「祝12周年十二祭」 「宝重庫」 「玄関」

* * *  饒筆さまのコメント  * * *

 未生さま、たいへん長らくお待たせいたしました。
 昨年リクエストくださった芋掘り話、やっと完成でございます。 謹んで未生さまに進呈いたします〜!!
 元になったお話は未生さま作 「建国記念式典」で、慶国お留守番組視点だったのですが、 こちらの話は陽子さん視点で漣国で起きた愉快な出来事を綴っています。

 登場人物は健在な各国オール主従(戴はご無事に帰還した前提&奏は太子一人が代理出席) 作品傾向はギャグ
 カップリングは一切ありませんが、饒筆は漣国を南洋ポリネシアと勘違いしがちです (わざとです・笑)

 リアル蓬莱は寒い折ですが、当小咄の世界はホッカホカ♪です。 どうぞご笑納くださいませ!!

御題其の十一「建国記念式典」

本日はお日柄も良く♪

饒筆さま

 錦秋の慶を発ち、時計回りにぐるりと三つの国を、次いで虚海を飛び越えてやっと辿り着いた南の果て・漣国ではまだ名残の蝉が鳴いていた。
 慶とはまったく植生の違う彩り豊かな森に抱かれた雨潦宮は、宮殿の屋根が一際大きく柱は太く、壮麗と呼ぶより重厚でどっしりと落ち着いた印象だ。そして壁は少なく間口が広く、常に湿った風が吹き抜けている。
 美々しい礼服をきっちり着込んだ景王陽子は、当国の蒸し暑さに早くも辟易していた。
 我慢ならず嘆息し、額から垂れる汗を拭う。それから密かな期待を抱いて随行の女史を振り返ったが、元・北国の公主は初めて見る南国の風物に目を丸くしつつも、流石にしっとりと涼やかな面立ちで付き従っていた(えっ!)。普段から血が青いんじゃないかと疑われている冷血麒麟だって、言わずもがなのクールな能面だ(はあ?!)。
――な、なぜだ?二人とも暑くないのかッ?!
 陽子は唯一着替えに賛同してくれそうな桓?へ、縋るような目を向けた。だが、ダラダラ流れる汗で襟の色を変えている彼も、諦めきった顔を左右に振るだけだ。
――ここで駄々をこねても、どうせ慶国の威儀とか王宮の作法を盾に言い負かされるだけですよ……(諦念滲むテレパシー)
 陽子は天を仰ぐしかない。
――くそぉ……私には拒否権どころか、発言権すら無いのか……?
 ますます陰鬱に曇る尊顔を見、猛暑の国だけあって他国よりずっと簡素な官服に身を包む侍官がおおらかにとりなした。
「本来ならもう秋風が吹いてもいい時分なのですが、本日は特に暑うございますね……まあ、今年は秋がお昼寝でもしているのでしょう。そのうち良い風がまいりますよ」(ははは)
 王宮と同様どっしりと貫禄のある官たちは皆、当国の太陽のように笑んで陽子一行を迎える。交差する回廊の左右に広がる見晴らしの良い庭院には色鮮やかな花々が咲き乱れ、むせかえるような芳香をかき混ぜるように蝶が、そして恭しく跪く女御たちの薄絹が翻った。
――土地も人も良いところだなあ……なにより、あの薄着で許してもらえるところが羨ましい……(とほほ)
 陽子はもはや外面を取り繕うこともできず、ぶすっと押し黙って客殿の戸口を潜る。
 高台に設えられた開放的な客堂からは南国らしい淡色に輝く爽やかな雲海を見晴らすことができ、銘々心のままに寛いでいた先客たちが一斉に陽子を振り返った。
「――おや。陽子」
 聞き覚えのある声に面をあげれば、右前方の藤椅子に女装の麗人がしどけなく寄りかかっていた。氾王だ。そして相変わらず艶やかな微笑を陽子に投げかける。
「随分と暑そうだねえ。招待状の注意書きは読まなかったのかえ?」
「お久しぶりです、藍滌殿。もちろん読みましたが、こういうのは謙遜して書いてあるのだと家人が……あれ?皆さん、その格好は――?」
 この広い客堂には各国主従が錚々たる晴れ姿を並べているはず……だが、いつぞや堯天のうどん屋を電撃訪問したときに似たファビラスな平服の氾主従を筆頭に、これまたいつぞや関弓焼肉ツアーを敢行した時の着古した普段着を纏う延と六太、禁軍の訓練着らしき迷彩服で揃えた泰主従、これから登校するお嬢さんとその気弱な付き人風なのは供主従だろうか、そしてお上品なセレブ家族のホームコメディが始まりそうな采主従&奏の太子卓朗君の組み合わせ――ときて、陽子はその翠瞳を真ん丸に見開いた。
