「投稿作品」 「祝12周年十二祭」

パクパク ネムさま

2017/09/03(Sun) 01:05 No.14
 饒筆さんの明るく輝くようなお祝いの花輪の隣に、暗〜い色合いの花輪を置かせて頂きます…  本当は御伽噺とか書きたかったのに、全然方向が違ってしまいました(><) しかも色々な話をパクっているしーパクリの最たるものが、 未生さんの“楽俊に案内させて壁落人先生と尚隆が知り合いになった”という設定です。 すみません、頂きまーす パクッ。

※ この話では、六太は犬狼真君が更夜らしいと知っている設定になってます。

御題其の八「呪」

雨夜の客

ネムさま

2017/09/03(Sun) 01:07 No.15
「止みそうにないな」
 軒を叩く雨の音に、尚隆が呟いた。
「今夜はお泊り下さい。舎館にはこちらに来ることを伝えてあるのでしょう」
 壁落人が言うと、尚隆はにやりと笑う。
「そうだな。あそこなら騎獣の心配も無さそうだし…今夜は先生と“雨夜の品定め”と洒落込むか」
「源氏ですか。残念ながら、私はそちらの方面はとんと不調法で」
「あいつらよりは増しだろう」
 尚隆が顎をしゃくる先では、六太と楽俊が菓子を摘まみながら、何やら話し込んでいる。そして気配に気付いたのか、顔を上げると手を振った。
「おい尚隆。巧でも雨の夜には、軒下に笠を掛けるんだってさ」
「笠?」
「ほら、ここへ来る途中、学校の向かいの家に小さな笠が掛かってただろう」
 それを聞いて、落人が頷いた。
「あそこは先月子供が事故で亡くなりました― そうですか、巧も喪中のお宅では、雨の夜には死者のために、笠を用意するのですね」
 楽俊も頷き、その拍子に尻尾も小さく縦に振られる。
「死者の魂魄がまだ彷徨っている内に雨に降られると、蒿里山へ着けなくなってしまう、だから喪中の家は雨の夜に死者の為の笠を用意するっていう話は、あちこちにあるみたいです。大学でも、おいらみたいに雁以外の国から来た連中が言ってました」
「そうだな… 笠だけでなく蓑も用意する所を知っているか」
 問い掛けた尚隆は、他の3人が顔を見合わせるのを見て、満足そうに笑う。
「戴と柳と芳は雨夜だけでなく、吹雪の日も笠を用意するから、その時は蓑も付ける。漣と、奏の南は真夏。雨の降りがあまりに強いせいらしい」
「ほお、北と南が逆の季節に同じことをしているとは、面白い」
「あ、そういう話なら― 舜と芳は、どっちの国も二つの海を越えないと蒿里山へ行けないから、魂が少しでも楽になるように、鳥の羽とか木の葉を笠に付けてやるんだって」
「それじゃあ、戴や漣でも“お守り”を付けてるかもしれませんね」
 楽俊が楽しそうに言うと、急に六太が声を落として問いかけた。
「そうすると、やっぱり…あの話もあるのかな」
「“雨夜の客”ですか」
 あっさりと落人が返したので、六太が肩を落とす。尚隆は笑いながら、卓上の酒杯に手を伸ばした。
「初めは、笠を軒下に掛けなかった家へ、死者が雨宿りに家の中へ入ろうとする―まぁ風習をお座成りにするなという戒めのような話だったそうだが」
「おいらが知っているのは、死んだ息子に会いたい母親がわざと笠を掛けなかったけど、たまたまその家に泊まった道士が追い返したって話ですよ」
 楽俊の話に、落人もお茶を淹れながら続ける。
「この話も、いろいろ種類があるようですよ。笠を掛けないのは死んだ恋人を待つ男とか、笠も惜しむ強欲者とか。でも大概、旅の道士や里の知恵者が死者を追い返しますね。
 そう言えば、艮県では、妖しに変じかけた死者を犬狼真君が捕え、蒿里山へ送り届けると、言い伝えられているそうですよ」
「あ、大学で才と恭から来た奴に、同じ話を聞きました。どちらも実家が白海沿いだそうだから、やっぱり四門の方…」
「そんなこと、ある訳無いだろ」
 突如、六太の怒ったような声が割り込んだ。
「犬狼真君ってのは、黄海から出ないって言うじゃないか。それに―」
 そのまま黙り込んだ六太を横目で見やりながら、尚隆はぽつりと言った。
「どちらにしろ、この話の言うことは同じだ。笠をやる代わりに家には入れない。入ろうとすれば追い返す。死者と生者は一緒にいられない。
 住む世界が異なれば、相見えることは出来ない」
六太の口が僅かに曲がるのに気付いたかどうか、尚隆は更に続ける。
「それでも死者の道行を気遣い笠を掛けてしまう。禁を犯して会おうとする。人はそういうもので、だから常世中に同じ話があるのだろう」
「…はい」
 落人が静かに頷いた。


