「投稿作品」 「祝10周年帰山祭」

たいへん遅くなりました〜  饒筆さま

2015/09/18(Fri) 22:52 No.48
 こんばんは。肝心の献上品が遅れてしまい、申し訳ありません。 改めまして、十周年おめでとうございます!!

 当初の目論見からは逆方向にまとまりましたが、 櫨家の団欒に紛れ込んでしまった尚隆氏(肩身狭…)の小咄を陳列いたしますね。 どうぞご笑納ください。

「帰山で十題」其の七「次男三男」

それだけはご勘弁

饒筆さま
2015/09/18(Fri) 22:54 No.49
 炎暑が和らぎ、虫のお囃子が聞こえたら――奏南国の秋は盛大な観月祭から始まる。
 満月を映す鏡のような内海に星々に見立てた燈火を浮かべ、銘々飾り立てた船を出しては花びらを撒きながら進む。今宵ばかりは港も出店でいっぱいだ。辻々では旅の一座が舞い踊り、誰彼なく花飾りをかけられ、大路にごったがえす人々は皆気ままに飲み喰い笑っている。
 そんな心浮き立つ喧騒の中を、尚隆もまた鼻歌をうたいながらぶらぶら歩いていた。酒精は既に腹に納まり、頬を撫でる風は気だるく甘く、胸には可愛いコちゃんにかけられた花の首飾りが三つもかかっている。(浮かれすぎ)
 さて、次はどの酒店を冷やかそうかと首を伸ばしたとき、
「きゃっ!!」
 行く手から、若い娘の叫びが聞こえた。
「気をつけろい!!」
 見れば、身なりの良い娘が居丈高な大男から怒鳴られている。
「ご、ごめんなさい……」
 肩でもぶつかったのだろうか。娘は身を竦めて謝る。大男はフンと鼻を鳴らして立ち去ったが、すかさず優男が娘に近づいた。
「大丈夫かい、お嬢さん。乱暴な奴がいるもんだね」
 が。
 尚隆はその優男の手に光るものがあるのを見過ごさなかった。大股で近づき、
「おい」
 と低い声をかけ、問答無用で腕を捩じり上げる。
「イ、イタイイタイイタイッ!!」
 情けない悲鳴とともに掲げられた手に小刀があるのを見、周囲の人だかりがわっと身を引いた。尚隆は遠雷のごとく凄む。
「か弱いお嬢さんに刃を向けるとは、どういう料簡だ?」
 優男は言い返す根性もなく小刀を落とす。その瞬間、
「この野郎ぉッ!!」
 戻ってきた大男が背後から殴りかかってきた。やはりグルだったか。予め心積もりがあったため、振り向きざまに強烈な裏拳を顎へ叩き込んで、あっさり沈めてやった。そして抜け目なく、小刀を拾おうとする優男の手を踏んで押さえつける。勝負はついた。尚隆はニヤリと笑って優男を睨み据える。
「俺の生国は年中殺し合いをしていてな。その薄汚い首を刎ねるのは、俺には朝飯前なんだが……どうだ?この太刀の切れ味、試してみるか?」
 優男の瓜実顔がみるみる蒼ざめる。
 尚隆がわざともったいぶって鞘走らせるうちに、騒ぎを聞きつけた衛士たちがようやく駆けつけた。(遅いぞ)尚隆がその場を譲れば、怪しい二人組は慌てふためいて起き上がり、尻尾を丸めて逃げ出す。衛士の一手は彼らを追いかけ、もう一手は案の定、尚隆を取り囲んだ。
 ここで、ようやく件の娘が尚隆の前に進み出る。
「下がりなさい。この御方は何も悪くないの。わたくしを救ってくださったのよ」
 場違いな口調に周囲も尚隆も目を丸くした。しかし、衛士たちは大真面目に伏礼を始めた。
「こ、これは文姫さま!失礼いたしました!」
――はあ?!
 いきなりの公主出現に肝を抜かれ、野次馬も見物客も混乱しながらその場で額づく。その輪の中でただ一人「さてどうするかな」と呑気に構えていた尚隆は、これまた目敏く、別の優男が血相を変えてすっ飛んで来るのを見つけた。
「文姫!何があった?!大丈夫かい?」
 知己だ。できれば会わずに済ませたい類の。
「利広……」
 その呟きが聞こえたのか、相手も尚隆を認めてほろ苦い微笑を浮かべる。
「あ。風漢……なんで此処にいるかなあ」
「その台詞はそっくり返す」
 間に入る形になった文姫が、双方の顔をきょろきょろ見比べた。
「まあ!貴方、お兄さまのお知り合いなの?――じゃあ、丁度良かった!」
 きらきら輝く円らな瞳が、甘えるように尚隆を見上げた。(そう言えば、どことなく利広に似ている)
「ぜひうちの船にいらして!で、その前に、鳳梨茶の買い出しを手伝ってくださらない?ね♪貴方の分も入れて、七つも持たなきゃならないの」
 という訳で、尚隆は文姫に強引に腕を取られて鳳梨茶の夜店まで連行され、小振りな鳳梨(パイナップル)をくり抜いた器に満ちた冷茶を両手に提げるよう頼まれ(客遣いが荒い)、断り切れぬまま、櫨家ご一行が勢ぞろいする龍頭船に乗る羽目になったのだった。(嫌な予感しかしない)


