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御題其の九十

鴻溶鏡の正しい使い方

「──あっ!」
 執務中にも係わらず、陽子は思わず声を上げた。景麒が訝しげな視線を送る。陽子は首を横に振り、何でもない、と応えを返した。
 鴻溶鏡が人にも使えたら誰を増やすか、漠然とそんなことを考えていた。誰を増やしても陽子の仕事が目に見えて楽になることはない。それならば──。
 伴侶を二人にしたら。二人とも気儘に出かけてしまいそう。己を二人にしたら。どちらが雁に行くか喧嘩してしまいそう。そう考えて溜息をついたのだ。けれど。

 陽子と尚隆、二人とも裂いて二人にすれば、どちらの国でも二人でいられる──。

 それこそが、鴻溶鏡の正しく且つ究極の使い道ではないか。そう思うだけで陽子の心臓はばくばくと大きな音を立てる。いつも一緒にいられたら、どうしよう。何をしよう。陽子は頬がかっと熱くなるのを感じた。しかし。
 この動揺を景麒に気づかせてはなるまい。陽子は真面目くさって仕事を続ける振りをした。それでも──。
「──主上」
「なんだ」
「お顔が赤いですよ。どうかなさいましたか?」
「あ、暑いんだよ。この堂室は暑くないか?」
「──いつもと変わりありませんが」
 景麒は顔色も変えずにそう返す。陽子は顔を蹙めた。そんな陽子に景麒は畳み掛ける。
「主上、真面目に仕事をなさってますよね?」
「もちろんだ」
 陽子は己の下僕しもべに尊大な応えを返した。景麒は深い溜息をつく。陽子は軽く咳払いし、鴻溶鏡の正しい使い道について考えることを棚上げしたのだった。

2008.06.17.
 うわぁ、随分と古いものの連鎖妄想ですね〜。 でも、思いついてしまったら書かずにはいられなくなってしまった……(笑)。 御題其の八十二「鴻溶鏡の使い道」の続編で ございます。(別窓開きます) お粗末でございました!

2008.06.17. 速世未生 記
(御題其の九十)

けろこさま

2008/06/19 22:28
 こんばんは。
 これは確かに正しい使い方かも…
 でも、鴻溶鏡の裂けば裂くほど能力が下がっていくっていうのは、どういう風に 発現するのだろう?
 もしかすると、二つに分裂したら1/2、三つに分裂したら1/3、五つだったら1/5、 と割り算だったりして(笑)
 とすると、尚隆と陽子の能力が1/2…
 政務をこなすのに倍の時間がかかる陽子さんと、逃亡能力が1/2になって逃げ出そうとして 官吏に捕まって政務に駆り出される延帝…
 同じ宮廷内にいても、お互い相手をしているヒマも、なにかしているヒマもありませんな(笑)

ひめさま

2008/06/19 23:18

 もう、いつまでもよそ様の宝重で遊ばないでくださいな〜(笑)

未生(管理人)

2008/06/20 06:15
けろこさん>
 確かに! そこに気づけ、陽子。でも、そう指摘したらきっと拗ねてしまうでしょうね(笑)。

ひめさん>
 はい、そろそろ止めにします〜。けれど、書かずにはいられなかったのですよ。 お粗末でございました(笑)。

 メッセージ、ありがとうございました!
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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