朱に染まりし地に伏す獣
篝さま
2016/10/09(Sun) 23:05 No.312
――瞬間、声なき叫びを聞いた気が、した。
麒麟と女怪は強い絆で結ばれている。
それに対して、麒麟と使令のそれは、あくまでも契約のもとに築かれているに過ぎない合理的なもの。
それでもあの時、何かを感じ取ったように思えるのは気のせいなのだろうか。
*
我らの主にとって今世の王は二人目の王だ。
それがどういう意味を持つのか、それがどれだけ二人の関係に影響を及ぼすのか、我らには与り知らぬこと。
敵か、否か。
それだけがこの定められた枠組みの中の理であり、礎である。
その筈、だった。
だがしかし、主の状態に我ら自身も影響を受けることからから、身体の状況はもちろん、感情面でも多分に影響を受けているのではないかと、そう思ってしまう己がいる。
実際に主が声を上げていたわけではないのに、身を切るような悲痛な叫びが聞こえたように思えた。全身で感じ取った気がした。
五感を奪われ、今にも正体をなくすような。
主の感情のうねりに翻弄され混乱をきたす中、はっきりしていることはただ一つ。主がこんなにも感情を乱すのは唯一、王に関してのみ。
王にあだなす者を屠らんと陰から身を躍らせた同士をよそに、私は一人、冷静にこれまでの事を思い起こす。
かつて一度だけ、主命に背いたことがある。
出過ぎた真似をしたかと幾度となく己を責めたが、彼女が遙かなる旅路の果てに出し、辿り着いた答えに感謝した。
世の理から外れた存在でありながら、天に感謝した。
此度の事件が明らかにしたものはあまりにも多かった。
しかし、我らに出来ることは、他の何を捨ててでも主と王をお守り申し上げるのみ。
利害が一致しただけの関係だと言うかもしれない。
いつかその身を、喰らい食われるだけの関係なのだから、あまり深く立ち入るべきではないのかもしれない。
それでも尚、貴方が必要とするのなら、貴方方のためなら、喜んでこの身を剣とし、盾ともなろう。
我らはその為に存在するのだから。
願わくば限りない忠誠を。