「投稿作品」 「祝12周年十二祭」

お祭り開幕を祝して☆ 饒筆さま

2017/09/01(Fri) 23:12 No.5
 未生さま、楽しいお祭りを開催してくださり、ありがとうございます♪  開幕お祝いの花輪代わりに、楽しいギャグを贈りますね〜。 お題が被ってしまいました&もしおふざけが過ぎたらすみません。

御題其の二「小さくなった半身」

○○○の王さま <雁国ver>

饒筆さま

2017/09/01(Fri) 23:19 No.6
 眩しい。熱い。揺れている――炎だ。
 怖い。
 おどろおどろしい夢の中で、六太はぎゅっと身を縮めた。
 渦巻く風の悲鳴。何かが爆ぜる音。影が揺れる。炎がさかんに踊っている――
 王気が、揺らいだ。
 本物の恐怖が心臓を締め上げる。
――!!!!!
 六太は奇声をあげて跳ね起きた。
「尚隆うぅ!」
 四肢を奮い、もがくように寝台から抜け出、血相を変えて駆け出す。
 夜はすっきりと明け、辺りは清々しい明るさと日常の忙しなさに満ちている。
 折り悪く、行く手から甲高い悲鳴が聞こえた。
 あそこは尚隆の寝所だ。
 怯え、逸る心を抑えて、開け放たれた戸口から中へ跳び込む。
 そこで、六太が見たものは――
「しょ、尚隆……?!」
 どっしりと広い臥牀の上に胡坐をかいて座り込む、一人の少年だった。


