輔にも食して頂けますように、野菜の燻製を作らせてございます。」
「そいつは嬉しいな! 肉や魚じゃ俺は食えないからな、気が利くじゃないか!」
「はい! 台輔にお喜び頂け、恐悦至極にございます。」平伏する官吏。
「お? これは大根か? 美味いな!」と尚隆。
「うん! 美味い! 俺、これ気に入った!」六太が続けざまに口に放り込む。
大皿に美しく盛られていた数種の野菜の燻製は瞬く間に減ってゆく。
「おい! お前は魚や肉の燻製も食べられるんだから、残りは俺に寄こせよ!」
皿を奪って逃げようとする六太。
「また作らせれば良いではないか! こら!皿を持って逃げるな!」追う尚隆。

控えの間で王と台輔への謁見の許しが出るのを待っていた栄佑の前に、扉を蹴開けて登場したのが、冒頭の二人だったのだ。
「おいこら! 二人ともいい加減にせんか! 料理人を労うのが先だろうが!」怒鳴りながら帷湍が後を追ってくる。
突然扉から飛び出してきた三人と、その後ろからオロオロとついて来る自分を助けた官吏を唖然としながら見ていた栄佑だったが、ようやく我に返って慌てて伏礼した。

栄佑に気付き、ようやく止まった尚隆が鷹揚に声をかけた。
「突然見知らぬ国に来て難儀したであろう。これからは我が国で美味い物を民に教えてやってくれ! で、この燻製とはどのようにして作るのだ?」
その隙に六太は皿を持って逃走し、帷湍は怒鳴りながら後を追って行った。
残された気の毒な官吏は「俺の出世は消えたな・・・」と呟きながらトボトボと冬官府へと帰って行った。

栄佑はかの官吏から、この国の王は不老不死の上、120年近くも王座にあると聞いていた。
その王から直々に話しかけられ、当初緊張で固まっていた栄佑であったが、
尚隆の人懐っこい笑顔に、「太閤殿下と同じで、我らにも気安くお言葉をかけて下さる王様なんだなぁ・・・」と嬉しくなって、燻製の製法を語りだした。
「ほう、桜の木を砕いた木屑を燃やして香りを付けるのか・・・ 
桜にそんな使い方があるとは知らなんだなぁ〜 我が雁国には桜を沢山植えておる。
お前のお蔭で新たな交易品を作れるかもしれぬな。
さっき怒鳴り散らしながら走って行った地官長に、後で詳しい話をしてやってくれ!」


その騒ぎの数日後のこと

「大変です! 帷湍様〜! 大変です〜!」部下が帷湍の部屋に走り込んできた。
「こら、何を騒いでおる。アイツらが脱走したのは、とっくに知っておるわ!」
朱衡と打ち合わせをしていた帷湍が憮然として答える。
「違います! じ、仁重殿が火事なんです!」
「なんだと!」「なんですって!」帷湍と朱衡が椅子を蹴立てて走り出す。

「火の気がない仁重殿で火事とは・・・よもや謀反ではあるまいな!」
仁重殿の手前で禁軍の兵を率いてきた成笙と合流し、息も絶え絶えにたどり着くと、
奥まった離れからモクモクと大量の煙が上がっている。
成笙を先頭に踏み込んだ彼らが見た物は・・・

「なんだ? お前らも喰いに来たのか?」と大根の燻製を摘み上げ、呑気に振り返る尚隆と
大根をせっせと皿に盛り付けている六太の姿であった。
側では女怪の沃飛が翼を使って煙を部屋の外へと出している。
「なぁ、六太。栄佑がタケノコも美味いと申しておったぞ!」
「そりゃいいな! 来年の春はタケノコ掘ってきて作ろうぜ!」

「今日は出奔ではなく、燻製の材料を調達に出ていたということか・・・」と成笙。
「そのようですね・・・」朱衡が力なく頷く。
「この、大馬鹿モンが! お前らを燻製にしてくれるわ!!」
帷湍の大音量の怒声が玄英宮中に響き渡ったのでした・・・
                             

おしまい

後書き つくしさま

2016/03/29(Tue) 21:45 No.202
 燻製を作る際に「桜チップ」が良いのだと、何かの機会に知りました。
 桜って樹皮も綺麗で工芸品にも利用できるし、 木屑まで役に立つなんて凄いなぁ~って思ったのを思い出し、 頭に浮かんだのがこのお話でした。
 応仁の乱が1467年、その頃六太が幼児だったということは、 1598年の「醍醐の花見」は治世120年近くになるのでは? との設定です。
 野菜の燻製って意外と色々出来るようですね。 検索してみたら プチトマト、ソラマメ、干しイモとかを発見!  文中にある、大根とタケノコはメジャーな様でした。 私も食べてみたいです!
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