御題其の二百四十
夢幻の姿
「――夢を見たよ」
庭院に続く階を降りる足をふと止めて、伴侶は楽しげにそう言った。尚隆は頬を緩めてゆったりと問う。
「どんな夢なのだ?」
「私が大人で、あなたが十六歳だった」
階の一段上から少しだけ尚隆を見上げ、伴侶は微笑する。
「十六歳の私は、階一段分上にいてもまだあなたを見上げるけれど、十六歳のあなたはそこまで背が高くなくて、線が細くて、延王だなんて名乗られても信じられなかった」
あなたどう見ても高校生くらいじゃない、って怒鳴っていたよ、と伴侶はくすりと笑う。
「あなたは私のことを年増女とか言うから、最初から喧嘩になっていた」
尚隆は十六歳の己と大人の伴侶が対峙する様を想像して破顔した。
「なかなか面白そうだな」
「うん、面白かった」
伴侶は楽しげに答える。十六歳で時を止めた娘。その笑みを、大人の女に成長させてみる。匂やかに美しい様は魅力的だが、対する己が十六歳の悪餓鬼では、と苦笑した。
「面白そうだが」
尚隆は言葉を切った。永遠に見ることのない大人びた笑みを見つめながら、静かに続ける。
「恐らくお前は……子供の俺を好きになることはないのだろうな」
伴侶は大きく眼を瞠る。それから、尚隆の頬を両手で挟み、花ほころぶように笑った。
「――きっと、それでもあなたを好きになったと思う」
今度は尚隆が大きく眼を瞠る番だった。
「今日はえらく素直だな」
率直な感想を述べると、伴侶はくすりと笑って尚隆に身を預けた。
「――たまにはね」
胸に押しつけられた身体から、吐息のような声がした。触れていなければ届かぬだろうその微かな囁き。尚隆は笑みを浮かべ、伴侶の頭にそっと口づけた。
2017.09.04.
由都里さん、お誕生日おめでとうございます!
由都里さんの素敵な「16歳尚隆と大人陽子主上」のイラストに萌えて
この小品を書き始めたのは1月だったような気がいたします。
ほんと筆が遅くてごめんなさい……。
拙い小品ではございますが、お誕生日に捧げます。
よろしければお受け取りくださいませ。
さて、「祝12周年十二祭」、絶賛開催中でございます。
皆さまの素敵な「十二国で十二題」作品をお待ちしておりますね〜。
2017.09.04. 速世未生 記
(御題其の二百四十)
ありがとうございます!! 由都里さま
未生さん、SSありがとうございます…!!
不肖由都里、仙籍に入っていないのでまた一つ年を取ってしまいましたが、
こんな素敵なプレゼントを頂けるなら年を取るのがとても楽しいです!
そう、あれは今年1月。
ツイッターでリクエストがあった陽子さんと尚隆の年齢入れ替え絵を描いたんですよね。
「これはひどい原作ブレイクだから抗議を覚悟せねば」と思っていたら、
意外と皆様の受けが良く、それどころかこんな風にアレンジして頂けるなんて……
感謝感激です!! 生きててよかったです。
実は、この小説を見た瞬間頭が沸騰し、
本能の赴くまま連鎖妄想のSSを書き上げてしまいました。
もしよろしければお礼にお送りします。(失礼にならないと良いんですが……)
こちらこそ 未生(管理人)
由都里さん、拙作をお楽しみくださりありがとうございます。
由都里さんの萌えイラストのお蔭ですから!
私が書くと尚陽切ない仕様になってしまうのが悪い癖ですが……(苦笑)。
おっと、由都里さんの連鎖妄想SS,気になりますね!
どうぞお送りくだださいませ。楽しみにしております〜。
(というわけで、後日素敵な連鎖妄想小品をいただきました。
宝重庫に飾らせていただいております。
「影月」をご覧くださいませ〜)