「やっぱり平服で良かったんですかあ?!」
「すまんな、陽子。ひと声かけてやれば良かった」
 見かねた延が歩み寄って来た。傍らの六太も後ろ頭を掻きながら詫びる。
「ごめん――てっきり知っているもんだと思っていたよ。漣の式典は特殊なんだ。そもそも服すら要らないくらいでさ。特に今回は、廉王たっての計らいで懇親会も一風変わっているみたいだぞ――なあ陽子、泥んこになっても良い服はあるか?」
「服が要らない?」
「泥んこ?!」
 次々に奇声をあげた景王一行を見上げ、氾は広げた扇の陰でホホホと笑う。
「そう、漣国の式典に礼服なぞ要らぬ。それこそがこちらの由緒正しき伝統なのじゃ」
 延もニヤリと破顔した。
「その様子じゃ、おまえたちこれから腰を抜かすぞ――ま、案ずることは無い。式典と言っても要は愉快な祭りだ。楽しめ」
「そうそう!そんな暗い顔しないで、思い切り楽しめばいいよ陽子」
――どういうこと??
 陽子は戸惑い、その場に立ち尽くす。
 そうこうするうちに、背後から穏やかな声がかかった。
「皆さま、大変長らくお待たせいたしました」
 驚いて振り向けば、これまた懐かしいたおやかな女性が立っていた。さらりと流れる金の髪、そして穏やかな笑顔――廉麟だ。
「わあ!久しぶりだね廉麟!」
「はい、お久しゅうございます景王様。その節はお世話になりました」
「こちらこそ」
 一礼する廉麟の脇には純朴そうな青年が、そして廊下には数多くの女御たちが控えているのを見、陽子たちは壁際へ下がって戸口を空ける。
 廉主従はそんな陽子たちに丁寧に礼を言い、各国主従の前に立った。
「本日ははるばる当国の建国記念式典にご参列いただき、ありがとうございます。主ともども心より感謝を申し上げます」
 廉麟が恭しく拱手すると、その髪に飾られた蘭がふわりと揺れ、甘い香りを振り撒く。
 その隣でニコニコしている頑健な青年が朗らかに続けた。
「初めまして、鴨世卓です。お忙しい中、遠路をお越しくださりありがとうございました。この喜ばしい日に皆さまをお迎えできて、俺も民も皆とても嬉しいです。本日はどうぞ漣国一の祭りをゆっくり楽しんでください」
 なるほど、この好青年こそが噂の破天荒な廉王か……一同の視線は彼とその奇抜な出で立ちに集中する。陽子をはじめ、生真面目な慶国一行は揃って絶句した。
 なにしろ――彼は霊鳥の羽冠と腰蓑だけを身に付けた、半裸スタイルだったのだ!!(さすが絶海の南国ッ!!)
――ま、まさかいつもこの格好じゃないわよね……?
――そりゃそうだろう。しかしアレが礼装とは……(汗)
 ざわめきが広がる中、廉麟はそつなく話を進める。
「当国の式典はこのとおり古式ゆかしい正装で行います。皆さまのお召し物もご準備いたしましたので、お召し換えをお願い申し上げます」
 廉麟に続いてぞろぞろと入室してくる女御たちが捧げ持ってきた盆には――
それぞれ、南国らしい花冠や華やかな染め布、そして廉王とお揃いのふさふさした腰蓑が鎮座していた。(私たちもあれを着るの?!by祥瓊・声の無い悲鳴)
 風向きが変わった。
 自らも色鮮やかな布を身に巻きつけ、花冠を被った陽子は露台へ駆けだす。谷を吹き上がる風が紅の髪をなぶる。
 天然の渓谷を階段状に加工した『王の谷』には、漣国全土から参集した各地各部族の代表者たちが古式に則った出で立ちでずらりと立ち並んでいた。立派な腰蓑に民族色の強い装身具、そして各部族を象徴する紋様を直接肌に描いた半裸の男たちがびっしりと陽に焼けた逞しい胸を張っている様はまさに雄壮、そしてまた、髪や腕にたっぷりと生花を飾った女たちが色鮮やかな染め布を揺らして踊る様は目が回るほどに華やかだ。
「すごい!!」
 陽子は翠瞳を輝かせて露台から身を乗り出した。崖上の高い位置に在る貴賓席からは『王の谷』の壮観が一望できる。
「落ちるなよ」