 じうぅぅ〜。
 豪華絢爛な龍頭船に設えられた豪勢な宴席に、十二国にその名が轟く名君のご一家+最年長麒麟が居並び、全員揃って鳳梨を持ち、蓮茎をくわえて冷茶を吸い上げている……その光景はとても奇妙なのに、なぜかひどく壮観だった。
「さ、風漢さんもどうぞ。とっても美味しいのよ」
「……ではありがたく」
 隣に座った文姫に勧められ、尚隆も蓮茎をくわえた。じうぅ。甘ったるい。と同時に小さな玉が大量に口に入る――何だこれは?
「もしかして、タピオカは初めてでいらっしゃるの?」
「むふむむ(たぴおか)?」
 口の中の玉をぷちぷち噛み潰しながら率直に首を傾げれば、文姫は鼻を鳴らしてクスクス笑った。
「風漢さんって不思議。強くて格好良いのに、とても愛嬌がおありなのね」
「?(ゴクリ)そうですか?」
 こちらの身上がどこまでバレているのかはわからないが、尚隆は先達に敬意を払って答える。なにしろ完全にアウェイなのだ。それにしても。
――なぜ利広までが所在なさげに末席に座っているのだ?(下世話な暴露話なぞせんぞ?)
 なんとも解せぬ雰囲気である。
 そのとき、ぷっはー!よほど好きと見え、それまで無言で鳳梨茶を吸い続けていた宋王先新がようやく満足の息を吐いた。
「ああ美味かった。やっぱり、この店のはライチが多めでいいね母さん」
「ええ。わざわざ買いに行ってもらった甲斐がありましたね、お父さん」
 明嬉は彼女の大切な夫ににっこり微笑み返し、大きい子供たちを振り返る。
「さあさあみんな、晩御飯にしますよ」
 その掛け声で、一同は一斉に手を合わせて合唱した。
『いただきまーす!!』
――まるっきりお茶の間ではないか!(ええ、間違いなくお茶の間です)
 尚隆も一応手を合わせたものの、邪魔者感が半端ない。仕方なしに粛々と鳳梨茶の中の玉を殲滅する作業に没頭しようとしたが、さっそく先新から話を振られてしまった。
「(ピータンを摘みながら)実はね、風漢君。君の噂はかねがね聞いていたのだよ。ぜひ会いたいと思っていたから、君から訪ねてくれて嬉しいね。しかも今日は娘を助けてくれたそうじゃないか。いやあ、ありがとう」(大口でぱくり)
「いえ、それは光栄で……」
「本当に有難い御仁だよ。妹を放り出して消える馬鹿息子よりよっぽど頼りになるものねえ!」(飾り切り野菜をバリバリ)
 畏まった尚隆の返事は、片時も箸を置かずに繰り広げられる櫨家のマシンガントークによって掻き消された。
「だって母さん」(水餃子もぐもぐ)
「だってもへってもありませんよ!可愛い文姫に何かあってからでは遅いんだよ!」(きくらげを追加)
「まったくだ。いつになったら兄の自覚を持てるんだ?」(上海蟹を解体しながら)
「だったら、最初から達兄が一緒に行けば良かったんじゃ」(唐揚げむしゃむしゃ)
「広兄!そうやって自分を棚にあげるのがいけないの!反省してよ、ホントに怖かったんだからぁ」(上湯スープを可愛くすする)
「まあまあ。ご客人の前で喧嘩はやめないか」
 やいのやいの盛り上がった言い合いも、先新の鶴の一言で鎮まる。おお、と尚隆は内心で歓声をあげた。
――なるほど、これが一家団欒のお手本か。
 こういう場面は縁がないだけに、物珍しくて面白い。
 こっそり面白がられているのを知ってか知らずか、先新は蓮華に小籠包を乗せながら、相変わらず福福しい笑顔を尚隆に向けた。
「して、風漢君。文姫はどうだね?」(にこにこ)
「……はい?」
 尚隆はフカヒレへ伸ばした手を止める。なんだ、この風向きは。
「せっかくのご縁だ。お互いに嫌でないなら、どうだろうな――と思うのだがね」(ふふふ)
「……」
 尚隆が返答を迷う間に、櫨一家(次男を除く)は続々と畳みかけてきた。
「ああ、それは名案ですよお父さん。(利広を横目に)なにしろ次男がこんなんじゃ先が思いやられますからね、自慢の三男を迎えましょう」(くつくつ)
「ぜひ引き受けてもらいたいね。悪いようにはしないよ、風漢殿」(ニヤリ)
「私も風漢さんならいいわ。どうぞよろしくお願いします♪」(ぷーくすくす)
「ちょ、ちょっと!!」
 ついに利広が声を荒げた。
「みんな何を言っているのさ!え?文姫が風漢と?――(声が一オクターブ下がる)彼が僕の弟だって?あり得ないよ(ジト目)」
 カチンときたので、尚隆も負けじと白眼で睨み返す。
「文姫殿はともかく、利広が兄とは……」
 青龍の睨み、猛虎の唸り。そして緊迫のひと呼吸。
『それだけはご勘弁!!』
 ぴったり重なった二人の声に、櫨家一同は手を打って大笑いしたのだった。
「聞いていた以上に良いコンビじゃないか!」(あっはっはあ!)

<続きません・了>
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