 僅かな静寂の後、突然六太が顔を上げた。
「そう言えば、関弓で範から来た芝居をやるんだってな」
 妙に明るい六太の様子を不審に思いながらも、楽俊は相槌を打つ。
「そうそう、秋雨の時期、死んだ恋人のために恋の歌を書き込んだ笠を毎晩掛ける男の話ですね。観てきた連中が華やかな舞台だって興奮して―」
 しかしその後から陰にこもる声が続く。
「やたら派手な衣装を着た幽霊女が毎晩やって来て、訳の分からん甘ったるい歌を歌い合ったり泣き合ったりするうちに、結局取り殺される話だろう」
 何やら憔悴した尚隆の説明に、楽俊は思わず尋ねてしまった。
「…ご覧になられたんですか」
「あぁ。席の両側から、更に分からん解説付きでな」
 あまりに暗い尚隆の様子に、楽俊はつい声を励まして言った。
「あ、慶でも似たような芝居が出てるそうですよ。でもそっちは、幽霊を怖れた男が逃げて、追ってくる女と道士の対決が面白かったって、陽子が…」
「そうだ!死者も生者もそれ位の気概が無くては、いかん!偉いぞ、陽子!」
「いや、陽子が書いたわけでは…」
 二人のやり取りの横で、落人は笑いながら呟いた。
「常世版「牡丹灯籠」と「道成寺」ですか ―」
 気付くと楽俊が小首を傾げているので、落人は答えた。
「どちらも蓬莱の怪談です。いや ― 片方は崑崙の話が元だったとか」
 すると楽俊が嬉しげに背伸びした。
「おいら、前から知りたかったんですけど、蓬莱と崑崙は行き来があるんですか。二つの国の位置関係は ―」
 知識への意欲に満ちた小さな鼠へ、落人は微笑みながら、壁の棚へ手を伸ばす。
「以前、学生に同じことを聞かれて、説明に使った図があります。確か…」
 いくつかの綴りを抜き出した拍子に、脇にあった小さな匣が転がり落ちた。
「おや、こんな所に」
 屈んだ落人の手が、小さな房の付いた薄桃色の紐を拾い上げた。皆の視線に気付き、落人は目を伏せる。
「先ほど話に出た、学校の前の家の子供の物です。髪に結んでいたのが、川で流された時に解けたらしく、近所の皆と捜索した際に川原で見つけたのです。
お気に入りの紐だった… 騒ぎに紛れて、返しそびれていたな」
「そう言えば、それと同じような紐が付いていましたね、さっきの笠」
「やっぱり、お守りのつもりかな」
 六太が同意を求めて尚隆の方を向くと、尚隆は目を伏せ、何やら耳を澄ましている風情だった。皆も思わず、窓へ、戸口へ目を向ける。
外からは雨が強く屋根を、地面を叩く音。そして、それらに紛れて規則正しい何か ― か。


 突然、激しい水音、そして鳥の羽ばたきのような音がした。
「六太!!」
 尚隆が止めるにも拘わらず、六太は外へ飛び出した。
「更夜!?」
 見上げる空からは間断なく雨粒が降り注ぎ、闇夜にも光っている。その合間に一瞬影が見えた、気がした。
「更夜、更夜、更夜!!」
 大きな腕が六太を抱き止めた。六太は倒れるように、そのまま腕にしがみついた。
 傘を差して近付いてきた落人に、すっかり雨に濡れた尚隆が、六太の頭を抱えて微かに笑いかける。
「人は ―王も麒麟も ― こういうものだ、な」
「…はい」
 落人は頷き、傘を差し掛ける。
 明るい戸口では、楽俊が手拭を抱え待っていた。
感想ログ

背景画像「素材屋 flower&clover」さま
「投稿作品」 「祝12周年十二祭」