 年の頃は六太と同じだろうか。意志の強い眉に、はしこそうな目を持ち、引き締まった身体は逞しく、これに人好きのする笑みでも浮かべればまさに尚隆にそっくり――
 いいや。六太は頭を振る。
 この少年からいつもの王気を感じる以上、彼は尚隆に違いない。
 六太は恐る恐る尋ねてみる。
「な、なあ尚隆……なんで子供に戻ったんだ?」
 少年は漆黒の目を瞬かせ、訝しげに首を傾げた。
「ショウリュウというのはだれだ?」
 六太の背筋がゾッと冷えた。少年は続けて訊く。
「そもそも、おまえはだれだ?」
 チクリと鋭い痛みが六太の胸を刺す。
「俺は六太だ!忘れたのか?」
「忘れるも何も。おれの知り合いに、頭がそんなにキラキラした奴はいない」
 う……っ。六太は息を詰めた。
――尚隆ぅ……俺のことも全部忘れたのかよぉ……(泣)
 遅れて駆けつけた侍官がまた吃驚の叫びをあげた。
 我に返った六太は、自分より先に室内に居た女官と小臣に目を向ける。
 蒼白な面の女官は震えながら説明した。
「さきほど枕元に手水をお持ちしましたところ、主上の御姿は無く、代わりにこの者?御方?がここにおりました……」
 寝ずの番をしていた小臣も、侵入者や怪しい出来事などは一切無かったと証言する。
 ……確かに、呪や何か穢れたものの痕跡は感じないが……。
「おい。六太とやら」
 すっかり姿を変えた主が、やっぱり変わらぬ口調で声をかけてきた。
「さっきからだれもかれも、おれの顔を見ては叫ぶんだが……なぜだ?そもそも、ここはどこだ?」
 一同に衝撃が走る。
 ここでようやく到着した朱衡に、六太は事情を説明した。
「寝台の子供は尚隆で間違いない。王気に問題は無い――でも、たぶん、尚隆は記憶まで子供に戻っている。雁のことは何も覚えていなさそうだ。蓬莱の話から始めないと、本人には状況がわからないと思う」
「なんと……」
 さすがの朱衡も言葉を失う中、六太は努めて冷静に主と向き合った。
「じゃあ三郎――若、と呼んだ方がいいか?」
「おう」
 少年はやっと返事をした。やはり。六太は冷や汗を滲ませる。
「心して聞いてくれ。おまえはこの国この城の王だ。昨日まで立派な大人だった。なのに今朝、いきなり子供になった」
「はあ?大人が子供になったぁ?そんな話聞いたことがないぞ……しかも、王?王というのは殿のことか?」
「そうだ」
 三郎は顔を曇らせた。
「俺が殿……ということは、親父も兄貴たちもみんなおっ死んだのか?」
「そうだ。小松は滅んだ。もう五百年も前にな」
「ごひゃくねん?!?!?!」
 少年は剥いた目を白黒させ、次いで後ろ頭をばりばりと掻いた。
「寝て覚めたら五百年か……なんだ、おれは竜宮城にさらわれたのか?」
「ここは竜宮城じゃない。陸(おか)の上の国だ。小松は滅んだがおまえは逃げのび、不老の呪いをかけられて、ここで一から国を興したんだ」
「ほお〜陸の上?尼子が黙っちゃいねえだろうに」
「尼子なんか目じゃねえぞ。おまえの国はもっと広い」
「まことか!すげぇな、おれ!」
 無邪気に自画自賛した後で、少年は室内に参集する大人たちをぐるりと見回し――きまり悪げに大きすぎる夜着をもぞもぞさせた。
「で――おれはどうすればいいんだ?」
 朱衡が進み出た。
「何もなさらなくて結構です」
 そのツンと冷たい口調に、少年はややムッとして反論する。
「でも、おれは殿なんだろう?本当に何もしなくていいのか?」
「いつものことです。皆慣れております故、しばらくは大丈夫です」
――ああ……うちの官らはいつも鍛えられているからな……。
 六太は瞑目する。朱衡は周囲の者たちに目を配りながら、テキパキと続ける。
「本日はご気分が優れないということで、この寝所に籠ってください。とにかく異変の原因がわかるまではおとなしくしていただきますよ?これから医師や玄師を呼びますので――」
「そうか!」
 話の途中で、少年は満面に朗らかな笑みを輝かせた。
「何にもしなくていいのなら――」
 少年が寝台の上ですっくと立ち上がる。ぶかぶかの夜着がばさりと脱げ落ちた。
「よし六太!城下に行くぞ!」
『ハァ?!』
「おれの国を見てみたい!」
 少年は高揚し、黒曜石の瞳に星を宿した。寝台から身軽に跳び降り、ホクホク顔で駆け寄って六太の手をとる。
「なあ六太、俺の国はどのくらい広いんだ?街(まち)はあるのか?何人住んでいるんだ?」
 矢継ぎ早に問いかける。
「え?ええっと……?」
「案内(あない)してくれよ!」(にかっ!)
 少年の笑顔があまりにも眩しくて、六太は一瞬呆けた。
 一方、朱衡は細い肩を震わせる。
「貴方という人はまったく……(わなわな)子供になっても全く変わりませんね!私の話をお聞きになっておられましたか?!」
「あ〜…ん〜…何だったかな……?」
 少年は目を逸らしてとぼけつつ、じりじりと戸口へ後ずさる。
「お待ちなさいッ」
 少年向かって伸びた腕は、サッとかわされて空を掴んだ。
「走れ六太!」
 少年は命じ、自らも脱兎のごとく走り出す。
 女官や侍官の脇をすり抜け、小臣の脛を蹴とばし、通せんぼする衛士の長杖をひょいと飛び越えて、瞬く間に戸口から姿を消す。
「じゃあな〜!日暮れにはもどるっ♪」(シュタッ!)
「ちょ、ちょっと待てよ尚隆ッ!!」
「主上?!」
「お戻りくださいッ!!」
 驚嘆や怒号が入り混じる中、女官のひときわ高い悲痛な叫びが響きわたる。
「しゅ、主上ッ!!!せめて下袴は穿いてくださいぃぃッ!!」
 あっはっはぁー!
 廊下の壁を伝って、愉快な声だけがそれに答えた。
「どこぞで干している褌でもハイシャクするから、案ずるなぁ!」(ヒャッホー☆)
 その姿はもう、どこにも見えない。


 かくして。
 その日、玄英宮では天官・武官総出にて、ぷりっぷりのお尻を晒した悪戯子猿を追い駆け回す羽目になったそうな。


<やはり猿王でいらっしゃいました・了?>
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背景画像「素材屋 flower&clover」さま
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