 初参加の後輩を放っておいたことを悔やんでか、ここへきて親身にアテンドしてくれる延は当然半裸に腰蓑姿で、振り返った陽子は花冠を揺らしてクスクス笑った。
「よくお似合いですよ」
「これはこれで涼しくていいぞ」
 蓬莱出身の剣豪はあっけらかんと笑い、南国の民に負けじと厚い胸板を張った。
 お人好しで力持ちの現・慶国左将軍も、名高き左将軍だった泰王もさすがに逞しさ勇ましさでは引けを取らず、意外にも男装を選んだ氾王も抜群のセンスでじゃらじゃら盛った装身具のお蔭で他とは違うロックでエッジィな色香を漂わせていた(「素敵!さすがですわ主上!」「ふふふ当然じゃ」)ため、当初懸念されたほど貴賓席の見栄えは悪くなかった(女性陣が美しい&可愛いのは言うに及ばす)。
 が――。
 誠に遺憾ながら、痩身、色白、断固非暴力の優男と三拍子揃った麒たちの腰蓑スタイルは見る影も無く、彼らは普段よりいっそう王の陰に隠れ、ひっそりと息を殺すしかないのであった。(あの、お願いですからこちらは見ないで……by泰麒)
 ひときわ熱い歓声があがった。
 力強い太鼓が鳴り響き、霊鳥の羽冠と真白いケープ、そして長い儀礼杖を携えた廉王が現れる。そして彼は集った観衆へニコニコ手を振りながら、向こう岸の祭壇に向かって石橋を渡り始めた。すると、人々は一様に手足を打ち鳴らして歌い始める。腹の底に打ち込むビートとそれに同調する低く猛々しい男声、それらに呼応する高く朗らかな女声が掛け合い、混ざり合い、原始の魂を呼び覚まして生命そのものへの賛歌となる。
 谷に満たす祝福の歌に、自ずと身が震える。感動が湧き上がり、陽子は思わず声をあげた。
「うわあ……なんて素晴らしい式なんだ!」
 同意を求めて傍らを見上げれば、延も目を細めて祝賀の歌舞に酔う人々を愛でていた。その柔らかな笑みからは、延もまた彼らと同じ至福を共有していることが察せられて……ああ、この名君は民草をこよなく愛する人だと改めて陽子はひとりごちた。
 邪魔はしないでおこう。そう思った陽子は鼻息荒く自身の随従を振り返る。
「なあ祥瓊!来て良かったと思わないか――」
 しかし。
 そこに在ったのは、あまりに異質な文化を受けとめきれず、「無」の表情で凝固した二名(景麒&祥瓊)と、その様子が可笑しくて堪らず腹を抱える半裸の左将軍であった。(ひぃひぃ←笑い過ぎ)
――なんて顔だよ……しかも二人揃って「気をつけ」しているし。(ぶふっ!)
 陽子もつられて吹き出す。
「主上、笑っちゃダメですよ」(くくっ)
「桓?こそ……もうその辺にしてやれよ」(ぶっくっく)
 風向きは変わった。そしてまだまだ猛烈に吹き抜けるのだ。
 『王の谷』での式典を大盛り上がりで終えた後、各国主従は「懇親会」と称し北宮の奥へと案内された。本来ならば後宮があり親族や貴妃が住まうはずのそこには、噂以上にだだっ広い農地と晴れ渡る空だけが在る。(ぽかーん……)
 景麒は三度度肝を抜かれて完全に黙り込んだ。(おまえ、今回まったくしゃべらないねby陽子)
 古式ゆかしき伝統衣装(笑)から、こざっぱりした野良着(今日は新品をおろしました・えっへんby世卓)に着替えた廉王が、驚くほど活き活きと説明を始める。
「俺は農夫ですので、俺の顔を立てておいでくださった皆様を国費でなく、ちゃんと俺自身がもてなしたいと思いまして、今回は『芋掘り懇親会』を開きます♪」
 いぇ〜い!!
 なぜかノリノリの卓朗君利広が拍手で応え(おまえ、なんか企んでいるだろby延)、各国主従も生温かい目で、あるいは左右を探ってそれに続いた。
「右はあの柵までずっとサツマイモ畑です。ご自由に好きなだけ掘ってください。さっそく焼いて食べましょう。一方、左はあらゆる種芋を育てている試験農園です」
 察しの良い王たちの顔色が変わった。(おっ!)
「芋はね、本当に個性が豊かなんです。暑い低湿地や涼しい高地、地味(ちみ)に乏しい赤土や海岸沿いの砂地など、いろんな土地でその土地に応じた芋が育ちます。これだけあれば、きっと皆様の御国に合った芋が見つかると思いますよ。今日は特別に、俺が今まで集めて来た種芋をお譲りします」
