「投稿作品集」 「16桜祭」

大変今更ではございますが… 桜蓮さま

2016/04/28(Thu) 18:49 No.432
 未生様、今年も素敵なお祭りを開催していただき、どうもありがとうございます!
 あれよあれよという間に、もう桜前線が北の大地に到達したとか。 何だか年々日本列島を進む桜の足並みが早くなっていって、桜好きとしては寂しい限りですが、 こちらのお祭りを知ってからは、 近辺の桜が散ってしまってもずっと余韻に浸れるので本当に嬉しいです!
 脳内にもやついていた小話が形になりましたので、手土産代わりに持参いたしました。 桜、一片も咲いていないけど……桜に因んではおります。ハイ。

桜花桜葉

桜蓮さま
2016/04/28(Thu) 18:50 No.433
頭上に広がった空は、青く高く澄んでいた。
秋の深まりとともに朝晩はかなり冷え込むようになっていたが、それでも日が中天を過ぎたばかりのこの時刻、ふり注ぐ日差しは暖かい。
回廊の欄干にもたれ、そんな陽の光が作り出す庭院の陰影を眺めながら、桓堆はため息をついた。
――もう冬か……。
胸中で呟いた桓堆の視界を、色づいた葉が一枚、優雅に舞いながらよぎっていく。それを目で追い、桓堆は葉が落ちてきた方へと顔をめぐらせた。回廊の庇の上、大きく枝を広げた木には、秋色に染まった葉が今や数えるほどしか残っていなかった。
その様子にもの寂しさを感じ、再び息を吐く。

我ながら感傷的になっているという自覚はあった。その理由も分かっている。
今朝、配下の1人が『仙籍を返上したい』と申し出てきたのだ。麦州時代から苦楽を共にしてきた仲間、桓堆の感覚としてはもはや家族に近い存在の1人だった。
理由を問うと、昇仙時、彼が地上に残してきた弟の係累が、今、絶えそうになっているのだと答えた。そして、その最後の子孫になるであろう女性が、どうした偶然か、彼の母親によく似ているのだと。
『彼女の世話をして、ゆくゆくは看取ってやりたいのです……代わりというわけじゃないんですけど』
それが、遠い昔に亡くなった彼の実母を指しているのは明白だった。
磊落な人となりで、家族についてついぞ口にした事もなかった男の見せた透明でどこか悟り切った表情に、桓堆は言葉を失ったのだった。

赤楽朝の初期の頃とは異なり、王朝が安定して久しいこの頃、日常で老いや死を実感する機会は減っていた。だが、仙だとて冬器で首を切られれば死ぬし、心は……天の理によっていくら頑丈な肉体を得たとしても、元は『人』という強靭だが脆弱でもある生き物、年を重ねるにつれ、少しずつ老いて弱くなっていくのは避けられないのかもしれない。
――それは、仙だけじゃないか……。
神であろうと、そして王朝であろうと、いずれは衰退し終焉を迎える。終わりのないものなど、この世には存在しない。
当たり前なのに忘れていた事。それを久し振りにしみじみと感じていた。
胸に巣食うもやを吐き出すように、もうひとつ大きなため息をついた時だった。
「桓堆、お待たせ!」
朗らかな声と共に、回廊の奥から待ち人が現れた。
赤い髪を揺らし、小走りに駆けて来た主に、桓堆はもたれていた欄干から身を起こした。
「遅れてごめん。出かけに春官長に捕まって、時間を食ってしまった」
「いえ、さほど待ってはおりませんよ」
「何を見ていたんだ?」
ひらりと手を振って桓堆の立礼を解かせると、陽子はその肩越しに庭院を見やって、「あの桜の木?」と尋ねた。
「あれは桜の木なんですか?主上のお好きな?」
「そうだよ。何だ、分かって見ていたわけじゃないのか」
苦笑を浮かべて回廊を降りると、陽子は件の木に向かって歩き出した。
もちろん、分かっていたわけじゃない。桓堆にしてみれば、考え事をしながらたまたま視線がその辺りをさまよっていたに過ぎない。だが、何を思ったのか、陽子は木の根元に寄ると、桓堆を手招いた。
「あのな、分からない時にはこうするんだ」
背伸びをして、下の方に辛うじて残っていた葉を枝ごと引き寄せると、桓堆の鼻先にずいと近づける。
「ほら、桜餅の匂いがするだろう?」
王というより、子どもがささやかな知識を披露するように自慢げ告げられ、桓堆は一瞬絶句した。
やがて。
「―――ぶっ!」
「ぶっ?」
「くくくっ……あっはっはっ!」
大きな笑声が飛び出した。
それと共に、心の底にわだかまったもやが溶けて消えていくのが分かった。
「桓堆?」
「い、いえ、これは失礼を……。くくっ……主上はてっきり桜の花がお好きなのかと思っていたんですが…くっ…実は、食えぬ花より餅に使う葉の方がお好きなのかと」
「え、ちが……っ!」
「私にまで隠さなくてもいいでしょう。くっ……いや、食欲があるのは若い証ですね」
「桓堆!だから、そうじゃないって言ってるだろ!」
「ええ、ええ、分かっていますって」
答えながら、尚も俯いたまま肩を震わせる桓堆を見て、顔を赤らめて否定していた陽子の目がすっと半眼になり、足元に落ちる。
「――班渠、今日の『すとれす発散』は、手助けを許す」
――御意。
地面から響いた声に、桓堆はぎょっと身を竦めた。
「勘弁してくださいよ。主上だけでも最近は油断がならないっていうのに」
「我が禁軍左将軍が、この程度の枷で負けるとは思えないが」
にっと笑んで、陽子は脇につるした木刀を抜いた。
と同時に、桓堆の足元を黒い影が過ぎる。
「うわっ!」
「いくぞ!桓堆!」

木刀の打ち合う音が響き始めた庭院で、色づいた桜の葉がまた一枚、ふわりと落ちた。
だが、桓堆がそれを気に留める事は、もうなかった。

ち、違うんですよ? 桜蓮さま

2016/04/28(Thu) 18:51 No.434
道明寺
 お祭り初期の桜餅テロにやられたから思いついた話ってわけじゃないんですよ?(笑)

 というわけで(?)おまけで当地の桜餅写真です。 まごうことなき道明寺です。
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