「それは有難い」
 真っ先に泰王が進み出た。
「厳しい寒冷地でも育ち、長く保存できる芋はないだろうか」
「それなら、そちらの馬鈴薯がいいかなあ……」
 さっそく大きな輪から外れて歩き出す極地の王二人を追い、供王珠晶も慌ててぴょんと跳びあがる。
「あっ、待って!あたしもその芋の説明を聞くわ」
 いそいそと付き従う大柄の宰輔がにこやかに尋ねた。
「やっぱり主上も気になりました?あの薄紫のお花、とっても可愛いですもんね〜♪」(ほのぼのきゅるるん)
「は?ナニ言っているの」(馬鹿?)
 しかし彼の主は至って現実的だった。
「花なんか食べられないでしょ?あたしが考えているのは芳への支援よ。寒冷地に向いているなら、ウチの北部で育てて芳へ送ってやるのはどうかしら。小麦より安上がりで、腹もちも良いかもしれないわ」
「……な、なるほど。左様でしたか」(しゅーん)
 英明かつ俊敏な小さな主を、肩をすぼめても大きすぎる宰輔がとぼとぼ追う様は一抹の哀れを感じさせたが、陽子は突然降って湧いた好機にさっそく算段をつける供王の背中を尊敬の眼差しで見送った。(すごい……やり手だ)
 残る主従たちは廉麟から藤籠を渡され、三々五々、思い思いに畑へ繰り出す。
 常時ほのぼのマイペースな采主従は自身が芋掘りをするのではなく、さっそく敷布を敷いて芋掘りする人々を見守りながらお茶をする用意をし始めた。(ま、中腰は腰にきますからね)
 そして、さりげなくというか、ちゃっかりその輪に入って干菓を齧っている卓朗君へ、陽子は律儀に声をかけた。
「利広殿。今回はこうして私たちに服を貸してくださって、本当にありがとうございました。助かりました」
 すると、利広は人好きのする笑みを浮かべた。
「いやいや、気にしないで。それ、ウチで流行中のイケ野良着を宣伝して来いって言われて持たされたヤツだから」
「イケ……?のらぎ??」(翠瞳ぱちくり)
 確かに、陽子たちが身に付けたそれはお出かけ用にしては簡素だし、野良着にしては派手過ぎる。
 利広はわざとらしく肩を竦めて由来を語った。
「そう。『イケ野良着』……私がちょっと留守にしている間に、『郊外で農作業体験つき』なんてお見合い会が流行ったのだって。その会に参加する男女が着るのが、そのイケ野良着さ。ねえ信じられるかい?奏ではもはや、農作業は娯楽なんだよ?」
「娯楽?!常世の主産業は農業でしょう?!」
 常世最貧国の女王は目から鱗を落とす。利広は相変わらず薄く笑った。
「そりゃビックリするよね〜。奏の農業は、多数の小作人を雇って経営するものか、給田を手放して都へ出た者たちの娯楽(れじゃー)でしかないのさ。だからこういう、廉王君がご自分の手でコツコツ耕した、まっとうな畑を見ると正直ホッとするね」
「なるほど……国によって事情は様々なんですね」
 勉強になるなあ。
 陽子は深く頷いた。が、ただ、景王陽子にとって利広のそれは贅沢すぎる悩みでしかない。
「私もそういう豊かな社会を目指して頑張ります」(ふぬ!)
「んん〜?なんか複雑だけど、応援はするよ。がんばって」(他人事)
 そうこうするうちに、芋畑の真ん中から威勢の良い声がかかる。
「陽子ぉ―!!そんなところで話し込んでいないで、芋掘ろうぜ〜!!」
 隣国の楽しい友達、否、なにかと構ってくれる頼れる大先輩・六太だ。
「うん!行く!!」
 陽子は朗らかに応じてから、借りた猫のようにおとなしい随従たちを誘った。
「よぉし桓?、山ほど掘るぞ!景麒は……土をいじる気ないな?(お坊ちゃまめ!)祥瓊はどうする?」
「私も掘るわ(溜め息)。野良着までお借りしたのに、取り澄まして立っている訳にもいかないしね」
「掘っているうちに楽しくなるよ♪」
 やや蒸し暑さは残るものの、空は青空、風は爽快。絶好の芋掘り日和である。
 なぜか堂に入った掘りっぷりで複数の立派な芋を一気に引き抜いた延が、自慢げにそれを掲げて見せた。
「見ろ陽子。どれもよく肥えてる。旨そうだ」
「わあ!本当ですね!(はぁと)」
「まったく、食べ物を前にしたときが一番良い笑顔だな」(苦笑)
「じゃあ私も掘るぞ〜!!」(聞いていない)
 陽子は腕を捲り、ようやく芋の蔓を掻き分ける。
 よく手入れされた土は解れやすく、容易くゴロゴロと芋が掘り出せた。
「焼き芋♪芋餡♪芋団子♪あとは大学芋に、スイートポテトおぉ♪」
 夢中で芋の山をつくる陽子の隣で、桓?がしみじみと呟く。
「さすがは王様のお芋、本当に立派ですねえ……実は御袋が甘藷好きなんで、少し持って帰ってやれたらいいのですが」
「じゃあ、お土産分も掘ろう!いいじゃないか、好きなだけ掘っていいんだから」
「えっ……いいんですかね……?」(さすがに遠慮ぎみ)
「きっと鈴も蘭桂も喜ぶぞ」(ほっくほくぅ♪)
 ますます高く積み上がる芋の山を眺め、陽子の陰に潜んでいた班渠は目を伏せる。(荷を負って走るのは俺ですけど……一体どれだけ積むおつもりなんですか……)
 一方、これまで調子よく収穫していた延主従は、天敵の接近によりその手が止まっていた。
「(ほほほ)さすがは小猿。見事な掘りようじゃが、せっかく採った芋が傷だらけではないか」
「ほんと、雑よね」
「自分で掘っていない奴に言われたくない!!」
 嫌味な奴ら(笑)に絡まれた半身を庇い、延は氾の前に立つ。そして、手際よく丁寧に芋を掘り出す氾の随従を顎で指した。
「そのとおりだ。何だ、あの者は。わざわざ農夫を連れてきたのか」
「何事も専門家に任せるのが一番じゃ。なにしろ、我らの芋はこれから一級の甘味(すいーつ)に仕立てるのでな」
『甘味(すいーつ)?!』
 少し離れたところで芋掘りに励んでいた慶の乙女二名が、思わず声をあげる。(女子の脊髄反射)
 氾は長い袖を押さえ、にこやかに乙女たちに白い手を振った。
「実は、事前にあの注意書きの意図を尋ねておったのじゃ。当国の菓子職人が厨房で準備しておるゆえ、芋掘りの後は我が国自慢の美しき甘味を存分に召し上がれ」
「わああ!やった!ありがとうございます!!」(今日一番のキラッキラの笑顔☆)
「……陽子、おまえ本当に食い気しかないんだな……」(憮然)
 澄んだ空まで明るい笑い声が届く。
 こうして、この後催された、ほぼ氾主催の洒落たお茶会も含め、漣国建国記念式典及び懇親会はつつがなく、また楽しく終了したのであった。
 出立の朝、陽子はお見送りの廉主従に満面の笑顔で謝意を伝えた。
「ありがとうございました!本当に楽しかったです……芋掘り大会!」
 すると女史が慌てて口を添える。
「芋掘り大会じゃなくて、建国記念式典にお呼ばれしたんでしょ!!」
「あっ、そうか。すみません」
 一同は屈託なく笑った。それから世卓が朗らかに答える。
「いやあ、構いませんよ。俺としても芋を褒めてもらった方が嬉しいです」(えへへ)
 これには廉麟がむくれてみせた。
「主上ったら。少しは王様らしくしてくださいませ」
「ごめんなさい。でも嘘はつけないよ」
 あはははは!再び笑い声が弾ける。
 思えば、今回の滞在中、笑いが絶えることはなかった。
 こうして、顰め面と嘆息から始まった陽子の初めての漣国行きは無事、楽しい笑顔で幕を閉じたのだった。

<良かったね陽子さん・了>
 昨年の「祝12周年十二祭」に投稿した「十二国で十二題」其の十一「建国記念式典」に 「蘭筆乱文」饒筆さんが秀逸なご感想をくださりました。 あまりに素晴らしかったものですから「その妄想を書いてください!」と お願いいたしました。そして出来上がったのがこの作品でございます!
 さすが饒筆さん! 意外なる南国の正装、待望のイケ野良着、もう腹筋が壊れそう……(笑)。 管理人のおねだりにお応えくださりありがとうございました!  ほんと楽しいお話でございました〜。

(無断転載厳禁。勝手にお持ち帰らないでくださいね!)

饒筆さまの素敵なサイト「蘭筆乱文」は 祭リンク集 からどうぞ

2018.12.22. 速世未生 記
背景画像「素材屋 flower&clover」さま
「祝12周年十二祭」 「宝重庫」 「玄関」